第140話 無防備な姿
サフィアとの泳ぎの練習を終えた後。
「慣れないことをしたせいか、かなり疲れたわね」
そう言って、サフィアは両手を上げて大きく伸びをした。すると、サフィアの目の前に黄色いなにかがパサリと落ちる。……ん、あれって? と思いつつ、おれの視線は引き寄せられるように上へ向かう。
……!! ど、どうやら首に巻かれていた水着の紐が緩み、胸元にあった水着が落ちたようだ。そうなると、大小問わずそれを愛する人間として、おれはついサフィアの胸に目がいってしまう。
サフィアが気にするのも分かるように、確かに小さい。小さいが、確実に膨らみは存在しており、それは立派に女の子の胸だ。間違いなく魅力的なその膨らみに、おれの視線は釘付けになってしまった。
「レイン、どうかしたの? なんだか、さっきからやたらと視線を感じるけ……ど………………」
おれが凝視してしまっている場所にサフィアも視線を向けたようだ。そして、その状況への戸惑いゆえかサフィアは数秒ほど硬直し、その後に大きな叫び声を上げる。
「いやああああああああああ!」
「ちょ!? な、なんで抱きついてくるんだよ!?」
「だって、こうしないと他の人に見られちゃうじゃない!」
「い、いや、ここはプライベートビーチだから、他の人はいないから!」
「あっ、そうだったわ! で、でも、やっぱりあなたに見られちゃうじゃない!」
「そ、それはそうだけど、自分の手で隠すとかだな……」
そう言いつつ、おれの意識は身体のほうに集中してしまう。お互いに上半身が裸であるため、ダイレクトに伝わってくるサフィアの肌に温もり。そして、隔てる物がなに一つ存在しないおかげで、その小さな胸でも柔らかさを確かに感じることができる。
おれとしてはこの気持ちよさをいつまででも味わっていたいところだが、そうは問屋が卸さないようでサフィアが声を上げる。
「ちょっと、あなた目をつむりなさいよ!」
「わ、分かった。任せろ」
「ううん、やっぱり信用できないからこうするわ」
そう言って、サフィアはおれの目を自分の右手で塞いできた。信用してもらえないのは残念だが、これに関してはおれに前科がいくつかあるので仕方がない。そして、おれに触れていた柔らかい感触が次第に離れていくのを感じる。
だが、そうやっておれの目を塞ぐことに意識を割いていたのがいけなかったのかもしれない。おれから離れる途中で、サフィアは足を滑らせて転んだしまったようだ。
「きゃっ!」
「大丈夫か、サフィア!?」
「早く……助け……」
水に沈んで手足をバタバタさせているサフィアを、おれは急いでお姫様抱っこで抱きかかえた。
「た、助かったわ……」
「……!! そ、それはいいんだが……、……その、丸見えだぞ……」
「えっ……? やだっ!?」
手足をバタバタさせているときに残った水着の紐に手をひっかけたのだろう、今のサフィアは胸だけでなく下のほうまで完全に見えてしまっていた。だが、当然ずっとそのままなわけはなく、サフィアは両腕で自身の身体の大切な部分を隠す。
「あなた、見たでしょ!?」
「……えーっと、……すいません、見ました」
「あー、もう、最悪よ……」
「……あの、本当にごめんな。どう謝ったらいいか……」
「いいから、とりあえずあたしを砂浜まで運んでよ……」
「わ、分かった」
サフィアの言葉に従い、おれはサフィアをお姫様抱っこしたまま歩を進める。だが、絵面がヤバい。視線を下に向ければ、羞恥で顔を真っ赤にしたサフィアの一糸まとわぬ身体が目の前にあるからな。
しかも、今のサフィアは自身の身体を両腕で隠すのに精一杯、つまり完全に無防備な姿だ。だからといって、さすがに手を出したりはしないが、どうしてもそちらに視線を向けてしまうのは避けられなかった。
そんな心身ともに落ち着かない状況ながら、おれ達は無事に砂浜までたどり着く。そして、おれは地面に魔力障壁を展開しその上にサフィアを座らせた。すると、サフィアは身体を隠すように縮こませながら口を開く。
「そこにあるパーカーを取って、その後で水着を拾ってきて」
「分かった、いや、分かりました」
言われた通り、おれはサフィアのパーカーを手渡し、海に戻ってサフィアの水着を回収する。そして、おれが砂浜まで戻ると、サフィアはパーカーを着て無防備になってしまった身体を隠し、顔を俯かせていた。
おれが回収してきた水着をサフィアに渡した後、気まずい沈黙が続く。だが、いつまでもこのままというわけにもいかないし、まずはこの空気をなんとかせねば。とは言っても、今のおれには謝るくらいしかできないが。
「サフィア、本当の本当にごめんな」
「……それより、一つ聞かせて」
「あ、ああ、もちろんいいけどなんだ?」
「あたしの……、は、裸を見てどう思った……?」
「えっ!? ど、どうって!?」
「……やっぱり、がっかりした?」
「え、がっかり……?」
どういう意味だと思ったが、おそらく胸の話だろう。つまり、その小さな胸を男のおれに直接見られたのがショックということか。それなら、もちろん励ましてやるに決まっている。そうは言っても素直に本音を言えばいいだけなのだが。
「がっかりなんかしてない。むしろ、逆だ!」
「逆……?」
「前にも言ったが、胸が大きかろうが小さかろうが関係なく、サフィアはとても魅力的な女の子だぞ! だから、裸も最高に刺激的で魅力的たっだし、がっかりどころか何度だってみたいくらいだ!」
つい勢いで口に出してしまったが、裸を何度も見たいと女の子に言うのは普通に最低な発言な気がする。だが、幸いにして効果があったようで、サフィアは顔を上げ口元はわずかに緩んでいた。
「……そこまで言うんだったら、見たことは許してあげるわ。だけど、あなたって本当にエッチな人ね」
「そ、それは男だから仕方がないというか……」
「でも、あなたは人一倍エッチだと思うわよ」
「ぐっ……」
確かに、おれはその手の欲求が他人よりも強い気がする。だって、こんな状況にも関わらず、今のサフィアって全開パーカーならぬ裸パーカーなんだよな、とか考えちゃったりするし。
「じゃあ、あたしは向こうの岩陰で水着を着てくるから、あなたはここにいなさいよ」
そう言って、サフィアは大きな岩のほうへと歩いて行く。その後、その岩陰に隠れる前に、おれのほうを向いて声を発した。
「もし、あなたがどうしてもって言うなら、覗いても許してあげるわよ」
「えっ、マジで!?」
「嘘に決まってるでしょ。まったく、あなたって本当にバカなんだから」
まるで、意地悪をした子どものようにサフィアはベッと小さく舌を出しそのまま岩陰に消えていった。サフィアには本当に申し訳ないことをしてしまったが、あんな意地悪をするくらいには元気になって本当に良かった。




