第18話 選ばれし神
始業のベルがなり、このクラスの担任と思われる先生が入ってきた。その先生は圧倒的な美人であり、おれはつい注目してしまう。
おっとりとしたタイプの女性であり、髪の色は紫でふわふわしたセミロング。年齢はおそらく二十代前半で、スタイルも良い。そして、つい視線が言ってしまうのはその豊かな胸であり、とてもでかい。英語で言うと、TOTEMODEKAI。
その美しさからついおれの人生のメインヒロインの一人と言いたくなるところだが、この先生はサブヒロインと言ったところだろう。というか、なにかこの先生には違和感がある。
うまく言えないが、なんというか、この先生は誰か一人が独占していい存在ではない。なぜかは分からないが、おれにはそんな予感がしていた。
「みなさ~ん、先生がこのクラスの担任のルミル・フェアリムで~す。よろしくね~」
ルミル先生はその見た目通りにゆったりとした口調で自己紹介をした。そして、美人の先生ということもあってか、教室内の男子はややざわついている。特に、朝早くから教卓前の席にいた十人弱の男子生徒は盛り上がっているように見えた。
「え~と、まだ入学式まで少し時間があるし、みんなが気になってそうなことを最初に話そうと思いま~す。というわけでみんな~、自分の右肩を見てくださ~い」
その言葉に従いおれは自分の制服の右肩部分を見る。すると、そこには星形の紋章が一つあった。どうやら、先日制服を見たときはこの紋章を見落としていたようだ。
そういえば、実技試験のときは試験官が星形のプレートを付けていたから、この星はこの学院の校章なのか? しかし、周囲を見渡すと、他の人は星形の紋章が複数付いていた。人それぞれ数が違うということは、さっきのおれの予想は外れのようだ。
そして、ルミル先生がこの星形の紋章の正体を話し始めた。
「その星形の紋章の数はみんなの保有魔法数、さらに言うならみんなの魔術師としてのランクを表してま~す。下から順に一星・二星・三星・四星・五星・六星・七星・八星・九星で、読み方は順にシングル・ダブル・トリプル・クアドラ・クインタ・セクスタ・セプタ・オクタ・ノナで~す」
ああ、そういえば、昔師匠に聞いたことがあった気がするなあ、この呼び方。
「ちなみに~、先生は一応、高ランクの八星魔術師で~す。でも、先生には戦闘のセンスがあまりないから、ランクの割に強くはないんだけどね~」
ルミル先生はそう言ったあと、「てへへ~」と恥ずかしそうに笑った。
「それと~、たまに自分のランクが高いからってランクの低い人を馬鹿にしたりとかする人がいま~す。けど~、そういうのは駄目ですからね~。もし、見つけたら先生は叱りますよ~。そういうのはめっ! ですからね~。めっ!」
ルミル先生はまるで小さな子どもを叱るかのように人差し指を前に突き出しながらそう言った。なにそれ可愛い。むしろ叱られたい。
そう思ったのはおれだけではないようで、おれと似たようなことを呟いたりしている男子生徒が何人かいた。特に、教卓前に席にいる男子生徒達のざわつきは大きかった。
その反応で、おれはあの男子生徒達の正体を理解できたような気がした。恐らくだが、あの男子生徒達はルミル先生のファンであり、先生がこのクラスの担任になるという情報を掴んでいたのだろう。
そして、ルミル先生の姿を間近で拝むために、朝早くから教卓前の机に陣取っていた、といったところか。もしかすると、ルミル先生のファンクラブなる物がこの学院には存在するのかもしれない。
そう考えると、おれが最初にルミル先生を見たときに「この先生は誰か一人が独占していい存在ではない」と思った理由にも納得できる気がした。
そう、ルミル先生は誰かのルミル先生ではない。みんなのルミル先生なんだ。そう思わせるオーラのような物を、おれはルミル先生から感じていた。
あと、こんなに美人な先生がいるなら、おれも教卓前の席に座りたかったなあ。まあ、おれは両隣に美少女がいるし、さすがにそれは贅沢すぎるか。
「それでは~、そろそろ入学式の時間になるので最後に先生から一言~。みんなはこれからこの魔法学院で三年間勉強をしま~す。そして~、卒業するときには優秀な魔術師になれるようにしましょう~」
その後、ルミル先生は右手をぐっと握りしめて次の言葉を発した。
「じゃあ~、そういうわけでみんなで頑張ろ~。いくよ~。えいっえいっお~!」
そう言って、ルミル先生は握りしめた右手を大きく上に挙げ、その動きで先生の大きな胸が上下に揺れた。
そんな先生の姿を見て女子生徒達は控えめに、男子生徒達はやや大きめに右手を上に挙げた。
そして、例の教卓前の男子生徒達は席から立ち上がり、右手を大きく上に挙げ、「うおおおおおおおおおお!!」と叫んでいた。
その様は、まるで「俺達は選ばれし神の子!! ルミルの民だ!!」と言わんばかりであり、それを見たルミル先生は「元気があっていいですね~」と言いながら、パチパチパチと拍手をしていた。
しかし、あれだな。ルミル先生が可愛いからああいう反応をするのも理解できるのだが、さすがにもう少し自重したほうがいいのではないだろうか? もっと人目が少ないところならいいだろうが、ここは教室なんだし。
そう思っていると、リミアがおれのことを見上げながら声をかけてきた。
「レインさんはすごいやる気ですね。わたしもレインさんを見習って頑張ります」
「ああ、そうだな。頑張ろう」
そして、今度はサフィアがおれのことを見上げながら声をかけてきた。
「ねえ、あの前の男子達もそうだけど、あなたもなんでわざわざ席から立ち上がってるの?」
そう言われ自分の姿を確認すると、おれは思い切り席から立ち上がり、右手を高々と上に突き上げていた。もしかすると、おれも自覚がなかっただけで「うおおおおおおおおおお!!」と叫んでいたかもしれない。
……ふむ、どうやらおれも「選ばれし神の子。ルミルの民」だったようだ。