第161話 魅惑の提案
リミアと恋人になり、初めての放課後が訪れた。
「リミアって、この後は時間あるか?」
「すいません、今日はバイトがあって……」
放課後もリミアと一緒にいたいと思い声をかけたのだが、さすがにバイトなら仕方がないか。……いや待て、バイトなら一緒にいることは可能だよな。
「じゃあ、おれも一緒に行っていいか? お客として」
「……! はい、もちろんいいですよ」
リミアは弾んだ声でそう答えた。きっと、バイト中もおれと一緒にいられるのが嬉しんだろう。だって、おれのほうはすごい嬉しいしな。
*****
「いらっしゃいませ」
おれがお店の開店時間と同時に入店すると、入り口で待機していたリミアが笑顔で出迎えてくれた。
「今日は奥のほうの席でもいいですか?」
「ああ、どこでもいいけど」
「では、こちらへどうぞ」
案内に従い店の奥へ向かうと、カーテンで仕切られ周囲からは中が見えないようになっている席がある。
「この辺は他の席とは違うんだな」
「お客さんの中には人目を気にする方もいるので、こういう席もあるんです」
なるほど、そういうことか。確かに、このお店は店員さんがみんなバニーガール姿という変わったお店だし、人目を気にする気持ちも分かるな。ただ、分からないことがあり、それは……、
「どうして、今日はこの席にしたんだ?」
「それは、レインさんにお願いしたいことがありまして」
「お願い?」
リミアはカーテンを閉め、周囲からの視線を遮ってから口を開く。
「はい。できれば、今日は<変身>を解除してもらえませんか? わたしは素顔のレインさんと一緒にいたいので」
そういえば、このお店って本来は女性限定だからおれは<変身>で美少女に変身して入店してたんだったな。最近は慣れてしまって入店前に自然に変身していたから、そのことを忘れ気味だったけど。
それにしても、素顔のおれと一緒にいたいとか、おれの可愛い彼女は可愛いことを言ってくれるな。もちろん、おれとしてはそんな可愛いお願いを断る理由はない。この席なら、<変身>を解除して男の姿になってもバレないだろうし。
「分かった、解除するよ。……これでいいか?」
「ありがとうございます」
<変身>を解除し元の姿に戻ったおれの顔を、リミアは嬉しそうに見ている。おれのほうも、そんなリミアの顔やバニーガール姿をつい眺めてしまう。もう何度も見ているはずなのに、今日のリミアは格別だな。関係性が恋人になると、こうも違って見える物なのか。
「あ、そういえば、飲み物はどうしますか?」
「ああ、そうだな。じゃあ、アップルジュースで」
「分かりました。では、ソファーに座って待っててくださいね」
言われた通りソファーに座って待っていると、リミアがアップルジュースを持ってきてくれた。そのアップルジュースをテーブルに置き、リミアがおれの隣に座るために歩いて来る。
「きゃ!」
「危ない!」
カーテンが閉まり暗いせいかテーブルの脚につまづいたリミアがおれのほうに倒れてきたので、リミアを支えるためにおれは反射的に両腕を伸ばす。すると、おれの両手に走るのは柔らかく幸せな感触。つまり、リミアの胸を揉んでしまった。
「あ、ありがとうございます。もう大丈夫なので」
そうリミアは言ったのだが、おれの手はリミアの胸から離れない。こんなに大きくて柔らかくて温かい膨らみに一度触れてしまうと、どうしても手が勝手に動きその感触を味合い続けてしまう。つまり、リミアの胸は揉み続けてしまった。
「……レインさんってこういうとき、絶対にすぐ手を離してくれないですよね」
「……!! ご、ご、ごめん!! 次からは気を付けるので許して下さい!!」
「い、いえ、別に怒っているわけじゃないので大丈夫ですよ」
数度目のけしからん行いをしてしまったおれに、リミアは優しくそう言ってくれる。おれの彼女が女神様のように慈悲深い女の子で本当に良かった。そうでなければ、付き合って早々に破局という展開もあり得たかもしれない。
「あ、でも、ちゃんとこのお詫びもするから」
「……それなら、一つ質問してもいいですか?」
「もちろんだ。なんでも訊いてくれ」
「じゃあ……」
リミアはおれの隣に座ると、頬を赤くして恥ずかしそうにしながら質問を口にする。
「さっきみたいに、む……胸を触ると、やっぱりレインさんは嬉しいんですか?」
「…………え? えーと、まあ、はい、そうですね、はい」
思わぬ質問に面食らってしまったが、お詫びということもありなんとか正直に答えることができた。だが、そんなおれをさらなる衝撃が襲ってくる。
「………………それなら、もう少しだけ触ってみますか?」
「えっ!? ま、ま、マジで!?」
「……はい。……その、レインさんが喜んでくれるならわたしも嬉しいですし、それになにより、わたしはレインさんの……彼女ですから」
リミアは顔を真っ赤にして照れくさそうにそう言った。彼氏であるおれのためにこんな提案をしてくれるとか、この子は彼女としてできすぎている。ここで、できる彼氏であれば、この提案を優しく断るのが正しいのかもしれない。
だが、できていない彼氏であるおれでは、この魅惑の提案を断れる気がしない。というか、女の子の胸という名の聖域に堂々と触る権利を得られるとか、恋人ってちょっとすごすぎない!!
「……えーっと、マジでいいの?」
「……ど、どうぞ」
そう言って、リミアはおれのほうに身体を向けた。今、おれの目の前にあるのは宝石のような魅力を放つリミアの胸。この眩い輝きに、もはやおれが抗えるはずもない。おれの両手は自然とその光に手を伸ばしていた。
「……んっ、……あっ……」
おれが手を動かしていると、たまにリミアが艶めかしい声を出す。その声につられてリミアの顔を見ると、目は潤んでいるが嫌そうにしているようには見えない。さっきおれが喜んでくれれば自分も嬉しいって言ってくれていたし、これも恋人効果なのかもしれない。
それなら、二人でもっとこの幸せに浸っていたい、と思っているとリミアが顔を近づけてきて、おれにキスをした。両手だけでなく唇にも柔らかい感触が走り、身体も頭も沸騰したかのように熱くなってしまう。
「り、リミア……」
「レイン……さん……」
一度、おれ達は真っ赤に染まった顔を離し互いに見つめ合う。そして、再び互いの顔も身体も見えなくなるような距離に近づこうとして――
「リミアちゃーん、ちょっといい?」
急に、カーテンの外から誰かの声がした。
「は、は、はい!! な、なんですか、店長さん!?」
「どうしたの、そんなに慌てて? なにかあった?」
「い、いえ、なにもありません! 今すぐ行きますね!」
店長さんに呼ばれたリミアは、慌ててカーテンの外に出ていってしまった。あの状況を遮られたのは残念でもあるが、同時に良かったとも思う。あのままなんの妨害も入らなければ、勢いでリミアにもっと色々としてしまったかもしれない。
その後、しばらくして戻ってきたリミアと、おれは節度を持って恋人としての時間を楽しんだ。




