第13話 不機嫌な美少女
リミアの可愛い顔を目の前にしてドキドキしながら、おれは入学試験の説明をしていた。
「――で、情報源は秘密なんだけど、リミアは合格基準を満たしてるから大丈夫だ。安心して良い」
「そうなんですね……。魔法に詳しくて、あんなに強いレインさんがそう言うなら大丈夫ですよね?」
まだ、リミアには若干の不安が残っているようなので、リミアを安心させるためにおれは笑顔を作って力強く宣言する。
「ああ、リミアなら絶対に合格する。おれを信じろ!」
「……はい! レインさんを信じます!」
おれの笑顔と言葉で安心したのか、リミアもそう言ったあとで笑顔を見せてくれる。その笑顔は窓から差し込む月明かりに照らされ、とても輝いて見えた。
その後、安心したおかげかすぐにリミアは眠りにつき、そんなリミアと一緒にベットにいることでまったく眠れる気がしないおれは、<睡眠>を使って無事に眠りについた。
いや、本当に無事か、これ? おれ、リミアと出会ってからこの魔法の依存症になってるんだけど大丈夫かなあ?
*****
朝を迎え、とうとう入学試験の当日となった。
リミアと共に魔法学院へと向かい、指定された教室にてまずは筆記試験を受けた。これに関しては、事前の情報通りで特に問題はなかった。
さて、次は魔力測定か。
おれは指定された部屋へと入る。中には試験官の先生がいた。
「では、この魔道具に触れて魔力を込めてみてください」
おれは言われたとおりに魔道具に魔力を込める。こちらからは分からないが、試験官からはおれの魔力量と保有魔法数が見えているのだろう。
「はい、もう大丈夫ですよ。……では、次は実技試験になりますので闘技場に向かってください」
おれはその部屋を出て廊下を歩く。すると、リミアが途中で待っており、おれの姿を見ると駆け寄ってきてくれた。
「レインさん、どうでしたか?」
「おれは闘技場に向かってくれって言われた。リミアは?」
「わたしは訓練場に向かうように言われました」
「まあ、予想通りだな。おれは試験官の先生とでも戦って実力の確認をするから闘技場。リミアのほうは軽く魔法を使って形だけの試験をするから訓練場なんだろう。大丈夫、リミアは合格だよ。おめでとう」
「はい、ありがとうございます!」
リミアは花が咲いたような笑顔を浮かべてそう言った。
「レインさんは先生と戦うそうですけど、大丈夫ですよね?」
「もちろん余裕だ。けど、行き先が違うから残念ながら一緒には行けないな」
「そうですね……。じゃあ、またあとで」
「ああ、またな」
そして、おれは一人で闘技場へと向かった。
*****
闘技場に到着すると、入り口を入ってすぐのところに試験の内容が書かれた紙が貼られていた。
……なになに、実技試験では試験官と受験生が一対一で戦う。その際、試験官は左胸の辺りに星形のプレートを付けているから、それを壊せれば合格。壊せない場合は、戦闘の内容で合否を判定する、と。
うむ、特に問題のない試験内容だ。勝ったなガハハ!
さて、肝心の試験の状況だが、時間効率を上げるためか、闘技場の中ではすでに試合が始まっていた。先ほどの説明書きには、自分の名前が呼ばれるまでは観客席で待機しておくようにと書かれていたので、おれは素直に観客席へ向かう。
すると、見覚えのある顔を見つけた。おれの二人目のメインヒロインであるサフィア・ラステリ-スだ。おれの予想通り、やはりこっちの闘技場にいたか。
さて、そんなサフィアだが、その可愛い顔を歪めており、なにやらブツブツと言っている。どうやら、機嫌が悪いようだ。
「この試験って負けたら不合格なの? おかしいわね。あたしが聞いた話によると、強ければ戦わずに合格って話だったと思うんだけど……」
どうやら、サフィアは試験の内容に関する噂かなにかをどこかで耳にしていたらしく、その情報と現在の状況が違うことで不機嫌になっているようだ。昨日はあんなに自信満々だったのに蓋を開ければ、不合格かもしれませんってことだしなあ。
まあ、せっかく再会したし、困っているようなのでアドバイスをしてあげよう。人に優しく、美少女には特に優しくがおれのモットーだ。
「隣、座って良いか?」
「はあ? なによ、あんた!」
サフィアにギロリと睨まれた。その顔はそれなりの迫力があり、前世のおれなら「す、す、す、すいませんでした」と震えながら言って逃げ出していただろう。
だが、今世のおれは違うぞ。だって、年齢の話をしたときの師匠の顔はこの百倍は怖いからな。
そのときの師匠の顔を例えるなら、「子どもが外敵に狙われ必死に守ろうとし、敵を全力で排除せんとする百獣の王、ライオンの顔」だ。
それに比べて今のサフィアの顔は、「大した力もないのに敵に対してフッーとふきつける愛玩動物、子猫の顔」で怖いどころか可愛いまである。
そんな可愛い子猫をなだめるために、おれはなるべく優しい声音を出すように意識して話し始める。
「とりあえず、落ち着け。一応、顔見知りだし、少し話をしてもいいか?」
「そうだけど、あたしは話すことなんてないわよ」
「まあ、待て。試験に合格したいんだろ?」
おれのその言葉にサフィアの肩がピクリと跳ねた。まあ、当然この話なら聞く気にはなるだろう。サフィアが聞く耳を持っているうちにおれは言葉を続ける。
「おれの見立てだとお前は相当強いだろ? 使える魔法で一番強い攻撃魔法はなんだ?」
「それなら、<烈火炎弾>ね」
ほう、入学前ですでに炎の中級攻撃魔法が使えるのか。それに、サフィアの魔力はかなり高い。そして、闘技場で戦っている試験官は当然全力は出してないようだし、それらを踏まえればサフィアは問題なく合格できるだろう。
「じゃあ、大丈夫だ。試合開始と同時に<烈火炎弾>を全力で放てば、試験官の魔力障壁どころか星形のプレートまで壊して合格だ」
「それ、本当なの?」
サフィアは訝しげな目でおれを見た。まあ、サフィアはおれの実力を知らないわけだし、そんなおれの話をそう簡単に信用できるわけもないか。
「仮にそれで駄目だったとして、<烈火炎弾>を一発全力で放ったくらいなら、お前には全然支障はないだろ? なら、そのあと普通に戦えばいいだけなんだし、騙されたと思ってやってみろって」
「……まあ、それはそうね。ただ、もしそれで上手くいかなかったら、あんたのことはただじゃおかないからね」
少々、理不尽な物言いな気もするが、人は不機嫌なときにそういう言動を取ってしまうものだ。それに、サフィアはまだ十五歳の女の子だという点を踏まえれば、仕方がないだろう。
だが、このあとの実技試験で合格が決まれば機嫌も直り、最初に会ったときの可愛いサフィアに戻るはずだから、それを楽しみにしておこう。
で、そのためには、先ほどのおれのアドバイスが正しいかどうかが重要だが、それに関しては問題ない。長年の修行で身に付けたおれの観察眼は伊達ではないからな。
その後、しばしの時間が経って試験官がサフィアの名前を呼び、サフィアは観客席から闘技場の中へ降りていく。
そして、サフィアの実技試験が始まった。