第179話 レインとサフィア
おれがリミアと一夜をともにした後の朝。
閉め切ったカーテンの隙間からわずかに日の光が差し込み、窓の外からはスズメがチュンチュンと鳴いている声が聞こえてくる。その声を聞き、おれは「朝チュンは逃げです」という言葉を思い出していた。
だが、逃げるが勝ちという言葉もあるし、逃げるしか選択肢がないという状況もある。つまり、今おれがこうして朝にスズメの鳴き声を聞いているのは、きっとそういうことなのだろう。
*****
――と、そんな出来事があってから一週間が経過した週末。今日はサフィアとのデートの日だ。やはり、楽しい時間というのはあっという間であり、気付けば辺りは真っ暗になっていた。
「改めて、誕生日おめでと、レイン」
「ありがとな、サフィア」
「それで、この後はどうするの? そろそろ帰る?」
「そうだな……」
「……? なんだか難しそうな顔してるけどどうかしたの? なにか悩みがあるなら聞くわよ」
そう言って、サフィアは心配そうな顔でおれを見た。見られたおれのほうはというと、サフィアの言う通り悩みがある。なにが悩みって、先週リミアにプロポーズした以上、おれは今日サフィアにプロポーズすべきだよな。
だが、そのためにはまず場所という物がある。さすがに、周囲に人がいる状況でプロポーズする度胸はないので、まずは二人きりになれる場所に行くべきだろう。
「とりあえず、もう少し歩かないか?」
「ええ、いいけど」
サフィアに了承はもらえたので、おれ達はしばし街を歩く。王都というだけはあり夜でも多くの人が出歩いているので、なるべく人気のないところにいかなくては。
「……ねえ、レイン」
「どうした?」
「なんだか、さっきからどんどん変な場所に向かってるんだけど」
「……え?」
サフィアにそう言われ、おれは周囲を見回した。そこにあるのはいわゆるラブなホテルだらけであり、つまりここはそういう場所なのだろう。人気のないところに行こうとばかり考えていたら、こんなところに来てしまったみたいだ。
「あなた、まさか……」
「い、いや、違う! おれは別に変なことは考えていない! ただ、二人きりになれる場所を探していただけだ!」
「ホントかしら?」
サフィアがジト目でおれのことを見る。い、イカン、プロポーズをしようと思っていたのに、これではそんなことができる雰囲気ではなくなってしまう。どう弁明すべきか悩んでいると、頬を赤くしたサフィアがなにかをボソッとつぶやいた。
「……ま、まあ、あなたがどうしてもっていうなら、あたしはそういうことをしてあげなくもないけど……」
「今なんて?」
「…………二人きりになりたいなら、ここでいいでしょって言ったのよ」
近くにあるホテルの一つを指さしながら、サフィアはそう言った。
「……え、いいの?」
「変なことは考えてないんでしょ。なら、別にいいじゃない。ほら、行くわよ」
そう言うと、サフィアはおれの手を取りホテルの中へと引っ張っていった。
*****
あわわわわわわわわわわ……。現在のおれはベッドに一人で座って震えていた。とりあえず、「シャワーでも浴びてきなさいよ」とサフィアに言われ、先におれが浴びた。そして、今はサフィアがシャワーを浴びている。
なにこれ、なんかもう完全にそういうことをする流れになってません、これ!? 先週もあったよ、こんな展開、どうしてこうなった!? まあ、別にそういう展開になってもいいし、なったとして場所が場所だからなんの問題もないけどね!
「お待たせ」
シャワーの後ということでバスローブを身に纏ったサフィアがおれの隣に座った。リミアのときと違い胸元はちゃんと閉まっているので、サフィアもノーブラかどうかは分からない。というか、胸の大きさ的にもし胸元が緩めだったら色々と見えちゃうよな。
「それで?」
「え、それでって?」
「なにか話があるから二人きりになりたかったんじゃないの?」
「あ、ああ、そういうことか。うん、そう、ちょっと話があってな」
さて、ここからだ。ここから、どうにかしてサフィアにプロポーズをしなければ。




