第144話 遭遇と混浴③
おれがシェーナ先輩と混浴し、一悶着があった後。まさか、エルフィ先輩に引き続きシェーナ先輩の胸まで揉んでしまうとは。しかも、その前に裸まで見てしまった。
だから、シェーナ先輩にも非常に申し訳ないことをしてしまったと思う。一応、先ほど謝ったしシェーナ先輩も怒ってはいなかったが、また後日に改めて謝罪をしておかないとな。いや、この風呂を出た後で、すぐに謝罪に行くべきか?
そう考えつつ、おれの頭はつい先ほどの出来事を思い出してしまう。まさか、女の子の生胸の感触を、一日に二度も味合うことになるとは夢にも思わなかった。しかも、その大きさゆえか、エルフィ先輩以上に破壊力がある揉み心地だった。
まったく、なぜ女の子の胸という物は、あそこまで柔らかくて温かくて気持ちいいのか。一応は同じ人間なのに、男女でここまで違うのかと思ってしまう。だが、その違いとその存在には、一人の男として感謝の念を禁じ得ない。
そう思いながら、おれが手に残る感触を反芻してしまっていると、脱衣所の扉が開かれた。誰だろう? あの話の流れで、シェーナ先輩が戻ってくるとも思えないし。
「もしかして~、誰かいるんですか~?」
「その声は、ルミル先生?」
「その声は~、レイン君ですね~」
まさか、エルフィ先輩とシェーナ先輩だけでなく、ルミル先生とも露天風呂で遭遇するとはな。こうなると、おれとしてはルミル先生とも混浴したいところだが、さすがにそういうわけにはいかないだろう。
「おれはもう出るので、ルミル先生はごゆっくりどうぞ」
「いえいえ~、いいですよ~」
「え? というと?」
「一応ここは混浴ですし~、先生は一緒に入っても大丈夫ですよ~」
なん………………だと………………!?
なんという神展開と言わざるを得ないし、当然おれがルミル神との混浴を断るわけもない。
ああ、この位置関係で、ルミル先生が身体を洗っている姿を拝めないのは本当に残念である。いや、もし見える位置関係でも見ませんけどね。見ませんとは思いますけど、見ませんという自信は存在しません。
そんな、日本語としておかしくてよく分からないことを考えていると、ルミル先生が風呂のほうに歩いて来る気配がした。なので、おれは血涙を流しながら……、ではなくマナーとして岩のほうを向いて自分の視界を塞いだ。
その後、ザバっと音がしたので、ルミル先生がそのおみ足をお風呂におつけなさったのだろう。そのまま、こちらへと歩いて来る神の気配を感じる。
「もう大丈夫ですよ~、ありがとうございます~」
その言葉でおれが正面に向き直ると、ルミル先生は風呂の中央にあった大きな岩を背もたれにして風呂につかっていた。位置関係としてはおれの正面であり、それは別に問題ない。
問題があるとすれば、ルミル先生は先輩達とは違い身体を両腕で隠していない点である。いや、おれ的には全然問題ないし、むしろこのほうが嬉しいんだけどね。そして、そんな姿を見せられては、もはやおれはそのきれいな身体をガン見せざるを得ない。
圧倒的な魅力を放つ、大人の女性の素晴らしいプロポーション。なぜ、腕も脚も腰も細いのに、胸だけはこんなに大きいのか? ある意味で、暴力的な身体と言っても差し支えない、神のお身体がおれの目の前に顕現していた。
しかし、混浴とはいえこんな素晴らしい身体を惜しげもなく男の前に晒すとは驚きだ。これが、俗にいう大人の余裕というやつなのだろうか? と、思っていたのだが、その身体がルミル先生の美しい両腕で隠された。
「レイン君~。混浴とはいえ~、人の身体をジロジロと見るのはマナー違反ですよ~」
「す、す、すいません!! 本当にすいません!!」
違った! 大人の余裕とかじゃなくて、単純におれのマナーの問題だった!
