第131話 大衆浴場
夜になり、おれ達は大衆浴場を訪れていた。おれ達と言っても、この大衆浴場は混浴ではないので、男湯にいるのはおれ一人だが。
……正直な話、壁で区切られた隣の女湯はすごく気になる。すごく気にはなるが、ここは紳士として覗きなどの不埒な真似は絶対にしない。そのことを、おれは光の女神であるリミア様と、選ばれし神であるルミル神の二神に誓い、心を無にして風呂につかった。
*****
一方その頃、女湯では――
「やっぱり、ミアの胸っておっきいわよね」
「な、なんですか、急に」
風呂につかっている最中に飛んできたサフィアの不躾とも言える言葉を受け、リミアは反射的に胸を両腕で覆った。だが、その大きな胸は両腕で隠しても隠しきれず、腕の隙間や端からその膨らみが見えている。
「羨ましいって話よ。ほら、あたしなんてこれっぽっちだし」
そう言って、サフィアは自分の両手を両胸に当てた。すると、その小さな胸は両手の中にきっちりと収まってしまい、わずかな胸の膨らみさえ見えなくなってしまう。
「む、胸はそうかもしれませんが、サフィアさんはスタイルがとても良いじゃないですか」
「まあ、それはそうね。胸の大きさ以外なら、ミアにだって負けてない自信があるわ」
胸の話から一転して、サフィアは自慢げにそう返した。その言葉の通り、細い腕や引き締まった腰、そして健康的に伸びる白い脚はリミアに負けず劣らずのスタイルの良さだ。
「なにやら盛り上がっているな。二人ともなんの話をしているんだ?」
少し遅れて身体を洗い終え風呂につかろうとしたアイシスが、リミアとサフィアに問いを投げた。だが、二人はその問いに答えを返さずに、いや、ある意味では正しく問いに答えた。
「すごくおっきい……」
「はい、とても大きいです……」
「い、いったいなんの話だ!」
リミアとサフィアから無遠慮な視線を向けられ、アイシスも両腕で胸を覆った。だが、リミアをも超えるその豊満な胸が、両腕だけで隠しきれるはずもなかった。なお、胸以外のスタイルもリミアやサフィアに負けず劣らずなのは言うまでもない。
その恵まれたアイシスの身体を見て、サフィアはやや不満げに言葉をこぼす。
「むう……。これって、食生活の差なのかしら? 貴族のアイ先輩なら普段から良い物を食べてるだろうし。あ、でも、それだとミアはあたしと大差はないわよね。……ミアのお母さんも大きかったし遺伝、やっぱり、遺伝なの……?」
「年齢の影響もあるだろう。私は十二月生まれなので遅いほうだが、それでも君達よりは一学年上だからな。リミア君はもしかすると誕生日が早いんじゃないか?」
「そ、そうね、その可能性もあるわ! 何月生まれなの、ミア?」
「わたしは十月生まれです」
「うっ……。あたしは十一月だから一ヵ月しか違わない……」
一瞬だけ覗いた希望は風呂の泡のようにあっさり消え去り、絶望からかサフィアはガクッと肩を落とした。そのまま、顔の半分まで風呂につかり口からブクブクと泡を出しながら、羨まし気にリミアとアイシスの胸に目を向ける。
「アイ先輩、一つお願いがあるんですがいいですか?」
「私で聞ける内容であれば聞こう」
「じゃあ、胸を触らせてください!」
「なっ……! ど、どうしてそうなる?」
「だって、おっきい胸を触れば、そのご利益であたしの胸もおっきくなるかもしれないじゃないですか!」
「そ、そういう物だろうか……?」
困惑するアイシスに、サフィアは熱湯のように熱い視線を向ける。その視線に根負けしたのか、アイシスは諦めたように口を開く。
「……まあ、女性同士だしな。少しくらいなら構わないよ」
「ありがとうございます!」
サフィアはアイシスの正面へと移動し、大きく実った二つの果実へと手を伸ばし、そして掴んだ。
「うわっ……、とっても柔らかくてふわふわ……。なにこれ、しゅごい……」
「先ほどから、君は少々様子がおかしくないか?」
「なにこれ、癖になりそう……」
「聞いていないな……」
巨乳への憧れか、はたまた女性ですら虜にしてしまうアイシスの魅力ゆえか、サフィアの様子は少しおかしくなっていた。そして、その毒牙の矛先が今度はリミアへと向けられる。
「じゃあ、次はミアのを揉ませて!」
「ええっ!? わ、わたしもですか?」
「減るもんじゃないし、少しくらいならいいでしょ?」
「……わ、分かりました」
アイシスと同様にリミアも諦めたように口を開く。すると、サフィアは素早くリミアの正面へと移動し、その大きく実った二つの果実を掴む。
「うわっ……、こっちもしゅっごく柔らかい……」
「……あ、あの、やっぱり恥ずかしいんですけど……」
「なにこれ、超気持ちいい……」
「うう……、聞いてないです……」
こうして、もしレインが知れば、「おいサフィア、そこ代われ! いや、代わってください、お願いします! なんでもしますから!」と思わず言いたくなるような光景が女湯で繰り広げれていた。