第119話 夏休みの予定
食堂にて、おれは美少女達にお説教を受けていた。
「まったく、あなたはもう少し警戒心って物をもちなさいよね」
「そうですよ。レインさんには節度が足りないと思います」
……『節度』、おれの非常に好きな言葉だ。知的な者とそうでない者を分ける境界線と言ってもいい……。その点でいくと、おれは美少女はもちろん、相手が女の子であれば知的レベルが下がるきらいがあるからなあ。
「だいたい、魔法大会で結果を出したのを見てから近づいて来るとか怪しいじゃない」
「はい、なにか下心があるかもしれません」
……ふむ、まあ確かに先ほどの女子達にはそういう考えがあるのかもしれない。あれほどの実力を見せつけた以上、傍から見ればおれは将来有望な男子だからな。今のうちに唾をつけておこう、という可能性はあるか。
「分かったら、今後は女子達にもっと気を付けなさいよね」
「そうですね。話すなとは言いませんが適切な距離感を保つべきだと思います」
しかし、サフィアだけでなくリミアまで妙に感情的な気がするな。まあ、二人の機嫌が悪いのは間違いないので、ここは素直に頷いておこう。
「分かった、今後は気を付けるよ」
「分かればいいのよ」
「ちゃんと、気を付けてくださいね」
おれの言葉で二人の機嫌はある程度良くなったようだ。よし、このまま別の話題に入るべきだな。七月になったから、ちょうどいい話題もあるし。
「ところで、二人は夏休みはどうするんだ? おれは、とりあえず帰省はしようと思っているんだが」
「あ、わたしも帰省する予定です」
「あたしはその予定はないわね。そもそも、この王都の生まれだし」
「じゃあ、リミアは故郷のカナイ村までおれと一緒に帰らないか? 魔法学院の受験のために王都に来たときと違って、もう護衛は必要ないだろうけど、まあ一応な」
「そうですね、一緒のほうが楽しいですし」
「あ、ちょっと待って」
帰省の話がまとまったタイミングで、サフィアが話に入って来た。
「どうした?」
「あなた達の故郷ってちょっと興味があったのよね。だから、あたしも一緒に行きたいんだけど……。……って思ったけどごめんなさい。よく考えたら、帰省に付いて行くのはさすがに迷惑よね……」
「いや、おれは別にいいけど。どうせ、帰っても居るのは師匠だけだし、迷惑ってこともない」
「わたしも大丈夫ですよ。むしろ、お友達と一緒なら、お母さん達は喜んでくれると思います」
「そうなのね、良かった。じゃあ、お言葉に甘えて、あたしも付いて行かせてもらうわね」
なにやら思わぬ展開になったが、特に問題はないな。というか、サフィアとも夏休みに一緒にいれる時間が増えるなら、それはむしろ歓迎である。それと、おれにも一つ気になることができたな。
「そういえば、おれもリミアの故郷に興味があるんだけど、道中だけじゃなくカナイ村まで付いて行ってもいいか?」
「はい、もちろんいいですよ。それなら、わたしもレインさんの故郷にお邪魔させてもらっていいですか?」
「ああ、むしろウェルカムだ」
「ありがとうございます」
話の流れで、より楽しい帰省の予定ができたな。……さて、帰省の話がまとまったところで次の話題だ。もうすっかり夏だし、美少女をこよなく愛する者として気になるのはやはりアレだな。ここは、思い切って言ってみよう。
「……後は、この暑さだしやっぱり海とか行きたくないか?」
「海……。はい、行ってみたいです!」
おお、リミアのほうは好感触だな。田舎育ちということもあり、海を見たこともないのか目を輝かせている。では、サフィアのほうはいかに。
「……海ねえ」
うーん、なんか反応が鈍いな。暗い目をしているし、どうもあまり乗り気じゃなさそうだ。
「なにか、嫌な思い出でもあるのか?」
「……別に、そういうわけじゃないわよ。あなた達が行くなら、あたしも一緒に行ってもいいけど……」
……なにやら歯切れが悪いな。嫌な思い出はないみたいだし、パッと思いつく理由としてはやはりあれかな。まあ、それなら、現地でおれがフォローしてあげればいいだろう。なので、今は他に確認すべきことがある。
「ちなみに、この辺りに海ってあるのか?」
「どうなんでしょう?」
「あたしも詳しくないわね。ただ、貴族御用達のプライベートビーチがどこかにあるって聞いたことはあるけど」
「そうなのか。じゃあ、後でアイシス先輩に訊いてみよう」
「海に行くなら、水着が必要ですよね。サフィアさん、次の休みに洋服屋さんに買いに行きませんか?」
「ええ、いいわよ」
やはり洋服屋か……。いつ出発する? おれも同行する、と言いたいところだが、ここは堪えておこう。二人の水着姿を見たいのは当然なのだが、せっかくだからそれは海での楽しみにすべきだな。
それに、水着といえば、アイシス先輩の水着姿も是非とも見たい。プライベートビーチの話を訊くときに、アイシス先輩も誘ってみよう。




