第142話 遭遇と混浴①
アイシス先輩に施設の案内をしてもらってから一時間くらい経った後。
おれは食堂でみんなと美味しい夕食に舌鼓を打ち、その後の露天風呂で一人寂しい入浴を終える。そして、眠りについたおれだが深夜に目が覚めてしまった。
目が覚めたばかりだから眠気はあるが、喉が渇いている上に汗をかいているな。それなら、水分補給をした後で露天風呂に行って汗を流すか。混浴風呂だが、こんな時間ならみんな寝ているし特に問題はないだろう。そう判断したおれは部屋を出て露天風呂へと向かった。
*****
おれは脱衣所にて服を脱ぎ、露天風呂へと続く扉を開ける。すると、風呂の中から、「はわっ!」という声が聞こえたのでそちらに目を向けると、誰かの人影が見える。
「今の声……、もしかしてエルフィ先輩ですか?」
「そそその声は庶務さんですか!?」
「あ、はい、そうです。おれですおれ」
会話の流れで、ついオレオレ詐欺みたいな答え方をしてしまった。まあ、それは置いといてエルフィ先輩、というか人がいたのはマズイな。いや、おれとしては美少女との混浴は大歓迎なのだが、美少女側としては当然男であるおれとの混浴は嫌だろう。
仕方がないから風呂は諦めるかと思い、おれは口を開く。
「すいません、こんな時間に誰かいるとは思わなくて。おれは出ていくので、エルフィ先輩はごゆっくりどうぞ」
「……まま待ってください」
「なんですか?」
「そそその、庶務さんが出ていくのも申し訳ないですし、ご迷惑でなければ一緒でいいです」
なん………………だと………………!?
え、マジで!? いや、エルフィ先輩は間違いなく一緒でいいと言った。まあ、これが優しいエルフィ先輩の気遣いなのは分かる。ならば、こちらも男として女性を気遣い、やはりここは出ていくべきなのかもしれない。
だが、待て。相手がわざわざ気遣ってくれたのに、それを無下にするのはどうなのだろうか? それは、男として以前に人として駄目なのではないだろうか? ……まあ、今のはぶっちゃけただの大義名分であり、本音を言えばおれが混浴と言う魅惑の存在に抗えるわけがない。
「じゃあ、お言葉に甘えてご一緒させてもらいますね」
そう言った後で、おれは光の速さで身体を洗い終え風呂へと向かう。のはいいが、この後どうしよう? さすがに、エルフィ先輩のすぐ近くに行くのはアウトだよな? ちょうど、風呂の中央に大きな岩があるから、あの岩の反対側に行って互いに姿が見えないようにするべきか?
……うむ、姿が見えないのは残念だが、さすがにそうせざるを得ないか。そう思ったおれが動き出す前に、エルフィ先輩が声を発した。
「どどどうぞ」
見ると、エルフィ先輩は身体一つ分ほど右側に動いた。それはつまり、自分の横までどうぞ、ということだろう。え、いいの!? ちょっと、エルフィ先輩! あなた、男のおれが風呂に入って来たことで動揺して、冷静な判断ができなくなってませんか!?
