第154話 混浴と約束
気付けば時間が経ち、今はみんなが寝静まった深夜。
そんな時間に目が覚めてしまったおれは前日のことを思い出していた。これはまるで、プライベートビーチにあった貸別荘での一夜を思わせる目覚めだ。そのせいだろうか、おれの足は自然と露天風呂へと向かっていった。
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おれは脱衣所にて服を脱ぎ、念のため腰にタオルを巻いてから露天風呂へと歩みを進める。露天風呂が近づくと、そこに誰かの頭が見えた。あの美しい青い髪の持ち主は!
「アイシス先輩!」
「れ、レイン君か!? な、なぜ、こんな時間に風呂に?」
「なんか、目が覚めてしまってつい……。アイシス先輩は?」
「私はなかなか寝付けなくてな。それで、風呂に入れば眠くなるかと思って来たんだが」
なるほど、そういうことか。で、問題はこの後どうするかだな。こういう幸運が起きないかと思って来たわけではあるが、実際にその場面に遭遇すると判断に迷う。
もちろん、アイシス先輩との混浴も是非したい。だが、アイシス先輩に嫌われるようなことは避けたい。ならば、ここは紳士として断腸の思いでこの場を離れるべきか。
「じ、じゃあ、おれは戻るので、アイシス先輩はごゆっくりどうぞ」
「………………い、いや、待て」
「なんですか?」
アイシス先輩は顔を赤くし、しばしの逡巡の後で口を開いた。
「……そ、その、君がどうしてもと言うなら、………………わ、私は一緒に入ってもいいが」
「……!! い、いや、さすがにそれはマズイでしょう!」
「……そう言いつつ、風呂に入ってくるのはなぜなんだ?」
「………………え?」
そう言われ自分の姿を確認すると、いつの間にか風呂に入っておりすぐ隣にはアイシス先輩がいた。
「あっ、違う! 身体が勝手に!」
「身体が勝手にって、それは大丈夫なのか……? ……まあ、一緒でいいと言ったのは私だから、入ってくるのは構わないが」
良かった。思わず身体が動いてしまったようだが、アイシス先輩は許してくれたみたいだ。そして、勝手に動くのは身体だけでなく、目のほうも勝手にアイシス先輩の身体のほうを向いてしまう。
……やはり、デカい。まるで、メロンを思わせるような二つの果実がすぐ目の前に浮いている。<熱水>に込めた魔力が大きいせいかお湯は透明ではなく銀白色だが、それゆえにアイシス先輩が胸を腕で隠そうとしないのもポイントが高い。
そして、そんなおれの不躾な視線に気づかないのか、あるいは見て見ぬふりをしてくれているのか。それは分からないが、アイシス先輩は普通に会話を始める。
「実際に試合をして思ったが、やはりディーバ殿は恐ろしく強いな。あれが、かつて王国最強と名を馳せた魔術師か」
「そうですね。さすがは師匠です」
「ちなみに、君はディーバ殿とどのくらい戦えるんだ?」
「そうですね。本気を出せば、おれが勝ちますね」
「なっ……!? 君はあのディーバ殿に勝てるのか!?」
「えっ……? あっ……!」
しまった! アイシス先輩の胸に意識がいっていて、口が勝手に本当のことを喋ってしまっていた!
「以前、君は自分の強さに秘密があると言っていたが、ディーバ殿に勝てるほどの実力なのもその秘密にあるのか?」
「……さすが、察しがいいですね。その通りです」
「そうか。その強さの理由が秘密なのは理解しているから訊くつもりはない。だが、それを秘密にする理由は訊いてもいいか?」
アイシス先輩は、言いたくないなら答えなくていいとでも言うような気遣わし気な目をおれに向けた。だが、おれとしてはアイシス先輩が知りたいことは出来る限り答えたいし、これについては答えられない理由もない。
「そうですね……。おれの本当の力はかなり特殊でして。もし、この力が人に知れたら、それを悪用するためにおれの周囲の人間に危害を加える輩が現れかねない。だから、秘密にしているんです」
「ふむ、そういうことか。……それなら、その力を私には話してくれても構わないのではないか?」
「……え?」
思わぬ言葉に、おれは丸くした目でアイシス先輩を見た。アイシス先輩のほうは真剣な目でおれを見つめている。
「この力が人に知れたらということはつまり、秘密を知った人間がそれを他者に漏らさなければ良いということだろう? 私は公爵家という立場上複数の機密事項を抱えているが、当然それを口外などしたことがないし口の堅さについては信用してくれて良い」
「……あー、そう言われるとそうですね」
確かに、秘密が漏れないのであれば話してしまっても問題はない。実際、おれはミハエルにうっかり喋ってしまったが、あいつはちゃんと秘密を守ってくれてるからな。それに、アイシス先輩の口が堅いと言うのも確かな事実だろう。
「そうだろう。ならば、私には君の本当の力とやらを教えてもらえないだろうか?」
「そうですね……。教えてもいいですが、普通に教えるのはおれの美学に反しますね」
「どういうことだ?」
「……いや、普通に教えるのもなんかカッコ悪いなあって思いまして……」
「それは、君らしい意見だな」
おれの言葉に、アイシス先輩は楽しそうに笑ってくれていた。
「……じゃあ、おれの力をカッコよく披露できる機会があったら、アイシス先輩には教えるということで」
「……その場合、誰かに大きな危険が迫っていそうなのが複雑なところだな……」
「ま、まあ、そうとは限りませんし、もしそうだったとしてもそのときはおれがなんとかします。約束です」
「分かった。約束だ」
アイシス先輩は満足そうに頷いてくれた。そして、今度は先ほどまでとは一転し、アイシス先輩は頬を赤くしながら口を開く。
「ところで、話は変わるんだが……」
「はい、なんですか?」
「さすがに、先ほどから見すぎではないだろうか?」
そう言って、アイシス先輩は自分の胸を両手で隠した。
「す、す、すいません!」
「……いや、こちらこそすまない。別に、責める気はないんだ。……しかし、胸はそこまで男性の心を乱す物なのだろうか?」
アイシス先輩は自分の胸に目を向け、両手でそれを揉み始めた。どうやっても手だけでは隠しきれないその大きさや、揉んだ指が沈んでいくことで分かるその柔らかさで、おれの心は大きくかき乱されていく。
その後、アイシス先輩が顔まで赤くして潤んだ目でおれを見た……気がする。
「………………良かったら、触ってみるか?」
「えっ!? い、いいんですか!?」
「す、少しくらいなら……」
アイシス先輩はおれのほうに身体を向けて、胸を隠していた両手を離した。もし、お湯が透明だったら、胸の中で最も大切であろう部分まで完全に見える状況だ。そして、おれが手を伸ばせば、当然それにも触れることができる。
こんな状況であんなことを言われて、おれに我慢などできるはずもない。おれの両手は勝手にアイシス先輩の胸へと伸び、それに触れる。……前に、おれの両腕はアイシス先輩の両手に掴まれた。
「や、やはり、駄目だ! こういうのは、もっと関係が進んでからすべきことだし!」
「そ、そんな、殺生な!」
「駄目ったら駄目だ! 私はもう出る!」
「……あっ!!」
その言葉の通り、アイシス先輩が立ち上がったことでそのきれいな身体が露わになった。透き通るように白い肌、細い手足や腰とそれとは対照的に大きな胸。その胸の中でも大切な部分や脚から続く大切な部分も完全に見えてしまっている。
そして、真夜中の森にアイシス先輩の、「ひゃああああああああああ!!」という叫び声が響き渡った。




