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第16話 問題と和解

 入学試験に合格したおれは泊まっていた宿へと帰った。そして、師匠の餞別により、再びリミアと一緒のベッドで眠りについた翌日の朝。


 窓から朝日が差し込みおれの顔が照らされているのを感じる。どうやら、おれは目が覚めたようだが、どうにもまぶたが重くまだ目が開かない。


 いわば寝ぼけた状態のおれだが、両手に妙な感触があった。いったいこれはなんだろう? 今までの人生で感じたことの無い柔らかさであり温かい。そして、ずっと触っていたいと思えるような感触だった。


 そうしているうちのおれの目は開きだし、その感触の正体を視認した。その正体は、母性の象徴とも言える二つの膨らみだった。


 ……いやいや、やばいって! 早く手を離さないと!


 そう思うのだが、おれの両手はおれの意志に反して動こうとはしない。いや、動いてはいるんだけどね。しなきゃいけない動き方はせず、してはいけない動き方をしてるんだよ。せめて止まれよ、おれの両手!


 いやいや、マジでやばいって! リミアが目を覚ます前に手を離さないと!


 そう思い、おれはリミアの顔を見る。すると、顔を真っ赤に染め上げたリミアと目が合った。


 ……あ、これはもう完全にアウトですね。


 *****


「この度は、いえ、この度も大変申し訳ありませんでした!!」


 とりあえず、互いにベッドから出たあと、リミアに対しておれは土下座をしていた。


 理由はもちろんお分かりですね? おれがリミアの母性の象徴を触ってしまい、リミアを羞恥にまみれさせたからです! 覚悟の準備をしておいて下さい。


 いや、覚悟の準備が必要なのはおれなんだけどな。さて、あまりにやばすぎる状況に思わずふざけて現実逃避をしてしまったが、どうしよう?


 いかに、慈悲深い光の女神リミア様といえど、さすがに今回は許してもらえるとは思えない。だって、リミア視点だと、自分が眠っている間におれが胸を触ってたってことになるんだろ?


 おれ的には寝ぼけていたのが原因の大部分なのだが、そんなことをリミアは知るはずがないしどうしようもない。そう思っていると、リミアが口を開いた。


「……あの、とりあえず顔を上げてください。わたしは別に怒ったりはしていないので……」


 なん……だと……!?


 リミアのまさかの言葉におれは驚いて顔を上げてしまう。


「え、怒ってないの? いや、一応さっきのは寝ぼけていたの原因で悪気はなかったんだけど、リミアにはそんなこと分からないし……」


「あ、いえ、分かっているんです」


「え、どういうことだ?」


「実はレインさんより先にわたしは目が覚めていたんです。それで、レインさんって眠っているときは意外とかわ……、こんな顔をしてるんだなあって少し眺めてて。それで、レインさんの手が動いて目が覚めるのかなって思っていたら、……その、あの状態になったんです」


 リミアには申し訳ないが、おれとしては運良く、どうしてああなったのかをリミア自身が目撃してくれていたようだ。


「それで、わたしがすぐにその場を離れれば良かったんですけど……。あまりのことに驚いたせいか、身体が動かなくて。そして、目が覚めたレインさんがわたしのほうを見たんです」


「そうだったのか……」


「はい。だから、レインさんは悪くないですし、気にしなくて良いですよ」


 窓から差し込む光を背に受けたリミアは頬を朱に染めつつも優しくそう言ってくれた。そして、その様はまるで後光が差した女神様のように輝いて見えた。


「……分かった。ありがとう。でも、このお詫びも絶対にするから。だから、おれにして欲しいことがあれば、遠慮なくなんでも言ってくれ」


「い、いえ、お詫びとかも全然いいんです!」


「いや、さすがにそれは……」


「本当にいいんです。だって……」


 リミアは一転して悲しそうな顔になり、下を向きながら語り始める。


「試験の合格が決まって心に余裕ができたので考えてみたら……、わたしって王都に来るまで、いいえ、来てからもずっとレインさんのお世話になってばかりだったって。だから、そのことが本当に申し訳なくて……」


「いや、そんなことは全然大したことじゃないし、気にしなくていいから」


「気にしますよ。だって、もし護衛を雇ったりしてカナイ村から王都まで来ていたら、それだけでどれほどのお金がかかるのか……」


 ……なるほど。護衛の代金がどれくらいかは分からないが、まあそれなりにはかかるだろう。しかも、リミアの家、というか住んでいる村自体が貧しいみたいだから、なおさらお金の問題はリミアに重くのしかかっているのか。


「だから、レインさんにはお世話になった分、ちゃんと報酬は払いますから。それがいつになるかも分からないので大変申し訳ないんですが……」


 先ほどよりもさらにリミアの顔が曇ったように感じた。この状況で確実に言えることは、リミアのように優しい女の子にそんな顔をさせたままではいけないということだ。


「……あのさ。リミアはおれのやらかしを許してくれただろ? じゃあ、そのお礼として、おれへの報酬とかは無しでいい。それで、互いに貸し借り無しってことにしないか?」


「……駄目です。それだとわたしに都合が良すぎますよ」


「いや、そんなことないって。というか、おれに負い目を感じているっていうなら、むしろこの提案を受けてくれ。そのほうがおれとしても助かるし嬉しい」


「……どうしてですか?」


 リミアはおれの言っていることが理解できないといった風に、不思議そうな顔でこちらを見た。


「だって、おれ達はこれから同級生になるし友達だろ。それなのに、貸し借りとか負い目とかでギクシャクしてるほうがおれは嫌だよ。だから、おれのためを思うなら、そうしてくれないか?」


「……本当にそれだけでいいんですか?」


「ああ、それだけでいいよ」


「……分かりました。レインさんがそう言ってくれるならそうします。本当にありがとうございます」


 リミアは深く頭を下げてそう言った。


 さっきはリミアのためにああ言ったが、おれとしてはやはりお詫びはしたいし、それがなくてもリミアのように優しい女の子にはなにかしてあげたい。


「まあ、それはそれとして、なにかおれにできることがあれば遠慮なく言ってくれ。これからは友達として力になるから」


「……分かりました。じゃあ、その代わりにわたしにできそうなことがあれば言ってください。わたしでは大した力になれませんが、頑張りますので」


「ああ。じゃあ、改めてこれからよろしくな。リミア」


「はい、よろしくお願いします。レインさん」


 笑顔でよろしくと言ったおれに対してリミアも笑顔を返してくれた。そして、その笑顔はすっかり憑き物が落ち、とても晴れやかで美しい笑顔だった。


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