第118話 モテ期到来?
アイシス先輩に盟約の指輪を渡し、彼女に「これからは、なにがあってもおれがアイシス先輩を守りますよ」と約束を交わした後の教室。
おれが自分の席に座りリミアやサフィアと雑談を交わしていると、妙に視線を感じた。その視線を感じた方向に目をやると、数人の女子生徒がこちらを見てひそひそと話をしている。
距離があるためなにを話しているかは分からないが、その目には嫌な感じはしない。むしろ、憧れの存在を見るかのような目だった。
……なんかこの目には覚えがあるな。あれは今から三十六万……、いや一万四千年前だったか。うん、そんなわけないね。……えーと確か、あれはこの魔法学院に入学して割とすぐのことだったはずだ。
……そうだ、思い出した。あのときは、女子生徒達がおれのカッコよさを知ってこっちに来たと思ったら、実は光魔法を使えるリミアのことを見ていたとかそんなオチだった。つまり、今回も似たような理由だろう。
おれは学習能力が高く、同じ過ちを繰り返さない人間だからな。その割に、同じ人間に対して三回も土下座をした記憶があるが、そんなことを気にしてはいけない。
というわけでぬか喜びしないように、おれは女子生徒達の視線を気にせずリミア達と話を続ける。すると、その女子生徒達は意を決したかのようにこちらへ向かってきて、おれの席のすぐ近くに立ち口を開いた。
「バーンズアーク君、ちょっといい?」
「え、おれ!?」
「うん、そうだよ」
「だって、一昨日の魔法大会、すごかったんだもん」
「私、あの戦いを見て痺れちゃったよー!」
そ、そうか! そういえば、おれはあの魔法大会で圧倒的な強さを見せつけていたんだった。おれからすれば、まだ真の実力を隠しているし大したことはないのだが、他の人達から見れば充分すごい実力に見えていたということか。これは、モテ期というやつが来たのかもしれない。
その後、おれが女子生徒達と雑談を楽しんでいると始業のベルが鳴り、女子生徒達は自分の席へと戻っていった。……あれ、なんかおれの周囲の温度が低くて高くない? なんというか、冷ややかな視線と険しい視線を向けられているというか……。
とりあえず、おれは冷ややかな視線を感じるほうへ目を向けた。
「リミア、どうかしたのか?」
「……別に、なんでもありません」
短くそう答えると、リミアはプイッとそっぽを向いてしまった。……な、なんか分からんが不機嫌になっているのは間違いない。今はそっとしておいたほうがいいと判断したおれは、険しい視線を感じるほうへ目を向けた。
「サフィア、どうかしたのか?」
「……どうもしないわよ、バカ」
短くそう答えると、サフィアもプイッとそっぽを向いてしまった。「バカ」とか言うあたりどうもしないわけもないと思うし、明らかに怒っているのを感じる。まあ、もう授業も始まるし、こちらもそっとしておいたほうがいいだろう。
こうして、居心地の悪い空気を感じながら、おれは今日の授業を受けることになった。
*****
なんとか午前の授業が終わり、昼休みの時間になった。すると、朝おれに話しかけた女子生徒達が再びこちらにやってくる。
「バーンズアーク君、良かったら一緒にお昼を食べな――」
「ちょっと待ちなさい!」
おれを昼食に誘ってくれようとした女子生徒の声をサフィアが大きな声で遮り、そのまま言葉を続ける。
「今日、レインはあたし達と一緒に食べるって約束をしてるのよ!」
「え、そうだっけ?」
「そうよね、ミア?」
「……! はい、そうです、約束してます」
そんな約束をした覚えはないのだが、二人がそう言うのならきっとおれが忘れてしまったのだろう。まさか、このおれが美少女との約束を忘れるとは思わなかった。
「ほら、さっさと行くわよ、レイン」
そう言って、サフィアはおれの右腕を引っ張って立ち上がらせ、そのまま右手に抱きついてきた。なにか、柔らかい物が当たっているような気がしないでもない気がする。
「そうですね、すぐに行きましょう」
そう言って、リミアは立ち上がりおれの左腕に抱きついてきた。明らかに、柔らかい膨らみが当たっているのを感じる。
もちろん、こんな素晴らしい状況をおれが断るはずもなく、おれは言われるがままに二人と一緒に歩いていく。その際、後ろから先ほどの女子生徒達の話し声が聞こえてきた。
「ねえねえ、あの二人ってやっぱりそういうことだよね?」
「だねー。うーん、あんなに可愛い二人が相手じゃ勝ち目ないかなー」
「でも、バーンズアーク君って女好きみたいだし、ワンチャンあるんじゃないかな」
そんな会話が聞こえたような気がしたが、両腕に美少女な今の状況では他の人達の声はおれの耳に届かなかった。




