第132話 お義母様は怖い人
大衆浴場にてお風呂を済ませたおれ達はリミアの家へと帰った。そして、夕食としてリミアのお母さんが振舞ってくれた手料理を味合わせてもらった。
さすがは料理上手なリミアのお母さんと言うこともあり、その料理は最高の一言だ。特に本日のメインである鮎料理は絶品だった。これに比べると山岡さんの鮎はカスや。
そうやって、おれが食後の余韻に浸りながら家の縁側で涼んでいると、誰かがやってくる気配がした。見ると、そこのいるのはリミアのお母さんとお父さん、つまりおれの未来のお義母様とお義父様だ。
「レインくん、夕ご飯はどうだった? お口にあったかしら?」
「あ、はい、とても美味しかったです。ごちそうさまでした」
「お粗末様でした。それなら良かったわ」
「それで、おれになにか用ですか?」
「そうなの。実は、レインくんにお礼を言おうと思って」
「お礼……ですか?」
なんのことだろうとおれが首を傾げていると、お義母様とお義父様は深々と頭を下げながら口を開いた。
「魔法学院の入学試験のときは王都に着くまで、そして着いた後も娘が大変お世話になりました。本当にありがとうございました」
「ああ、そういうことですか。それなら、おれは別に大したことはしてないから気にしなくていいですよ。だから、顔を上げてください、お義母様、お義父様」
「あらあら、お義母様って呼んでくれるなんて嬉しいわね」
その言葉の通り、お義母様は右手を頬に当てながら嬉しそうに微笑んでいた。だが、そんなお義母様とは対照的に、お義父様はムスッとした顔で話し始める。
「レインくん、娘が世話になったことについては俺も本当に感謝している。何度お礼を言っても言い足りないくらいだ。だが、君にお義父様と呼ばれる筋合いはない」
「ちょっと、あなた。娘の恩人に対して失礼ですよ」
「痛っ! 痛いからやめて、ミアラ!」
お義母様に耳を思いっきり引っ張られたお義父様が泣き言を言っていた。この様子を見るに、お義父様はお義母様の尻に敷かれているみたいだな。そうなると、おれも将来はリミアの尻に敷かれるかもしれない。だが、それで全然構わないし、なんなら物理的にも尻に敷かれたいくらいだ。
「それで、話は変わるんだけど、今日はみんな家に泊まってくってことでいいのよね?」
「そうですね。できれば、全員泊めてもらいたいと思ってます。あ、でも、もし無理そうだったらなんとかするので全然大丈夫ですよ」
「あらあら、レインくんは本当に良い子ね。でも、安心して。ちゃんと全員泊めてあげるから」
お義母様は優しくそう言ってくれたが、難しそうな顔をしたお義父様が口を挟む。
「そうは言うが、ミアラ。我が家の狭さだと全員は厳しくないか? 一度、ちゃぶ台とかを片付けてスペースを確保しないと、一人分は足りないだろう?」
「あら、そういうことなら良い方法があるじゃないですか」
「そうなのか、さすがは俺の嫁だ。で、その方法とは?」
「簡単ですよ。あなたがよその家に泊まってくればいいんです」
「…………………………え?」
お義母様の思わぬ言葉にお義父様が固まった。だが、そんなお義父様の背中を容赦なく玄関までグイグイ押しながら、お義母様が口を開く。
「では、あなた、おやすみなさい。お帰りは明日の朝でいいですからね」
「ちょ、ちょっと待っ――」
お義父様の言葉を待つことなく、お義母様はピシャリとドアを閉めて鍵を掛けた。
「……あの、いいんですか?」
「あら、これくらい平気よ。きっと、友人の家にでも行って飲み明かして帰ってくるわ。それより、誰がどの部屋で寝るかは私が決めてしまっていい?」
「あ、はい、お願いします」
お義父様には申し訳ないが、これ以上はなにも言わないでおこう。しかし、お義母様は思っていたよりも怖い人なのかもしれない。失礼のないよう言動には気を付けていたが、これまで以上に注意しないといけないな。