第17話 両手に花
おれとリミアの間にあった問題が解決した後、おれ達は宿屋を出て魔法学院へと向かった。
学院では入学試験の結果が発表されており、当然おれもリミアも合格だった。
そして、必要な手続きを行った後で制服などを受取り、おれ達は学生寮へと向かった。もちろん、学生寮は男女別である。
「さて、おれの部屋は一階の一番端か」
おれは魔眼を発動し階段を上っていく生徒を何人か確認する。上の階へと上っていく生徒は見る限り保有魔法数が多いので、それを元に階や部屋の場所を割り当てているのだろう。
だから、おれは一階で出入り口から一番遠くて不便な端の部屋か。まあ、おれとしては端のほうがいいし、別に一階で困ることもないから特に気にすることはないか。そんなことを考えながら、おれは自分の部屋に入る。
「部屋の中は……、まあ普通かな」
泊まっていた宿屋と同じで、ベッドや机など最低限の家具があるくらいだった。もしかしたら、上の階の人達は違うかもしれないが、おれの部屋はそんな感じだ。まあ、必要な物があれば、買えばいいだろう。
一時的に金欠に陥ったおれだったが、今はお金がある。というのも、魔法学院では希望者には奨学金が支給されるからであり、おれもリミアもそれを受け取ったからだ。
しかも、卒業後に騎士団など王国のための仕事に就けば奨学金の返済は不要という太っ腹な制度だ。ゆえに、リミアは返済の心配はないだろう。
対するおれのほうは、将来のことはまだ特に考えていない。いやでも、リミアが騎士団に入るのなら、リミアの未来の夫であるこのおれも、やはり騎士団に入るべきではないだろうか?
いやむしろ、おれが頑張って働くから、リミアには家でおれの帰りを待っていて欲しい。リミアのような美少女がお嫁さんなら、きっとおれは馬車馬のように働ける。
まあ、そんな未来の願望は一旦置いておこう。
で、とりあえずお金に関してだが、奨学金が支給されたとはいえ、学費以外は月単位の支給であり、金額もそんなに多いわけではない。だから、大切に使わないとな。
「さて次だが、制服はどんな感じかな」
おれは貰ってきた制服を取り出して確認する。上下共に銀白色を基調としたブレザータイプの制服か。ネクタイもあるけど、めんどくさいからとりあえず付けなくていいかなあ。
わりと良い制服だと思うが、おれとしては不満点がひとつ。マントがないよ、この制服。やっぱマントは必要だろ。だって、マントってカッコイイもん。ちょっと今から買ってこようかなあ。いやでも、さすがに生活必需品を優先しないと駄目だな。
そして、新しい生活環境を整えたりそれに慣れるための数日が経過し、青春を謳歌することが目的のおれにとってはお待ちかねである、魔法学院の初登校日がやってきた。
*****
せっかくなので初登校日は一緒に行こうということで、今のおれは女子寮の近くにある公園でリミアを待っていた。さすがに男が女子寮の前にいたら、『あやしいへんたいふしんしゃさん』になってしまうので、待ち合わせ場所が公園になったのは当然である。
そして、紳士であるおれは待ち合わせ時間の一時間前には到着していた。リミアのような美少女を一秒でも待たせるのはおれの美学に反するからな。そして、おれがここに着いてから三十分ほど経過したころ。
「すいません、お待たせしました」
「いや、全然待ってない。今北産業……、じゃなかった。今来たところ」
おれはリミアのほうへと目をやる。そこにいるのは当然、魔法学院の制服に身を包んだ可愛らしいリミアの姿。
おれの制服と同じく銀白色を基調としたブレザータイプだが、ネクタイの代わりに女の子らしく赤いリボンが首元についている。
下は同じく女の子らしくスカートで丈は短め。うん、やっぱスカートって短いほうがいいよね。
そして、スカートの下はきれいな白い脚……ではなく、その脚を隠すようにニーソを履いていた。その結果、スカートとニーソの間からわずかに脚が見えているという、いわゆる絶対領域を形成していた。
そんな可愛いリミアの姿におれが見惚れていると、リミアは不安そうにおずおずと切り出した。
「……あの、やっぱり変でしょうか? わたし、こういう格好って初めてで……」
「……え? ああ、いやいや、全然変じゃない。……むしろ似合ってて、すごい可愛い」
「かわ……! あ、ありがとうございます……」
おれの褒め言葉にリミアは頬を朱に染めた。よし、女の子を褒めるとかさすがに気恥ずかしいが、ちゃんと師匠から教わった女性へのマナーの一つである「女性が服装や髪型などを変えたら素直に褒めろ」を実践できたようだ。
ちなみに、一番口をすっぱくして言われたマナーは「女性に年齢の話はするな」である。まだ二十歳でお若いのに、どうしてそんなに年齢を気にするんですか、師匠?
