第109話 リミアVSアイシス
リング上でリミアとアイシス先輩が対峙する。
「む、胸を借りるつもりで戦わせてもらいますね、アイシス様」
「私が相手だからといって、そうかしこまることはないよ。試合の前に深呼吸でもしたらどうだ?」
「そ、そうですね」
リミアは数回ほど深呼吸をして気を落ち着かせた後、真剣な眼差しでアイシス先輩を見据えた。そして、準備が整ったことを確認したシェーナ先輩が声を上げる。
「それでは、これより三回戦第一試合、リミア・アトレーヌ対アイシス・エディルブラウの試合を開始します。始めっ!」
「いきます。<輝閃光矢>!」
「やはり、速いな」
アイシス先輩は魔法で相殺するのではなく、魔力障壁を展開して光の矢を防いだ。
「おっと、会長殿が魔力障壁を展開したのは今大会、いや昨年の大会を含めても初だぞっ! これはどういうことだ、解説殿!?」
「ああ相手の攻撃魔法を防御するだけなら、魔法で相殺するより魔力障壁で防ぐほうが簡単です。かか会長さんでもあの<輝閃光矢>の速さに対して魔法をぶつけての防御は難しかったんだと思います」
「なるほどっ、さすがは希少な光魔法だ! これは、まさかの大番狂わせもあるかー!? っと、ここでアトレーヌ殿にさらなる動きがあったぞ!」
「こここれは、光魔法専用の身体強化魔法である<光体>ですね」
リミアはアイシス先輩の周囲を光速移動し攻撃魔法を打ち込んでいくが、それらは全てアイシス先輩の展開した魔力障壁によって防がれていった。
……そういえば、以前サフィアの脅迫犯の一人とリミアが戦った際、敵は自身の周囲全体に魔力障壁を展開していたと聞いたな。だが、アイシス先輩は魔力障壁を全体にではなく、部分的に展開して攻撃を防いでいる。
さらに言えば、アイシス先輩はその場をまったく動いていない。いや、正確に言うと、周囲を移動しているリミアのほうを見ることなく、的確に攻撃を防いでいる。この二つをアイシス先輩が行えているのは――
「どういうことだ、解説殿!?」
「かか会長さんは魔力感知を発動しながら防御を行ってます。そそそれにより、アトレーヌさんの攻撃魔法の大きさや位置を把握することで、防御にかかる魔力消費を抑えていますね」
「ふむ、魔力障壁を全体に展開すれば防御は簡単だが、それでは魔力の消耗が大きすぎるからな!」
「そそそれに、あの速度を目で追うのは会長さんでも難しいかもですが、魔力感知なら視覚に頼る必要もないです」
「つまり、魔力感知を使うことで、一挙両得の防御を実現させているわけだな!」
相変わらず、ブリッド先輩とエルフィ先輩の説明は正確で見事だな。それなら、現状は防御一辺倒のアイシス先輩がこの後どうするかも予想できているかもしれない。おれが思うには二つの手があるが。
「おっと、ここで会長殿が<凍氷柱槍>を放つが、これをアトレーヌ殿はギリギリで躱したー! しかし、あの速さで移動しているアトレーヌ殿を会長殿が捉えかけたのはどういうことだ!?」
「かか会長さんはアトレーヌさんの動きを読み始めましたね」
「というと!?」
「ああアトレーヌさんの速さはすごいですが、動きはやや単調です。おお恐らく、あの速度で複雑な動きをするのは、アトレーヌさんにはまだ難しいんだと思います」
予想通りの展開になってきたな。このままいけば、アイシス先輩がリミアを捉えるのは時間の問題だろう。だが、以前アイシス先輩がこの魔法大会で自分の力を示すと言っていたことを踏まえると、おそらく別の手を使ってくる。アイシス先輩が氷の扱いに長けているなら、ここは――
「ここで、会長殿が<飛行>を使って空を飛んだぞー! いったい、なにをする気だー!?」
その動きに観客達はもちろん、対戦中のリミアもアイシス先輩を目で追い上を向く。だが、これはアイシス先輩の戦術の一つだ。下を見ると、先ほどまでアイシス先輩が立っていた場所、つまりリングの中央付近に魔法陣が描かれている。
「<氷結領域>」
アイシス先輩が地面の魔法陣に魔力を込めて魔法を発動すると、リング全体が青白く光り輝く。それを見て地面に立っているのが危険だと瞬時に判断したであろうリミアは、<飛行>を使って空に飛んだ。
「これはっ、リング全体が凍ったぞー!」
「いい移動先すべてを凍らせれば、相手がどれだけ速くても関係ないですからね」
そういう意味では、空を飛んであの攻撃を回避したリミアは見事だと言える。だが、さすがにあの一瞬では回避するので精一杯だったようだな。
「<氷柱槍>」
「あっ!」
アイシス先輩の放った小さな氷柱が、リミアの付けているプレートを凍らせて砕いた。そして、この試合の決着がついたことを確認したシェーナ先輩が、右手を掲げて声を上げる。
「試合終了! 勝者、アイシス・エディルブラウ!」




