第104話 美少女サンドイッチ
アイシス先輩とのお忍びデートが終わり休みも明け、魔法大会開会の日となった。
「やっぱり、大会ってかなり緊張しますね」
「そう? あたしはけっこう楽しみだけど」
「自信満々ですし、サフィアさんってやっぱりすごいですね」
「ミアだって強いんだから大丈夫よ。もっと、自信を持ちなさい」
教室にてそんな会話を交わしてやるリミアとサフィアの元に行き、おれは声をかける。
「トーナメント表をもらってきたぞ。見るだろ?」
「あ、見たいです」
「あたしも見たい」
トーナメント表を見るために、リミアはおれの右側に、サフィアは左側に来て身体がピタリと密着した。トーナメント表は会場にも貼ってあるから三人分はなくてもいいかと思い一枚だけもらってきたのだが、思わぬ副産物があったようだ。
こうして、両側から女の子の柔らかさやいい匂いを感じるという美少女サンドイッチ状態で、おれ達は話を続ける。
「わたしとサフィアさんは同じブロックですね」
「あ、アイ先輩も同じね」
「……しかも、けっこう早い段階で当たっちゃいますね」
「……そうね。トーナメント制だし、これだと上位入賞は厳しそうだわ」
さっきはおれ達って言ったけど、美少女サンドイッチのほうに意識がいってしまいおれは会話に参加してないなあ。どうやら、リミアもサフィアもおれに密着していることに気付いてないみたいだし、もうしばらくこうしていたい。
「あ、レインさんは反対ブロックですね」
「ホントだ。それだと、決勝はレインとアイ先輩の試合になるのかしら」
「きっと、そうなるんじゃないですか。二人が他の生徒に負ける姿が想像できませんし」
「そうよね。二人だけ反則級に強いし」
未だに幸せな状況を味わっているおれに対し、リミアが身体の角度を変えてさらに密着してきた。どうやら、トーナメント表の端まで見て誰かの名前を探しているらしい。それと、身体の角度を変えたせいで、リミアの胸がおれの腕に当たっていた。
「レインさんとアイシス様の名前はありますけど、他の生徒会メンバーの名前はありませんね」
「え、そうなの?」
リミアの言葉を聞いてトーナメント表を確認するために、サフィアも身体の角度を変えてさらに密着してきた。サフィアの胸もおれの腕に、……当たっているような気がしないでもない。
サフィアの名誉のために言うと、彼女の胸もないわけではない。ゼロとイチは数値で言うとたった一つしか違わないが、そこには明確にして絶対的な差があるのだ。
「ミアの言う通り、確かにいないわね」
「レインさん、どうしていないんですか?」
「…………………………」
「黙ったままだけど、どうかしたの、レイン?」
「レインさん……?」
「…………………………」
「ちょっと、どうしたのよ、レイン!」
「……えっ?」
サフィアが大きな声を出したことで、ようやくおれの意識は戻ってくる。イカンイカン、美少女サンドイッチがさらなる進化を遂げたことで完全に意識が奪われていた。これは、必殺料理みたいな攻撃力があるな、サンドイッチだけに。
「……悪い、少しぼーっとしていて話を聞いてなかった。もう一度、言ってくれるか?」
「レインさんとアイシス様以外の生徒会メンバーの名前がないのはどうしてなんですか?」
「……ああ、そのことか。あの三人は魔法大会で仕事があるんだよ。シェーナ先輩が審判、ブリッド先輩が実況、エルフィ先輩が解説をすることになっている」
「そうなんですね」
「大会中でも仕事があるなんて、生徒会は大変ね」
「まあ、大会に出たければ、一応は出れるみたいだけどな」
先ほどのは理由の一つであり、本当の理由は別にある。三人とも、恐れ多くてアイシス先輩とは戦えないって言っていたからなあ。だが、あの三人、特にシェーナ先輩はアイシス先輩のことになると暴走するようなので、みんなの名誉のためにもそのあたりのことは黙っておこう。
「じゃあ、そろそろ会場に向かいますか?」
「……ああ、そうだな」
「あなた、なんか残念がってない?」
「い、いや、気のせいだ」
美少女サンドイッチが終わりを迎えるのは非常に残念だったので、それが顔に出ていたようだ。ゆえに、それが二人に悟られる前に、おれはこの場を離れたほうがいいだろう。ちょうど、一つ用事もあったしな。
「そういえば、おれはちょっと寄りたいところがあったんだ。だから、二人は先に会場に行っててくれ」
そう言って、おれは素早く二人の間から出てとある場所へと向かった。
 