*****
学校に到着しクラスを確認すると、運良くおれとリミアは同じクラスだった。そのため、おれ達は一緒に教室の中に入る。まだ、時間が早いこともあり教室内に人はほとんどいな……、いや、前方の席に十人弱ほどいるな。
「好きなところに座っていいみたいですけど、どうしますか?」
「そうだな。おれとしては一番後ろの窓際がいいんだが、リミアもそこでいいか?」
「はい、大丈夫です」
レディーファーストの精神でリミアに端の席を譲り、おれはその右隣の席に腰掛けた。
しかし、あの前方に座っている連中はなんなんだろう? 全員男子のようだが、なぜわざわざ教卓の前にいる? 普通、自由席なら前のほうを避ける人が多いと思うが、よほど勉強熱心な奴らなのだろうか?
そんなことを考えたあと、教室の入り口に目をやると、見知った美少女が入ってきた。そして、その美少女は軽く教室を見渡しておれ達に気付き、そのままこちらへと歩いて来る。
「おはよう。ミア、レイン」
「おはようございます、サフィアさん」
「ああ、おはよう」
軽く右手を上げて挨拶をしたサフィアに対し、リミアのほうは軽く頭を下げながら挨拶を返していた。そして、サフィアはおれの右隣の席の椅子に手をかけながら、口を開く。
「ねえ、あたしはここに座っていいかしら?」
「もちろんいいぞ」
「はい、ぜひどうぞ」
サフィアはおれの右隣の席へと座った。
さて、そんなサフィアの姿を確認すると、服装は当然リミアと同じ制服である。ただ、明確な違いがひとつあり、サフィアはニーソではなく短めの靴下を履いていた。そのため、白くてきれいな脚がはっきりと見えており、これはこれでいいと思います、はい。
……おっと、そうだ。師匠から教わった女性へのマナーをもう一回実践しないとな。
「サフィア。……制服が似合ってて、とても可愛いな」
「まっ、あたし自身が可愛いから似合うのは当然ね。でも、一応お礼は言っておくわ。ありがと」
リミアとは対照的にサフィアは自信満々にそう答えた。ただ、容姿を褒められて照れがないかと言えばそうではないらしく、わずかに頬が赤くなっていた。
まあ、サフィアは王都という名の都会育ちで人と接する機会も多かっただろうし、それなら自分が可愛いと自覚するのは当然といえば当然だろう。今までの人生でも、さぞ男子のモテたに違いない。
……え、ちょっと待って。サフィアが男子にモテたことがあるのはいいとして、まさか彼氏とかいないよな? おれのメインヒロインにそんなのがいたら困るんだけど。
……い、いや、大丈夫だ、落ち着けおれ。こういう学校一の美少女タイプは、男子にモテて告白もされまくっているが、彼氏はいないと相場が決まっている。だから、大丈夫だ、問題ない。
さて、無事に問題が解決したところで今のおれの姿を見ると、両隣に美少女がおり、まさに両手に花という素晴らしい状況である。
青春を謳歌したいという理由で始めた学院生活だが、どうやら幸先の良すぎるスタートを切れたようだ。
圧倒的な幸運や幸せを手に入れた人間に対し、「前世でどんな徳を積んだんだ」と言われることがあるが、もしかするとおれは前世ですごい徳を積んでいたのかもしれない。
結局、前世の記憶はあまり思い出せなかったが、本当にありがとう、前世のおれ。