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第12話 開かれた新しい扉

 おれはとある日、魔法学院の入学試験に関する情報を得るために王都に来ていた。


 情報を制する者が戦いを制す、という言葉があるし、師匠の魔眼によると、他の魔法を模倣したあとでもおれの保有魔法数は一種類に見えるとのことだからな。


 おれのような特殊な人間はいくら強くても、条件次第では試験に不合格ということはあり得る。そういう意味でも、やはり情報収集は必須だ。


 そういうわけで、おれは情報を得られそうな人間が魔法学院から出てくるのを待っている。そして、しばしの時間が経ち、ターゲットとしてちょうどよさそうな男の先生が出てきた。


 まあ、とりあえず様子見で普通に行くか。


 TAKE1――


「あの、すいません、ちょっといいですか?」


「ん? なんだね、君は?」


 おれが声をかけると、おれの顔を見たその先生はやや怪訝そうな顔でおれを見た。やはり、警戒はされているようだが、まあいい。


「ちょっと魔法学院の入学試験について訊きたいことがあるんですが……」


「君、その格好からして貴族じゃないよね?」


「はい、そうですが」


「なら、他をあたってくれ。私は忙しいんだ」


 そう言って、その先生はスタスタと歩き去った。まあ、だいだい想定通りの結果だな。よし、予定通り、あの手で行こう。


 TAKE2――


「あのー、すいませーん、ちょっといいですかー?」


「ん? ああ、なんだい?」


 おれが先ほどと同じ先生に声をかけると、おれの顔を見たその先生は嬉しそうな顔でおれを見た。やはり、こうなったか。


 なんたって、今のおれは、<変身(メルフォス)>の魔法で美少女に変身しているからな。世の男は大抵、美少女に甘い。それは、この先生も同様だろう。


「実はー、魔法学院の入学試験について訊きたいことがあるんですよー」


「そうかい、そうかい、なんでも訊いてくれ」


「えー、なんでもいいんですかー? じゃあ、本当は秘密のことまで教えてもらえたりとかー?」


「……まあ、君になら特別に教えてあげてもいいかなあ」


 ふっ、ちょろいな。というか、こんな会話をしているのにこの先生、おれに対して魔眼を使う気配がない。凝……ではなく魔眼をおこたっているあたり、ハニートラップとかを警戒していないようだ。


 まあ、おれの変身魔法は師匠から模倣させてもらったやつだから、よほどの使い手でもなければ、変身していると見抜けないけどな。


 そう、本当に師匠の変身魔法は性能が高い。さらに言うと、師匠は変身魔法の発動速度も速く、分かりやすく例えるなら音を置き去りにする拳の如き速さだ。


 たぶん、自身の肉体の衰えと美の才能の限界を感じた師匠は昔、一日一万回感謝の<変身(メルフォス)>をやっていたと思う。


 さて、そんな師匠のおかげで情報収集も余裕だな。あとは、合コンの「さしすせそ」でも使って話をすれば余裕だろう。


 ちなみに合コンの「さしすせそ」とは、「サラマンダーは僕が倒した」、「死者と契約したのさ」、「スティグマが疼くんだ」、「世界が滅びる音がする……」、「そーなんだー」の五つである。


 だが、そうやって余裕をかましていたおれに対し、思わぬ言葉が飛び込んできた。


「じゃあ、ここだとなんだし、どこかでご飯でも食べながら話そうか?」


「……え?」


 どうしよう、これ? なんかこの先生の目が怖いよ。本当にご飯を食べるだけですむの、これ? いやだ、断りたい!


 じゃあ、どうやって断ろう? 分厚いATフィールドを持つ某声優さんがランチに誘われた際に、「これからお昼食べに行くから」と断ったという逸話に倣って、同じ方法で断ればいいかな?


