第14話 デレる女の子
「試合開始ィィィ」
審判が右腕をピンと上に伸ばしながら決闘……、ではなく試合開始の宣言を行った。そして、それを聞いたサフィアはおれのアドバイス通りに<烈火炎弾>の魔法を発動する。
その魔法を全力で放つためにサフィアは魔力を全開にしたようで、サフィアの全身から赤い魔力がほとばしっている。
その様子と右手に浮かべた火炎弾を合わせると、そのサフィアの姿はさながら炎の女王と表現できる迫力だった。
「いくわよ! <烈火炎弾>!!」
それを見た試験官は魔力障壁を発動する。だが、サフィアの<烈火炎弾>はおれの見立て通り、その魔力障壁をあっさりと壊し、試験官のプレートをも割った。しかも、それで終わりではなく、試験官の全身が炎に包まれる。
そして、それを見た審判が声を上げた。
「試験官さん! 大丈夫ですか? 試験官さんっ!」
………………やっべー、サフィアの魔法は思っていた以上の威力だったわ。
いや、違うんですよ。確実に勝てるって判断はしたんですけど、やりすぎかどうかって視点では見てなかったんですよ。だから、別におれの観察眼がフシアナスさんってわけじゃないんですよ。
まあでも、さすがにそこは試験官。魔法が直撃する前にちゃんと全身に魔力を纏って防御をしていたようで大したダメージはないようだ。そして、炎が消えたあと、回復魔法で問題なく自分を治療していた。
その後、試験官が無事な姿を確認した審判が高らかに宣言する。
「試合終了! サフィア・ラステリ-スは入学試験を合格とする!」
「やった! やったわ!」
サフィアは両手でガッツポーズをして、とても嬉しそうに笑っていた。うんうん、やっぱり美少女は怒っている顔より笑顔のほうがいいよね。
*****
無事に試験に合格したサフィアは観客席へと戻りおれの近くまで来たが、座ろうとはせず少し離れたところで、ばつが悪そうな顔をしている。
まあ、試合の前は露骨に態度が悪かったからな。合格して冷静になった結果、その問題に気付いたといったところか。それなら、ここはおれが大人の対応をしてあげよう。
「サフィア、合格おめでとう」
「え? あ、ああ、うん、ありがと……」
「さっきのことなら、おれは別に気にしてないぞ。だから、突っ立ってないで座れよ、サフィア」
おれは気にしてないとアピールするために笑顔でそう言って、自分の隣の席をポンポンと叩いた。すると、サフィアはやや気まずそうにしながら、おれの隣の席に腰を下ろした。
そして、サフィアはしばし逡巡したあと、ぽつぽつと話し始めた。
「……あの、さっきはその、……ごめんなさい。あたし、気が立ってて、……その、あなたにひどい態度をとっちゃったわ。本当にごめん」
「いや、さっきも言ったようにおれはあれくらい全然気にしてないぞ」
「……本当に?」
「ああ、おれの師匠なんて怒らせたらすごい怖いからな。しかも、頭や首や心臓めがけて殺す気で魔法を放ってくる。それに比べたらさっきのなんて、おれにとってはそよ風みたいなもんだ」
「ふふっ、あなた変なこと言うわね。そんなことする人いるわけないじゃない。でも、おかげで気が楽になったわ」
そんなことする人がいるんだよなあ……。まあ、サフィアは楽しそうに笑ってるし、おれの発言が冗談だと思われたのは結果オーライだな。
「あ、それと……」
「どうした?」
「……その、あなたのおかげで試験に合格できたわ。だから……、その……、ありがと……」
素直にお礼を言うのが気恥ずかしいのか、サフィアは頬を朱に染めて両手を合わせもじもじさせながらそう言った。おれがそのサフィアの顔に見惚れていると、サフィアは恥ずかしそうにプイッと顔を逸らした。
なんだ、こいつ、可愛いな、おい。
*****
「ねえ、そういえば、ミアはどうしたの?」
「ああ、リミアなら訓練場のほうで実技試験をやってる。あっちにいった受験者は基本的に全員合格らしい」
「そっか、じゃあ、ミアも合格なのね。良かった。でも、そういうことならあたしもそっちに行けると思ってたんだけど、なにがダメだったのかしら?」
「……さあ、なんでだろうな?」
おれはその理由を知っているのだが、サフィアの合格が決まった以上、あえてそれを説明する必要はないだろう。秘密にするっていうのが、あのロリコン先生との約束だからな。
そんな雑談をしているうちに時間が進み、ようやく試験官がおれの名前を呼んだ。
だが、おれが闘技場に降りる前になにやら偉そうな先生が手元にあった紙を見ながら声を上げた。
「次の受験生は平民な上に……、たった一種類だと。なんだ、こいつは……」
おれから言わせれば、お前こそなんだと言いたくなる発言である。そして、その先生は試験官に向かって話し始めた。
「おい、試験官。次の受験生は私が担当する」
「え……? し、しかし、カースナ先生ほどの実力者が試験官では……」
「ほう、君はこの私に意見をするのかね?」
「……し、失礼しました」
「なに、安心したまえ。別に試験の条件を変えるつもりはないよ。この受験生がある程度の実力を示せれば合格にしよう」
なんか言ってるけど、最初の言いぐさから察するに、あいつおれのことが気に入らないから自分の実力でおれを落とす気だよな。
あの偉そうな態度や試験官の対応から察するにあいつは貴族なんだろう。なら、平民で保有魔法数が一種類のおれなんか魔法学院に入学させたくないということか。
まあ、試験の条件を変えるつもりはないって言質は取れてるし、他の先生や受験生もそれを聞いている。なら、問題はないだろう。確かに他の先生よりは強いようだが、おれから言わせればその実力差は五十歩百歩どころか五十歩五十一歩だ。大したことはない。
さて、おれは余裕なのだが、先生達の会話を聞いていたサフィアは不安そうにおれに声をかけてくる。
「ね、ねえ、あなた大丈夫なの? あの先生かなり強いんだろうし、マズイんじゃないの?」
知り合って間もないおれのことを心配してくれるとか、こいつ実は良い奴だな。そういえば、最初にあったときも親切に宿屋まで案内してくれたしな。
「なに、気にすることはない。そして、最初に言っておく。俺はかーなーり、強い!」
「それ、最初に言ってないじゃない!」
おっ、この状況でツッコミができるとはなかなかやるな。サフィアとも仲良くなれそうな気がしてきたぞ。
「まあ、大丈夫だから安心して見てろ。あいつはある程度の実力を示せれば合格にしようとか言ってたが」
おれはそこで一度言葉を切り、腕を組んではるかな高みからあの偉そうな奴を見下ろして言い放った。
「別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
14話を読んで頂きありがとうございました。
これからも本作をよろしくお願いします。
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