第159話 話したい事と渡したい物
楽しく幸せな時間というのはあっという間であり、リミアとのデートはもう夜になっていた。
「さ、最後に寄りたいところがあるんですがいいですか?」
そう話したリミアの顔には緊張が走っているように思える。その理由は分からないが断る理由はないので、おれは了承の返事をしてリミアの後を付いて行く。到着したのは王都の外れにある高台だ。
「へえ……。街が見渡せるし、この時間だと夜景がきれいで良い場所だな」
うん、本当に良い場所だな。なんというか、定番のデートスポットという感じで雰囲気がある。しかも、運が良かったのか今は周囲に誰もおらず、二人きりでこの場を独占できている。
「……あ、あの、レインさん」
「なんだ?」
「……その、わたし、レインさんに話したいことがあって……」
その言葉でおれがリミアのほうに向き直ると、リミアは明らかに緊張した面持ちでこちらを見ている。その表情はなぜかこの場所にはふさわしく思えた。……そういえば、おれは先ほどこの場所をデートスポットと言ったが、告白スポットっぽさもあるな。
……え、もしかして告白なの!? そう考えれば、リミアのこの表情もこの場所も、そしてリミアが今日のことをデートと言ったのにも説明がつく気がする。え、マジなの!?
「……あ、あのですね」
「あ、ああ」
「……その」
リミアは空中に視線をさまよわせなにかを言おうと唇を動かすが、肝心の言葉が出てこない。こ、これは、本当に告白なのでは!?
「………………す、すいません。やっぱりなんでもないです……」
そう言って、リミアは顔を下に向け、おれ達の間には沈黙が下りる。こ、ここまで言いづらいとか、やはり告白なのでは? それならいっそ、おれから告白するべきか? だが、今日のおれにそのつもりはなかったから、心の準備はできていない。
そう、今日のおれがしようとしていたことは別にある。このまま沈黙が続くというのも心苦しいし、まずは雰囲気を変えたい。その意味でも、先に今日のおれの用事をすませるべきだな。
「リミア。実は、リミアに渡したい物があってさ」
「渡したい物……ですか?」
「ああ、これなんだけど」
おれは丁寧にラッピングされた箱を取り出し、リミアの目を見て口を開く。
「リミア、誕生日おめでとう」
「…………え? 知ってたんですか?」
「ああ、ちょっとしたツテがあってな」
そのツテというのはリミア様ファンクラブのことなのだが、さすがにそれを言うわけにはいかない。聞くところによると、入学時に提出した書類をこっそり盗み見して誕生日等の情報を把握したとのことだが、まさかあいつらそんなことまでしてるとはな。
だが、その件に関しておれは感謝するしかない。そのおかげで十月一日がリミアの誕生日だと知れたし、なによりおれの誕生日プレゼントをリミアがとても嬉しそうに受け取ってくれたからだ。
「あの、開けてもいいですか?」
「それはもうリミアの物だから、好きにしていいぞ」
「ありがとうございます。……わあ、とてもきれいなネックレス……」
リミアが開いた箱から出てきたのは、金色の宝石が付いたネックレスだ。ただ、女の子はこういうアクセサリーが好きだろうという考えで選んだ物なので、この手の女性経験がないおれとしては気に入ってもらえるか自信がない。
そのせいだろうか、つい予防線のような言葉が口をついて出てしまう。
「あ、でも、大して高い物でもないし、気に入らなかったら処分しちゃっても全然いいから」
「そ、そんなことしないです!」
「そ、そう? でも、おれ、こういうプレゼントとかのセンス全然ないし……」
「レインさんがくれる物だったら、わたしはなんだって嬉しいですよ。だって、わたしはレインさんが大好きですから」
「………………え?」
「………………あ!」
自分が口にした言葉に気付いたリミアの顔が一瞬で真っ赤に染まった。そして、大慌てで自分の言葉を否定する。
「ちち違います!! い、今のは!!」
「あ、ああ、分かってる分かってる。前にも言ってたように人として好きって意味だよな」
「そ、そうです。…………そうです……けど……」
顔を下に向けたリミアは右手の手のひらに視線を向け、そこにはおれがあげたネックレスがある。そのネックレスを握りしめると、リミアは強い意志を込めた視線でおれを見た。
「けど……、わたしはレインさんのことが、……一人の男性としても大好きです!」
その言葉に、おれの心臓が大きな音を立てた。ヤバい、リミアがおれのことを好きなんてめちゃくちゃ嬉しい! 早くおれも同じ気持ちだって伝えないと! そう思い口を開こうとしたおれの頭に、二人の女の子の顔が浮かんだ。
……そうだ、おれには目の前の女の子以外にも大好きな女の子がいるんだ。もし、彼女達もおれを好きだと言ってくれるなら、おれはその想いにも応えなければならない。彼女達の心も守るって、おれは盟約の指輪に誓ったからな。
「……あの、レインさん……?」
見ると、リミアは不安げな顔をおれに向けている。なにをやってるんだおれは! まずは、目の前の女の子の心を大切に想い守らなきゃいけない!
「ありがとう。おれもリミアのことが一人の女性として大好きだ。だから、おれと付き合ってくれ」
「……! ……はいっ!!」
そう返事をすると、リミアはおれの胸に飛び込んできた。リミアに抱きつかれたことは何度かあるが、今日の抱擁からは初めて感じる温もりがある。やがて、リミアが顔を上げると、その赤く染まったきれいな顔と視線がおれの視線とぶつかる。
そのままおれ達はどちらともなくそれが自然であるかのように、互いの唇を重ね合った。




