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第133話 据え膳

 お義母様の采配の結果、おれはリミアの部屋で一夜を過ごすことになった。こんな言い方をすると意味深に聞こえるが、部屋の中にいるのはおれ一人なので残念ながら深い意味はない。


 しかし、あれだな。仮にも女の子の部屋でおれが一晩過ごしてしまってもいいのだろうか? まあ、リミアにも許可は取ってたみたいだし問題ないか。それに、今この家にいるのはおれを除いて全員女性であることを踏まえると、おれが一人部屋に泊まるのは妥当ではある。


 さて、今日はもうすることもないし、明日はお待ちかねの海だからな。であるならば、明日に備えて早めに寝てしまったほうがいいだろう。そう思い、布団にもぐろうとしたところで、ドアからノックの音がした。


「……あの、レインさん、入ってもいいですか?」


「リミアか。もちろんいいぞ」


 おれがそう答えるとゆっくりとドアが開き、おずおずとしながらリミアが部屋に入って来た。なんか様子がおかしいなと思っていたが、リミアが窓から差し込む月明かりに照らされたことでその理由が明らかになる。


「ちょっ! リミア、その恰好は!?」


「こ、これは、お母さんが今日はこの格好で寝なさいって……」


「そ、そうなのか……」


 極薄の布で作られたネグリジェを着ているリミアの姿に、おれはつい見入ってしまう。こ、こんなけしからん格好で娘を寝かせるとかお義母様はいったいなにを考えてるんだ? ただ、なにを考えてるという話なら、こんな格好で男であるおれのところまで来たリミアもそうである。


「そ、それで、なにか用か?」


「用と言うか……、今日はこの部屋でレインさんと一緒に寝ろってお母さんが……」


「なっ……!!」


 ま、マジでなにを考えてるんだ、お義母様は!? 言わば狼の縄張りであるこの場所に、こんなに極上のひな鳥を放り込むとは! しかも、ひな鳥を守るべき父親鳥はあろうことか母親鳥に排除されてしまったので、完全に据え膳状態である。


「じ、じゃあ、そういうことなのでよろしくお願いします」


 おれが動揺している間にリミアは布団の端にちょこんと座った。どうやら、真面目なリミアは母親の言うことを守ってこの部屋でおれと寝るつもりのようだ。と、とりあえず、おれも一旦座るか。


「こ、こちらこそよろしくお願いします」


 いったいなにがよろしくなのか分からないなと思いつつ、おれは改めてリミアの姿を見る。……胸の北半球の見え方から考えると、少なくともブラジャーは付けてないよな。駄目だ、こんな姿を見せられては、どうしてもそこに視線が釘付けになってしまう。


「……やっぱり、気になりますか?」


「ご、ごめん、見られるのは嫌だよな!」


「い、いえ、わたしは平気なので。ほら、バイトのときもレインさんによく見られてますし」


「そ、それはそうなんだけど……」


 確かに、バイト先でも胸をよく見てしまっているし、そんなおれをリミアは優しく受け入れてくれている。とはいえ、今日はマズイ。ただでさえ、昼過ぎにリミアの裸を見てしまい、その光景をまだ鮮明に覚えているというのにこの状況だ。


 まあ、いざとなれば、以前やったように<麻痺(パリジス)>を自分にかけて行動を封じるという手はある。だが、あれも結局はおれの胸三寸だ。おれの理性が完全に崩壊すれば、<麻痺(パリジス)>を使わないことも、使った後で<解毒(ディベネ)>で解除することもできてしまう。


 そのあたりを踏まえると、一夜の過ちを犯さないためにもこの場は戦略的撤退をすべきだろう。まだ、こうしておれの理性が働いている今がチャンスだ。


「や、やっぱおれは外でっ!?」


「きゃっ!」


 立ち上がって部屋から出ていこうとしたおれだが、動揺のためか足を滑らせリミアを押し倒してしまった。そのせいで、今おれの目の前にはリミアのきれいな顔がある。


 くりっとした可愛い目に整った鼻、そしてきれいな桜色の唇。その魅力からおれが視線も身体も動かせずにいると、リミアはそっと目をつむった。え、なにそのキス待ちみたいな顔!? え、マジでしていいの!?


 というか、こんな状況でこの顔を見せられて我慢できるような精神力を、おれが持ち合わせているわけがない。本能に従って自分の顔をリミアの顔へ近づけていき、その距離がゼロになる……、前にバタッとドアが開かれた。


「リミア、大丈夫か!?」


「お、お父さん!?」


「おい、そこにいるのはレインくんか!? なぜ、君がリミアと一緒にこの部屋にいるんだ!?」


「あなたこそ、なんでこの家にいるんですか?」


 突然後ろから現れたお義母様にガシッと左肩を掴まれ、お義父様はビクリと身体を震わせる。そのまま、お義父様は問答無用で部屋の外へ出され、ドアがパタンと閉じられた。


「あなたには、帰るのは明日の朝でいいって言いましたよね?」


「痛い、痛い、痛い!! ちょ、待って、ミアラ!! 腕はそっちに曲がらないから!!」


「あら、そうですか? でも、もう少しで曲がりそうですよ?」


「それ折れるだから!! ……あっ、そうだ、仕事仕事!! 腕が折れたらしばらくは仕事ができなくなっちゃうよ!!」


「あらあら、嫌ですね、あなたったら。私は回復魔法が使えるんだから、折れた腕もすぐに元通りになりますよ。……あ、そう考えると、仮に何回か腕が折れたとしても大丈夫ですね」


「じょ、冗談だよね!? あっ、待って、ミアラッーーーーー!!」


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