たぶん、そうなのだろうが、相手がわざわざ気遣ってくれたのに以下略。
「では、失礼します」
おれがそう言うと、エルフィ先輩はおれの反対側を向いた。一応、おれは身体を洗うときに使ったタオルを腰に巻いているが、なるべく身体を見ないようにというエルフィ先輩の配慮だろう。
そのありがたい配慮を受け取りつつ、おれはエルフィ先輩の隣まで進む。そして、風呂ではタオルをお湯につけないのがマナーのため、おれはタオルを外して風呂につかった。
「ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」
「はははい」
エルフィ先輩はおれのほう、ではなく正面を向いた。まあ、おれのほうを向く理由はないしな。で、おれのほうはというと、さすがにガン見こそしないものの、視線は自然とエルフィ先輩のほうを向いてしまう。
風呂ではタオルをお湯につけないのがマナーということで、当然エルフィ先輩もタオルを身に着けていない。とはいえ、男のおれが隣にいるので、ちゃんと両腕で身体を隠している。
だが、小柄な体形なのにそれなりに胸があるため、その膨らみや谷間がわずかに見えている。混浴というシチュエーションも手伝い、その姿は非常に扇情的だった。……はっ、イカンイカン、このままでは良くないので会話でもして気を紛らわせねば。
「今日は良い天気ですね」
「……? いい今は夜ですけど……」
「あ、そうですね……」
一瞬で会話が終了してしまった。というか、なんで会話に困ったら天気の話なんだよ!? 天気の話で、長々と会話を続けるとか無理だろ!? この後どうしようと思っていると、エルフィ先輩が申し訳なさそうな顔で話しかけてきた。
「……あああの、すいません」
「え、なにがですか?」
「わわわたしは人と話すのが苦手なので……」
「ああ、そういうことですか。別に、気にしなくていいですよ。さっきのはおれも悪いですし」
そういう理由でエルフィ先輩に申し訳なさそうな顔をさせてしまうとか、逆におれのほうが申し訳ない。それに、生徒会ではエルフィ先輩の世話にもなっているし、なにかエルフィ先輩のためにできることはないだろうか? …………あ、そうだ。
「もし良ければ、これからはおれが会話の練習相手になりますよ。練習すれば、今よりは苦手意識もなくなると思いますし」
「いいいいんですか?」
「エルフィ先輩さえ良ければ、おれは全然いいですよ」
「でででは、お願いします」
「分かりました。ただ、今は夏休みなので、本格的な練習は学校が始まってからですね」
「そそそう……ですね」
「どうかしましたか?」
なにやら、エルフィ先輩の歯切れが悪い。それに、頭が少しフラフラしているな。これは、もしかして……、
「のぼせてきましたか?」
「そそそう……みたいです。もももう、出ます……ね」
エルフィ先輩がそう言ったので、おれはマナーとして後ろを向き視界を岩で覆った。すると、隣でザバッと音がしたので、エルフィ先輩が立ち上がり身体にタオルを巻いたのだろう。その後、おれの近くでザブザブというお湯の中を歩く音が聞こえてきた。
「はわっ!?」
その声でおれが反射的に身体を向けると、足を滑らせたと思われるエルフィ先輩が、背を向けた状態でこちらに倒れてくる。それを見たおれは、すぐに手を伸ばしエルフィ先輩を抱きかかえた。
「大丈夫ですか?」
「はははい、大丈夫です! ……!!」
「どうかしましたか?」
「……あああの、手が……」
「手……?」
その言葉でおれが手に意識を向けると、なにか異様に柔らかい感触が両手にある。しかも、倒れたときにタオルが取れたのか、エルフィ先輩が身に着けていたと思われるタオルがお湯に浮いている。つまり、今おれが触れている、というか揉んでいるのはエルフィ先輩の生む――
「……だ、だ、駄目……です……!」
「す、す、すいません!!」
エルフィ先輩が絞り出すように言った言葉で、なんとかおれはエルフィ先輩の身体から手を離すことができた。
「あの、本当にすいません!!」
「いいいえ、助けてくれてありがとうです!」
そうやって、頭を大きく下げながらお礼を言ってくれるのは問題ないが、他に大きな問題がある。なにが問題って、エルフィ先輩がお礼を言うときにおれのほうに身体を向けてしまったことだ。エルフィ先輩が頭を上げると、そのきれいな身体が露わになる。
腕も脚も腰も細く、強く抱きしめれば壊れてしまうのではと思わせる華奢な身体。そして、その小柄な体形にしては大きめの胸。そんな物を見せられては、おれの視線は釘付けになってしまう。
そして、おれの視線で現状に気が付いたのだろう。真っ赤な顔のエルフィ先輩が、「~~~~~~~~~~っ!!」という声にならない叫び声を上げた。




