第100話 お忍びデート
本日は金曜日であり、おれは生徒会室で仕事中。そして、月日が経つのは早いもので、魔法大会の開催日はもう目前に迫っていた。
「週明けには魔法大会ですけど、アイシス先輩は今度の土日はどうするんですか?」
「この土日は特に用事もないし、主に鍛錬をして過ごす予定だな」
「え、そうなんですか? 大会前ですし、そういうのは控えめにしたほうがいいと思いますが」
「そう言われても、他にすることも思いつかないが……」
「それなら、普段の休日はなにをしているんですか?」
「公爵家としての仕事などがなければ、基本的に鍛錬だな」
なんか、美少女学生とは思えないような残念な発言が返ってきてしまった。いやまあ、アイシス先輩はこの王都の民を守るために鍛錬を積んでいるので立派なんだが、もっと青春したほうがいいと思う。そう、青春を謳歌するためにこの魔法学院に来たおれのように。
「それだと、王都で買い物とかお出かけとかもしたことないんですか?」
「そうだな……。公務としてならあるが、私的な物ではほとんど記憶にないな。…………もしかして、私は学生としておかしいのだろうか?」
アイシス先輩には珍しい、不安げな目でこちらを見てきた。まあ、正直に言えばかなり変わっているが、そんなことを言うわけにもいかない。ただ、せっかく王都に住んでいるのだから、もっと学生っぽいことをしてもいいだろう。
「いえいえ、大丈夫ですよ。そういうのは人それぞれですので。けど、そういうことなら、明日あたりどこかに出かけませんか? 大会前の気晴らしにもなりますし、日頃の疲れも取れますよ」
「ふむ……。確かに、最近は疲れが溜まっていて、特に肩が凝っているからな。そういうのもいいかもしれない」
……いや、肩が凝っているのはたぶん別の理由だよなあ、と思いながらおれはその要因となっているであろうアイシス先輩の大きな胸に目をやった。そういうことなら、是非とも揉んであげたい。……いや、あれだよ、肩のことだよ。……まあ、許されるなら別のところも揉みたいけどさ。
「じゃあ、明日はおれとお出かけってことでいいですか?」
「ああ、よろしく頼む」
こうして、おれは明日アイシス先輩とお出かけすることになった。……あれ、なんか話の流れでなにげなくお出かけに誘っちゃったけど、これってよく考えたらデートなのでは?
*****
今日は土曜日であり、おれにはとても大切な用事がある。その用事とは、アイシス先輩とのデートだ!
言わずもがな、今回のデートでもおれは紳士として、早めに待ち合わせ場所に到着している。そして、そんなおれの元に一人の美少女が近づいてきた。
「すまない、待たせてしまったようだな」
「いえ、三時間……、じゃなくて三分くらい前に来たから全然待ってないです。気にしないでください」
「そうか、良かった」
「それより、なんだか普段とは全然違う恰好ですね?」
アイシス先輩は帽子を被り伊達メガネをかけていた。まあ、帽子に関しては制服姿のときも被っているんだが、服のほうはというと灰色のTシャツと紺色のズボンだ。ボーイッシュな感じではあるが、全体的に地味な印象だな。
「ああ、これのことか。実は、家の者に私は目立つから、友人との外出ならこういう恰好のほうが良いと言われてな」
なるほど、そういうことか。確かに、アイシス先輩は有名人で人気者であり目立つ。もし、普通に出歩けば、街ゆく人から声を掛けられまくってお出かけもままならないのは容易に想像できる。ゆえに、こういう恰好にして目立たないようにしているわけか。
その考えでいくと、おれも今日はアイシス先輩に失礼のないように、好みが分かれそうなカッコイイ服装は自重したのは正解だったようだ。加えて言うと、ああいう服装は目立つしな。
で、今日は無難な服装にしていおいたから大丈夫。具体的に言うと、「服のセンスが悪かったんだ」と言われたら、「少なくともファッション誌には載っていた服だぞ!」と返せる服装だから完璧だ。
さて、おれの服装はいいとして、改めてアイシス先輩の服装を確認する。……こういう恰好でも、それはそれで可愛いな。やはり、美少女にはなんでも似合うものだ。
「そういう恰好も素敵で可愛いですよ」
「そ、そうか……。ありがとう……」
アイシス先輩は頬を赤らめながらそう言った。こういう姿も当然可愛い。
こうして、おれとアイシス先輩のデートが幕を開けた。アイシス先輩が変装している点を踏まえると、これはお忍びデートだな。