第157話 イケメンのお悩み相談
おれが紅き闇の館に到着した後。
「いやあ、これはいいね……。この魔物の骨は想像以上にカッコイイよ……」
おれが渡したカッコイイ狼の魔物の骨を、ミハエルは心底嬉しそうに眺めながらそう言った。そこまで喜んでくれるなら、こちらとしても狩ってきた甲斐があったという物だ。
「うーん、この骨はどうしようかな? 店の一番目立つところに飾るべきか、それとも自宅に持って帰るか……?」
ミハエルはあごに手を当てて真剣に悩んでいた。おれのほうも悩みがあってここに来たのだが、今のミハエルに水を差すのは悪いし後日にするか。おれがそう思っていると、ミハエルがこちらを見て口を開く。
「さて、ついつい夢中になってしまったけど、この悩みは後回しにしよう。それで、どうしたんだい、アーク? なにか、ボクに相談があるんだろ?」
「えっ、なんで分かったんだ?」
「それくらい、キミの顔をみれば分かるさ」
ミハエルはこともなげにそう言った。おれとしては、そんなに顔に出していなかったはずなのだが、それでもミハエルはおれの悩みを察したようだ。さすがは、イケメンミハエルと言わざるを得ない。
「ありがとな、ミハエル。実は――」
おれが胸の内を打ち明けると、珍しくミハエルは難しそうな顔をしている。
「これはまた、大変な悩みを抱えた物だね」
「なんか、ごめんな。こんな悩みに付き合わせて」
「ハハッ、構わないさ。むしろ、ボクを頼ってくれて嬉しいくらいだよ」
「そう言ってくれると助かる。……で、どうしたらいいと思う? 情けない話だが、おれにはお手上げでさ」
「そうだね……。まず、一番大切なことを確認するけど、アークはその三人のことが本当に好きなんだよね?」
ミハエルはいつになく真剣な眼差しでおれの目を見た。おれもその眼差しに応えるようにミハエルの目を見据える。
「……ああ、本当に大好きだ。もし、あの三人がおれのことを好きなら、いや、好きでなかったとしても幸せにしてあげたい」
「……うん、良い答えだ。本当に好きなら、優先すべきは自分ではなく相手の幸せ
だからね。さすがは、アークだよ」
「そう言われると照れるな……。で、改めてどうしたらいいと思う?」
「どうしたらといっても、そもそも選択肢が多くないからね。話を分かりやすくするために三人ともアークのことが好きだという前提で考えて、キミの希望を叶えるなら全員と同時に交際するしかないよ」
「……仮にそうだとしても、三人ともそんな選択肢を選んでくれるかな?」
「相手の女の子達からすれば、同時交際するかキミを諦めるかの二択だからね。この王都の中には同時交際しているカップルもいないわけじゃないし、相手もキミのことを大好きなら、同時交際のほうを選んでくれると思うよ」
「さすがに、そこまで想われている自信はないんだけどなあ……」
頭を悩ませるおれに聞こえないような声で、ミハエルがなにかをボソッとつぶやく。
「今までに聞いたこと、特に盟約の指輪を渡したときの話を聞く限り、心配はないと思うけどね。まあ、それをボクが言ってしまうのは野暮ってもんかな」
「……? 今なんて言ったんだ?」
「アークみたいにカッコイイ男なら、心配ないって言ったんだよ」
「カッコイイ……かなあ?」
「カッコイイよ。なにがあっても相手を守ろうとする男がカッコよくないわけないだろ?」
ミハエルはおれが左手に付けている三つの盟約の指輪をビシッと指し示しながらそう言った。……そうだな。おれはあの三人に、『なにがあっても守る』って誓ったんだよな。ただ、あのときは戦闘などの肉体的な危険から守るという意味で誓いを立てていた。
だけど、恋愛、それも同時交際となると肉体ではなく精神、つまり心を傷つけてしまうことがあるかもしれない。それなら、そんなことが起きないように、あの三人の心も守ることをこの指輪に誓おう。
「……どうやら、悩みは消えたようだね。今のキミは良い顔をしているよ、アーク」
「それはお前のおかげだよ。いつもありがとな、ミハエル。……あ、そうだ。悩みが解決したおかげで思い出したんだけど、作って欲しい魔道具があるんだがいいか? なんか、頼ってばかりで申し訳ないんだが……」
「それはボクの本業だから気にしなくていいよ。それで、どんな魔道具だい?」
「アイシス先輩に渡そうと思ってる魔道具で、能力は――」
おれの説明を、ミハエルはふんふんと頷きながら聞いていた。
「――って感じなんだけど作れそうか?」
「ああ、それなら作れると思うよ。ただ、完成まで数ヶ月はかかるかな。それでも大丈夫かい?」
「大丈夫どころか、数ヶ月で作れることに驚いたぞ。でもまあ、それなら是非とも頼むよ。後、悩みの相談と合わせてお礼をしたいんだけどどうしたらいい? なにか、欲しい物とかあるか?」
おれの問いに、ミハエルはこれくらいなんてことないとでも言うようにあっさりと答える。
「お礼なら将来キミ達の結婚式に呼んでくれればそれでいいよ」
「それはいくらなんでも気が早すぎるだろ。まあ、もしそうなったらもちろん呼ぶけどさ」
「じゃあ、そのときを今から楽しみに待ってるよ」
その言葉の通り、ミハエルは心から楽しそうな笑顔を見せていた。まったく、男のおれでも惚れそうになるくらいのイケメンだな、こいつは。




