第177話 母親の勘
これは、リミアが魔法学院に入学する一年ほど前のお話。夕食を食べ終えたリミアは、自分の将来について両親に話すことにした。
「……あのね、お母さん、お父さん。……わたし魔法学院に入学したいって思ってるの」
「……! あらあら、リミアちゃんったら急に――」
「ど、ど、ど、どうしたんだ、リミア!? というか、魔法学院って王都にあるやつだろ!? 駄目だぞ、可愛い娘がこの村から出て行くなんてお父さんは反対――」
「あなた、うるさいです。少し黙っててください」
「あ、はい、すいません」
ミアラの射るような鋭い視線と言葉に父は押し黙った。
「改めて、リミアちゃんったら急にどうしたの? 魔法学院に入学したいって思った理由は?」
「……えっと、この前王都から来た旅人さんがこの村に寄ったことがあったでしょ?」
「ええ、そうね。それで?」
「その旅人さんが言ってたんだけど、魔法を覚えて騎士団に入ればたくさんお金が稼げるんだって。だから、まずは魔法学院で魔法を勉強して将来は騎士団に入る。そして、騎士団で稼いだお金でわたし達の住んでいるこの村の暮らしを少しでも良くしたいの」
「……!! リミアちゃ――」
「リミアーーーーー!! お前って子はなんて良い子なんだ!! まさに、神がこの村に遣わせた天使!! いや、むしろリミア自身が神!! そう、我が子は女神!! こんな女神を娘に持ってお父さんは本当に幸せ者だよ、うおおおおおおおおおおんーーーーー!!」
「あなた、うるさいです。泣くんだったら部屋に戻ってから一人で泣いてください」
「あ、はい、すいません。部屋に戻ります」
再度、ミアラに射るような鋭い視線と言葉を向けられた父は、涙を床にこぼしながらすごすごと夫婦の部屋に歩いて行った。その後ろ姿を見ながら、リミアは不安そうに疑問を話す。
「すごく泣いてたけど、お父さん大丈夫かな?」
「嬉し涙だから気にしなくて大丈夫よ。というか、お母さんも感動しちゃったわ。昔からとっても優しい子だと思っていたけど、そんなに素敵なことを言ってくれるなんて」
「そ、そんな、褒めすぎだよ、お母さん」
目に涙を浮かべながら話し始めた母の顔と言葉に、リミアは照れくささを感じて頬を赤く染めた。そんな娘の姿と成長を嬉しそうに見つめたミアラは、目の涙をぬぐいながら口を開く。
「そういうことなら、もちろんお母さんは賛成よ。ただ、魔法学院ってことはきっと入学試験とかあるのよね?」
「うん、旅人さんもそう言ってた。だけど、あまり詳しいことは分からないらしくて……」
「そっか。それなら、その辺は調べてみるしかないわね。村長さんだったらなにか知ってるかしら? ……とりあえずそれは明日にするとして、他に考えないといけないのは……」
ミアラは一度目をつむって思案し、思いついたことを口にした。
「王都まで行くときのことかしら」
「確か、ここからだと歩いて一週間くらいはかかるんだよね?」
「ええ、そうよ。道中では魔物が出るって聞くし、誰かしら護衛は必要よね。お父さんは付いて行ってくれるでしょうけど、さすがに一人じゃ不安だし後は……!」
「お母さん、どうかしたの?」
「ええ、今しがたビビッときたの。これは、いわゆる母親の勘ね。…………でも、そっかそっか、そうなっちゃうのかしら、あらあら」
自分の脳裏に浮かんだ光景にテンションが上がったミアラは、右手を頬に当てて嬉しそうにリミアを見た。
「お母さん、どういうこと? すごく気になるんだけど……」
「王都までの旅で、リミアちゃんに素敵な出会いがあるって予感がしたのよ」
「素敵な出会い?」
「そう、とっても素敵な出会いよ。旅の途中、リミアちゃんは一人の男の子に出会うの。その男の子は、きっとリミアちゃんの力になってくれる。そして、いずれは……」
「いずれは?」
「いずれはリミアちゃんと結婚するわ。つまり、リミアちゃんの未来の旦那さんね」
「み、未来の旦那さん!?」
ミアラの予想外の言葉を聞いて、リミアの顔が一瞬で真っ赤に染まった。娘のそんな初々しい姿を微笑ましく見つめながら、ミアラは言葉を続ける。
「母親の勘は当たるわよ。どう、リミアちゃん、そうなったら嬉しい?」
「そ、そんなの……、恋とかしたことないから分かんないよ……」
照れくささと恥ずかしさから顔を下に向け、リミアはか細い声でそう答えた。




