第107話 サフィアVSアイシス
リング上でサフィアとアイシス先輩が対峙する。
「全力でいかせてもらいますよ、アイ先輩」
「もちろんだ。遠慮なく戦ってくれ」
試合前から火花を散らさんとする二人の前に一人の女性が現れる。この魔法大会で審判を務めているシェーナ先輩だ。
「それでは、これより二回戦第三試合、サフィア・ラステリース対アイシス・エディルブラウの試合を開始します。始めっ!」
「先手必勝よ! <烈火炎弾>!」
「<凍氷柱槍>」
サフィアの<烈火炎弾>を、アイシス先輩は水属性の中級攻撃魔法である<凍氷柱槍>で迎え撃つ。その結果、サフィアの放った炎の弾は氷漬けになって砕け散った。
「やっぱりこんなんじゃ勝てないわよね。それなら、連発よ!」
サフィアはその宣言通り、両手を使って<烈火炎弾>を連発する。だが、その全てがアイシス先輩の<凍氷柱槍>によって叩き落とされ、リング状に氷が舞い散る。
……良い眺めだな。季節じゃあないが、この時期に見る氷も悪くない。
「これでも防がれるなんて、さすがはアイ先輩ね……」
「いや、君も見事な物だ。一年生で中級攻撃魔法をここまで連発するとはな」
確かに、アイシス先輩の言う通りサフィアの成長は目覚ましい。というのも――
「解説殿、今の会長殿の言葉はどういうことだ!?」
おれの思考に、この魔法大会で実況を務めているブリッド先輩の声がマイク型の魔道具を通して割り込んできた。
「そそそうですね。まままず、ラステリースさんは利き手とは反対の手も使って魔法陣を描いています」
「ふむ、なるほど! 確かに、利き手と反対の手で魔法陣を描くのは難易度が上がるからな!」
「しししかも、それだけではなく、その状態でさらに魔法の連発もできています。かか会長さんはこの二つを指してラステリースさんを褒めたんだと思います」
さすがは生徒会メンバーというべきか、解説であるエルフィ先輩の説明は的を得ていた。そういう意味では、ブリッド先輩もそれくらいは分かっていそうだが、それを理解できていない生徒に聞かせる意味で、わざとエルフィ先輩の質問したのかもしれない。
あと、エルフィ先輩は話すのが苦手だから、こういう場でも相変わらず喋り方が少し変わってるな。まあ、それゆえに、こうやって人前で話すのもいい経験になるだろう。当然、解説を断る選択肢もあったが、自分でやるって決めてたしな。
「ででですが、さすがに相手が悪いですね」
「というと!?」
「かか会長さんは魔法の連発はもちろん、手すら使わずに魔法陣を描いています。やややはり、魔法の鍛錬を積んだ年季の差が圧倒的だと言えます」
「なるほど、なるほどっ! っと、ここでラステリース殿に新たな動きがあったぞー!」
サフィアは真っ向からの打ち合いをやめ、身体強化や<飛行>を使いアイシス先輩の前後左右や上空から、多角的に攻撃魔法を繰り出していく。だが、それらもことごとく、アイシス先輩の魔法で相殺され防がれてしまった。
「さすがは我らが会長殿だ! 反応速度も速いっ!」
「ららラステリースさんの魔法は威力も高いですが、まだ速度に難がありますね」
確かに、サフィアは魔力出力の練習でも威力を上げるのをメインにしていたからな。とはいえ、速度のほうを上げたとしても、果たしてアイシス先輩に通じるかどうか。
「おっと、ラステリース殿が攻撃を中断したぞ!」
「こここのまま攻撃を続けても、会長さんには通じないと判断したんだと思います」
見ると、サフィアはアイシス先輩の正面から十メートルくらい離れたところに立っていた。
「……アイ先輩、こうなったら真っ向勝負でいかせてもらいます」
「いいだろう、来い」
サフィアとアイシス先輩は互いに上級攻撃魔法の魔法陣を描き、その魔法を相手に向けて放つ。
「いくわよ! 最大出力の<灼熱火炎弾>!!」
「<絶零氷柱槍>」
リングの中央で大火球と大氷柱がぶつかり合う。その豪炎と絶氷の戦いを制したのは――絶氷だった。
「ラステリース殿の<灼熱火炎弾>が氷となり砕け散ったー!!」
「しししかも、それだけじゃないです!」
「これはっ、未だ顕在の<絶零氷柱槍>がラステリース殿に飛んでいくぞー!!」
マズイ!! <灼熱火炎弾>を全力で放ったせいで、サフィアの動きが止まっている! このままでは、<絶零氷柱槍>が無防備なサフィアに直撃してしまう! それなら!
大氷柱が目の前に迫ったことで、サフィアの顔に恐怖が走る。だが、そんなサフィアの前に魔力障壁が展開され、その壁にぶつかった大氷柱は砕け散り消滅した。その光景を見て安堵の表情を見せたサフィアの前に、アイシス先輩が近づいていく。
「すまない。怪我はないか?」
「はい、大丈夫です。今のはアイ先輩が助けてくれたんですか?」
「いや、私が助けようとする前に、彼が動いていたようだ」
そう言って、アイシス先輩はおれのほうを見る。ふう、少しひやりとしたが、無事に助けられて良かった。
「そっか、レインが……」
「本当にすまなかったな。君の魔法の威力が高かったがゆえに、私としたことが力加減を誤ったようだ」
「いえ、助けてもらえたし、あたしは平気ですから」
思わぬ事態で膠着してしまった試合を見て、審判であるシェーナ先輩がサフィアに駆け寄り声をかける。
「ラステリースさん、大丈夫でしたか?」
「はい、平気です」
「それはなによりです。……それで、このような状況で恐縮ですが、試合のほうはどうなさいますか? まだ、続けられそうでしょうか?」
「……いえ、降参します。さっき、助けてもらえなければあたしの負けでしたし」
「かしこまりました。では、この後はゆっくり休んでくださいね」
サフィアの降参宣言を受けたシェーナ先輩は、右手を掲げて声を上げた。
「試合終了! 勝者、アイシス・エディルブラウ!」




