第106話 魔法大会開始
おれも魔法大会の会場である闘技場に到着し、ほどなくして開会時間になった。そして、開会式が進み、シェーナ先輩が壇上に立つ。
「魔法学院の皆様、おはようございます。僭越ながら、生徒会副会長であるわたくしシェーナ・ルーゼンベルクから、魔法大会のルール説明を行わせていただきます」
そう言うと、シェーナ先輩はニコリと笑い、気品のある態度で説明を開始する。
「試合はこの闘技場に設置されたリング上で行います。次に勝敗ですが、このリングから落下するか、降参を宣言する、またはこのプレートが割られてしまったら敗北となります」
シェーナ先輩は自分の左胸に付けた星形のプレートを指し示しながらそう言った。これに関しては、入学試験や授業中の対戦訓練と同じだな。
「それと、そのようなことをなさる方はいないと思いますが、武器などの使用は反則となります。試合では魔法と、身体強化による体術での戦いとなります」
……思うんだけど、男女混合かつ体術ありの試合で女子までプレートを胸に付けるのはどうなんだ? プレートを壊そうとしてうっかり胸に触っちゃったらマズくない? まあ、紳士であるおれはそんな真似はしないけどさ。
「ルール説明は以上となります。それでは、最後にアイシス生徒会長から魔法大会の開会宣言をいただきます」
シェーナ先輩が壇上から降り、入れ替わるようにアイシス先輩が登っていくと、周囲から声が上がった。
「きゃー、アイシス様―!!」
「……ああ、今日も氷のように美しい」
「いつ見ても可愛いー!」
アイシス先輩はそれらの声に手を振って応えながら壇上まで登り、口を開く。
「皆、おはよう。生徒会長のアイシス・エディルブラウだ。これより、魔法大会の開会をここに宣言する」
アイシス先輩は公爵家の人間らしく、大勢の人の前でも堂々と言葉を続ける。
「今日はこの魔法大会に多くの生徒が参加してくれたことを、生徒会長として嬉しく思う。大会中は相手が誰であっても臆することなく、日頃の授業や鍛錬の成果を存分に発揮し勝利を目指して欲しい。もちろん、私が相手でも遠慮せず全力で戦ってくれて構わない」
そう言った後で、アイシス先輩はおれのことをちらりと見た。以前、話をしたように、アイシス先輩もおれとの戦いを意識してくれているようだ。
「最後に、この魔法大会が皆にとって有意義な物になるよう、心から願っている」
こうして、アイシス先輩の開会宣言が終わり、魔法大会が幕を開けた。
*****
魔法大会はつつがなく進行している。
「リミア、二回戦進出おめでとう」
「ありがとうございます。それにしても、レインさんはすごいですよね。さっきの試合でも<疾風刃>一発で勝っちゃいましたし」
まあ、おれの<疾風刃>は超高速で飛ぶ魔法の刃だからな。言うなれば、一閃流奥義・一閃のような物だ。ゆえに、二・三年生が多少強かろうとおれの敵ではない。
「あっ、サフィアさんが戻ってきました」
「来たか。サフィアも二回戦進出おめでとう」
「おめでとうございます」
「二人ともありがと。……けど、問題は次の試合よね」
「サフィアさんの次の対戦相手はアイシス様ですからね……」
他の二・三年生ならまだしも、さすがにアイシス先輩相手ではサフィアが勝つのは厳しいと言わざるを得ない。こればかりは、トーナメントのクジ運が悪かったな。だが、おれのそんな思いをよそに、サフィアはサフィアらしく強気に宣言する。
「まっ、アイ先輩が相手だからってやる前から諦めるわけにはいかないわよね。やるからには勝つ気でいくわよ」
「そうだな。応援してるぞ」
「頑張ってください」
「ええ、全力で頑張るわ」
……あ、そうだ、サフィアに一つ言い忘れていたことがあったな。
「サフィア、この魔法大会では<神聖不死鳥>は使うな」
「え、どうして?」
「言っただろう、あの魔法はおれ達だけの特別な魔法だ。だから、こんなにたくさんの人の目がある場所で使うべきじゃない」
「そうね……。分かったわ」
サフィアはおれの言葉に嬉しそうに頷く。それから少し経ち、サフィアとアイシス先輩の試合が始まる時間になった。




