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第10話 師匠からの餞別

「そういえば、宿屋の料金を確認してなかったな」


「あ、そうですね」


「明日が入学試験で明後日には合格発表。で、合格すればその日のうちに学生寮に入れるから今日と明日の二日間は泊まる必要があるな」


 それを踏まえた上で宿屋の料金を確認する。ふむ、それなりにお金は用意しておいたから問題はないな。なんなら、リミアの分まで払う余裕がある。


「リミアのほうは大丈夫か?」


「……すいません、わたしはお金が足りません。なので、わたしはどこかで野宿してきますね。街の中なら魔物がいなくて安全でしょうし」


「いや、待て待て。試験の前日まで野宿はよくない。おれがリミアの分まで払うからここに泊まろう」


「い、いえ、そこまで迷惑をかけるわけには……」


「いや、遠慮しなくていいって」


「……じ、じゃあ、お金はあとで返すのでお言葉に甘えさせてください」


 うーん、おれとしては美少女相手だし奢りで全然いいんだけどなあ。残念ながら、この美少女リミアは貢ぎたくても貢がせてくれないようだ。


 まあ。それはそれとして無事に話はまとまったのでおれ達は宿屋に入る。そして、店主らしきおばちゃんに二部屋で二日間という注文をしておれは財布を取り出した。


 だが、そこでおれは異変に気付く。なぜか、財布が妙に軽かった。おれが慌てて財布の中身を確認すると、明らかにお金が減っていた。


 どういうことだ? おれとしたことがスリにでもあったか? いや、だったら財布ごと持って行くだろう。ならばなぜ、お金が減るんだ?


 状況が理解できないまま財布の中身を見ていると、見覚えの無い紙が入っているのに気が付いた。おれはその紙を取り出して広げる。


『親愛なる我が弟子、レインへ』


 これは……、師匠からおれへの手紙か?


『アンタがこの手紙を読んでいる頃……、アタシは家事で忙しくしてるだろう。ああ、めんどくさい』


 不穏な書き出しからそれかよ。なんですか、根にもってるんですか、師匠?


『思い返せば、アンタを拾ってから十五年、色々なことがあったねえ。最初はアンタがどんな魔法を使えるようになるか興味本位で始まった生活だけど、なんだかんだ楽しかったよ』


 おれも楽しかったですよ、師匠。


『アンタはずっと最強を目指してひたすら修行に励んでいたね。その甲斐あって、アンタは見事にこのアタシが最強と認めるだけの実力を手に入れたよ。おめでとう。アタシも師匠として鼻が高いよ』


 ありがとうございます。師匠には大変お世話になりました。


『アンタが最強になれたのはもちろんアンタの魔法の才能のおかげではある。だけど、その才能も磨かなければ宝の持ち腐れさ。その宝を長年磨き続け、才能という原石を立派な宝石へと変えたアンタの研鑽の日々は充分に誇っていい』


 確かにこの世界に転生してから十数年、馬鹿みたいに修行してたからなあ。


『そんなアンタが魔法学院に入ってやりたいことを言ったときは、正直なに言ってんだコイツって思ったけどね』


 美少女とイチャイチャしたいって言っちゃったからなあ。言った相手が師匠でよかった。もし、リミアやサフィアに言ったら絶対にドン引きされていた。


『まあ、アンタなら魔法学院の入学試験は合格間違いなしだろう。その先にある、青春の謳歌ができるように学院生活を頑張りな』


 はい、頑張ります。


『あと、長期休みの期間には顔を見せに帰って来るんだよ。まあ、アタシもたまに王都に行ってるから、どこかで会うかもしれないけどね』


 そうだな。休みのときはこの世界でのおれの実家にちゃんと帰ろう。


『最後に、アンタの健勝と幸せを心から願ってるよ』


『戦場に咲いた可憐にして清麗かつ妖艶な薔薇の魔女にして、レインの師匠。

 ディーバ・バーンズアークより』


 ……うう、師匠。


 おれが旅に出るときはわりとあっさりしてたのにこんな手紙を用意してくれていたなんて。おれは本当に嬉しいですよ、師匠。


 ……ん? あれ、紙にもう少しだけ折り目があるな。まだ続きがあるのか、どれどれ?


『追伸』


『急にお金が必要になったから、餞別としてアンタの財布からこっそりお金を抜いておいたよ。ごめんごめーん☆』


 ……………………………………………………。


 おい、ふざけんなババア!! なにが餞別だ!! 逆だろ、普通はお金を入れとくんだろ!!


 あと、ごめんごめーん☆ってなんだ!? 師匠の考える若い女の子が謝るときのイメージか!? くそっ、絶対に許さねえ!!


 ちなみに、今師匠のことをババアと言ったのは、師匠の名前であるディーバ・バーンズアークを略すとババアになるからであり、他意はない。


 だが、師匠の名前は略してはいけない。かといって、フルネームで呼ぶ場合は、名前と苗字を続けて一息で言わずに一拍おく必要があるということを、つい怒りのせいで忘れてしまい略してしまった。


「……あの、レインさん。どうかしたんですか?」


 怒りで震えていたおれを気にしてリミアが声をかけてきた。確かにこのまま怒っていても仕方ないし、とりあえずリミアに状況を説明しよう。


「あー、それが……、やっぱりお金が足らなくて一部屋分しかないんだ」


「そうでしたか……。じゃあ、やっぱりわたしが野宿しますのでレインさんはこの宿屋に泊まってください」


「いや、それは駄目だ。おれは野宿でも全然余裕だからリミアがここに泊まってくれ」


「いえ、お金が足りないのはわたしなんですから……」


「いや、おれが……」


 おれ達が押し問答をしていると、それを見かねた店長のおばちゃんが助け船を出してきてくれた。


「話は聞こえてたけど、あんたら一部屋分の金はあるんだろ? なら、特別に二人で一部屋で良ければ泊めてやるよ。どうする?」


「……リミアさえ良ければおれは構わないけど」


「わたしもレインさんさえ良ければ構いません」


「じゃあ、すいませんがそれでお願いします。店長さん」


「あいよ。じゃあ、お客さんの部屋は二階の一番奥だ。ゆっくり休みな」


 店長さんのありがたい申し出で、無事におれ達は宿屋に泊まれることになり、言われた部屋に入った。


 しかし、おれはもちろんいいんだが、女の子のリミアがおれと同室でも構わないというのは意外だな。いやでも、野宿のときは近くで寝ていたわけだし、状況的には似たような物か。


 けど、野宿と違い一つ屋根の下に美少女と二人きりというのはなんかドキドキしてくるし、テンションも上がるな。


 そう考えると、これは図らずも師匠のおかげということになる。


 サンキュー、師匠!


10話を読んでいただきありがとうございました。

これからも本作をよろしくお願いします。


それと、本作を気に入ったり面白いと思ってくれた場合は、ブックマークや評価などを頂けると凄く嬉しいです。


特に、評価は下にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして最高値を貰えると、非常にモチベが上がって続きを書くのを頑張れますのでよろしくお願いします。

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