 いや、おれには無理だな。普通に逃げよう。


「すいません、用事を思い出しましたー」


 おれはこの先生から一目散に逃げだした。


 くっ、こんな形で失敗するとは思ってなかったが、おれにはもうひとつ策がある。次はその方法でいこう。


 TAKE3――


「あの……、ちょっといい?」


「ん? お、おお、どうしたんだい、お嬢ちゃん?」


 おれが先ほどと同じ先生に声をかけると、おれの顔を見たその先生は心配そうな顔でおれを見た。やはり、こうなったか。


 なんたって、今のおれは、<変身(メルフォス)>の魔法で美幼女に変身しているからな。世の人間は大抵、小さい子どもが一人でいると心配するものだ。さらに、世の男は大抵、美幼女にも甘い。そして、この先生は幼女に対してさっきのような真似はしないだろう。


「お嬢ちゃん、もしかして迷子かい?」


「まいごじゃなくてききたいことがあるの」


「そうなのか。なんだい?」


「じつは、おにいちゃんがまほうがくいんをうけるんだけど、ごうかくできるかふあんで……」


 そう言って、おれは涙を流す。だが、この涙は本物ではなく、水魔法を使ってそれっぽく見せただけである。おれに十秒で重曹を舐める天才子役のような演技力はない。


「あ、ああ、泣かないで、お嬢ちゃん! 訊きたいことがあれば、私がなんでも答えてあげるからね! ただし、ここでの話は私と君と君のお兄ちゃん以外には内緒だよ」


「うん、ありがとう! じゃあ、しけんについておしえて」


「ああ。まず、試験は三種類。筆記試験、魔力測定、そして、実技試験だ」


「ひっきしけんはむずかしいの?」


「いや、簡単だよ。基礎的な学力を確認するだけだから、読み書き計算ができれば大丈夫」


 なるほど。まあ、さすがにそれくらいはできないと授業をするのは大変だろうから、最低限の学力は欲しいということだろう。特に問題はない試験だな。


「まりょくそくていは?」


「魔力の量と保有魔法数を確認できる魔道具があるから、それを使って能力を確認するんだよ。ただ、保有魔法数が多ければ基本的に魔力の量も多くなるから、重要なのは保有魔法数だね」


「いくつくらいあればいいの?」


「四種類以上あれば無条件で合格だよ。その場合、その後の実技試験は形だけの物になるんだ」


 これはおれには厄介な条件だな。おれの保有魔法数は一種類だからこの条件では合格できない。だが、四種類以上で無条件合格なら、裏を返せば三種類以下でも条件を満たせば合格ということになる。


「おにいちゃんはよんもないんだけど、どうなるの……?」


「あ、ああ、大丈夫、大丈夫だよ! 実技試験である程度の実力を示せれば合格だから。 ……ちなみに、お兄ちゃんは強いのかい?」


「うん、すっごくつよい!」


「良かった。それなら、大丈夫だよ」


 よし、おれは強さには自信があるし、特に問題はなさそうだな。必要なことは聞けたし、さっさと撤退しよう。


「せんせい、ありがとう!」


 情報をくれたお礼として、おれは美幼女として満面の笑みを浮かべ、それを見た先生は固まり、その美幼女スマイルに見惚れていた。


 ちょうどいい。今のうちに逃げよう。そう思い、おれは幼女らしく、とてとてと歩いてその場をあとにした。


 よし、無事に今回の作戦は成功した。やはり、美幼女は対人にて最強……。


 ……あれ、今更だけど、今までのやりとりって魔法を使ったハニートラップだし、やっぱりこの世界では犯罪だったりするのかな?


 まあ、おれの前世には、バレなきゃ犯罪じゃないんですよって言葉もあるし大丈夫だろう。


 あとはあれだな。おれほどの実力者なら、もしこの世界に危機が訪れたときに、きっと勇者として活躍することになるだろう。


 そして、勇者とは民家のタンスなどを勝手に漁ったり、城の宝箱の中身を無断で持ち去っても罪に問われることはない。


 よって、さっきの行為が仮に犯罪だったとしても、未来の勇者であるおれの行動なのでセーフである。


 Q.E.D. 証明完了。


 そうして、胸をなでおろしたおれの後ろから、さっきの先生の独り言が聞こえてきた。


「小さい女の子、良い……」


 …………………………。


 やっべー。どうやらおれは、あの先生の新しい扉を開いてしまったようだ……。


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