第113話 決着
おれとアイシス先輩は激しい魔法戦を繰り広げていた。
やはり、アイシス先輩は強い。単純に、魔法の威力・速度・大きさのどれをとっても相当な物だが、それだけではない。
「おーっと、会長殿が極大サイズのの氷柱を放つ! かと思えば、今度は超高速で飛ぶ炎鳥だー!」
アイシス先輩はただでさえ強力な上級攻撃魔法を、魔力出力を調整して様々なパターンで放ってくる。その狙いは、緩急を付けた攻撃でおれを混乱させ、その隙に近づいて体術戦に持ち込むためだろう。
だが、体術戦になるのは絶対に防がないといけない。もう一度、あの展開になったら今度は簡単に距離を取らせてもらえないはずだ。ゆえに、このまま遠距離での魔法戦を続ける必要がある。
とはいえ、この戦況は良くない。今のところ、おれが防戦一方になっているからな。やはり、勝つには攻めることだ。
「<四重旋嵐疾風刃>!」
「ならば、<四重絶零氷柱槍>!」>
「それなら、<五重旋嵐疾風刃>!」
「五重だと!? くっ……!!」
風の刃の四重攻撃は氷の柱で相殺されたが、五重攻撃のほうは魔力障壁を展開して防いできたか。それはつまり、アイシス先輩が同時に放てる上級攻撃魔法は、四つが限界ということだ。それなら、今が畳み掛けるタイミングだな。
「ここで、庶務殿が<五重旋嵐疾風刃>を連発! 会長殿がまさかの防戦一方だー!」
「ででですが、さすがは会長さんです。あああの、猛攻を魔力障壁で完全に防ぎきってます」
確かに、アイシス先輩の防御能力と魔力障壁はかなりの物だ。その守りの強さは、この国の民を守るために鍛錬を重ねた、アイシス先輩の強い想いが反映されているように思える。
さて、どうするか? 現状、おれの<五重旋嵐疾風刃>の攻撃力とアイシス先輩の魔力障壁の防御力は互角といったところだ。それなら、このまま消耗戦に持ち込めば魔力量の差でいずれはおれが勝つだろう。
だけど、その方法で勝つのもなあ……。時間もかかってしまうし、なによりカッコよくない。もっとこう、スマートにカッコよく勝利を収めたいところだ。……ならば、発動する魔法の数を増やすか、一発の魔法の威力を調整して今より強くするべきか?
……いや、駄目だな。その方法だとアイシス先輩に大ダメージを与えてしまう可能性があるので、それは絶対に避けたい。となると、他の方法を考える必要がある。
……仮に、<五重旋嵐疾風刃>で魔力障壁を破壊した後ですぐに攻撃できれば、アイシス先輩のプレートを割ることはできる。だが、現状の遠距離戦ではおれの追撃の前にアイシス先輩の魔力障壁が展開されるだろう。
ゆえに、<五重旋嵐疾風刃>を放った後ですぐにアイシス先輩に接近する必要があるが、その場合はおれが放った魔法が進路を阻んでしまうので近づけない。
この状況を打開するなにか良い方法はないのか? ………………そうか、魔法の数を増やすのと威力の調整、その二つを両方やればいいのか。
「これで、終わりにさせてもらいますよ! <六重旋嵐疾風刃>!」
「なっ、六重だと!? いや、防いでみせる!!」
六重の風の刃が魔力障壁へと激突し、その堅固な壁を打ち砕いた。だが、猛烈な風の刃もそこで止まり、アイシス先輩の喉元までは届かない。
「よし、防いだ!!」
「けど、これで終わりです。<疾風刃>」
おれがアイシス先輩の目の前で放った小さな刃がプレートを真っ二つにした。その様子を見てしばし呆然としていたアイシス先輩が、動揺を抑えきれないまま口を開く。
「ど、どういうことだ……? なぜ、この一瞬で君が目の前にいる……?」
「簡単な話ですよ。さっき放った<旋嵐疾風刃>の内の一発に突っ込んで、最短距離でここまで移動したんです」
「ば、馬鹿な……!? そんなことをすれば君自身に大きな傷が……、……ない?」
アイシス先輩はおれの身体にほとんど傷がないことを確認して目を丸くした。動揺させっぱなしなのも申し訳ないので、さっさと答えをいってしまおう。
「おれが突っ込んだ<旋嵐疾風刃>だけ、魔力出力を調整して威力をほぼゼロにしたんですよ。だから、おれには大したダメージはないです」
「……つまり、六発の内の一つだけ見せかけの<旋嵐疾風刃>だったということか。これは、してやられたな……」
そして、戦いと会話を終え空中からリングへと降り立ったおれ達を見て、審判であるシェーナ先輩が大きな声で宣言する。
「試合終了! 勝者、レイン・バーンズアーク!」
 