「いえいえ~、分かってくれればいいんですよ~。次からは~、気を付けてくださいね~」
顔は赤くなっているが、ルミル先生におれを怒る気はないようだ。この点は、ルミル先生の大人の余裕と言えるだろう。いや、ルミル先生の優しさと言うべきかもしれない。
「それにしても~、レイン君は魔術師としては大人顔負けの実力なのに~、そういうところはまだまだ子どもなんですね~」
「い、いや、こういうのは大人の男でもそういう物だと思いますが……」
「う~ん、そういう物ですかね~?」
おれの言葉に、ルミル先生は首を傾げていた。以前のお忍びデートでアイシス先輩が道ゆく人から視線を向けられていたことを考えれば、ルミル先生も同様の経験があっていいはずだ。
いや、それどころか、アイシス先輩以上の大きさの胸を持つルミル先生は、アイシス先輩以上の視線を向けられているのが自然の成り行きだろう。どうやら、こういう場でもない限り、ルミル先生は男からの視線に無頓着のようだ。
そして、ある意味では男の中の男であるおれの視線は、どうしてもルミル先生の身体へと向いてしまう。目を見て話そうと思っていても、気付けば視線は下へ下へとずり落ちていく。
……あれだな。先ほどは身体を隠さないルミル先生を見て、「むしろこのほうが嬉しい」と思ったが前言撤回だ。やはり、隠している姿は、それはそれで違う魅力があるな。その大切な部分が見えそうで見えないことが、見えることへの期待を膨らませ男の本能を強く刺激してくる。
「レイン君~。顔が真っ赤ですけど大丈夫ですか~?」
「……え、そうですか?」
「そうですよ~。もしかして~、のぼせたんじゃないですか~?」
「そうかも……しれないですね……」
そういえば、エルフィ先輩との混浴からずっと風呂に入りっぱなしだったしな。その上、こうも刺激的な出来事が連発すれば、興奮で顔も赤くなるというものだ。……イカン、頭がクラクラしてきたし、名残惜しいがさすがにもう風呂から出たほうがいいな。
「……じゃあ、おれはそろそろ出ますね」
「分かりました~。ゆっくり休んでくださいね~」
そう言って、ルミル先生は目をつむった。それは、風呂から出ていくおれの裸を見ないための配慮だろう。だが、そうやって目をつむりおれへの視線を遮ると、言わば監視の目がなくなったおれからはルミル先生の身体が見放題になってしまう。
……も、もう少しだけ近くで見てから風呂を出ていこうかな? い、いやでも、さすがにそれは人としていけないのでは? そんなことを、のぼせた頭と身体で考えていたのがいけなかったのだろう。おれは足を滑らせ思い切り前方へと倒れてしまった。
「うわっ!!」
「え? あ、危ない~」
倒れるおれを支えるためか、ルミル先生が両手を上げた。だが、その手はむなしく空を切り、おれの顔は風呂の中央にある大きくて硬い岩……ではなく、ルミル先生の大きくて柔らかい胸に突っ込んだ。
しかも、倒れる際におれも反射的に両手を前に出したため、その手がルミル先生の胸を鷲掴みにしていた。いや、それだけでなく、これまた反射的におれの両手はルミル先生の胸を揉んでいる。
「んっ!? だ、駄目……」
ルミル先生が身体をビクリと震わせ、そう声を漏らした気がする。だが、顔も両手も大きな幸せに包まれている今のおれの耳に、その声は届かなかった。というか、なにこれ……、大きくてすごい柔らかい。もう、気持ち良すぎて死にそう……。
「だ、だ、駄目ですよ~!」
「痛ってえ!!」
ルミル先生に突き飛ばされ、おれは後ろにあった大岩に頭を強く打ち付けた。
「ご、ごめんなさい~! 大丈夫ですか~?」
強い痛みを放つ頭頂部を右手で押さえていたおれの元に、心配してくれたルミル先生がかけよってきた。そして、ルミル先生は右手を伸ばし、おれの身体をグイッと抱き寄せる。
「どれどれ~、見せてくださいね~」
ちょ!! 抱き寄せられたせいで、おれの顔がまたしてもルミル先生の胸に埋もれてるんですけど!! しかも、ルミル先生はおれの怪我のほうに意識がいっていて、この状況には気付いていないみたいだし!!
「う~ん、傷はないみたいですね~。まだ痛みますか~?」
「…………………………」
「レイン君~、聞こえてますか~?」
「えっ、あっ、はい、なんですか!?」
「まだ痛みはありますか~?」
「……あ、あるような気がします」
ルミル先生の胸に完全に意識を奪われているおれは、つい曖昧な答えをしてしまった。というか、気持ち良すぎて顔以外の感覚がない気がする。
「じゃあ~、痛みがなくなる魔法をかけますね~。痛いの~痛いの~飛んでけ~」
「………………あの、それは魔法ではなくおまじないでは?」
「そ、そうですね~。先生ったら~、ついうっかりしてました~」
今なら、恥ずかしそうに笑っているルミル先生の顔を見られる気がするが、ルミル先生の胸で視界を覆われてるので見ることができない。
「では~、改めて~。<治癒>~。はい~、これで大丈夫ですよ~」
「あ、ありがとうございます。じゃ、じゃあ、おれは出ますね。あ、あと、さっきはすいませんでした」
「いえいえ~、お大事に~」
ルミル先生の胸から解放されてしまったおれは、改めて風呂の出口へと歩いて行く。本音を言えばもっとここにいたいが、さすがにこれ以上は限界だ。まるで、頭の中に<灼熱火炎弾>を撃ち込まれたのではと思えるくらいに、脳が沸騰している。
こうして、おれは露天風呂での最高に素晴らしい混浴を終えた。




