特別な虚しさ
ある日、サラリーマンである佐藤は、会社からの帰り道、道端の端っこに懐中時計が落ちていることに気が付いた。
普段なら落ちているものに手を触れようとは思わない。だが、日々の疲れからか不思議とその時は不快に盈ちることはなく、川の流れのように体が動いていた。
その時計には、時を止める能力が秘められていた。最初はその力を日常の些細なことに使っていたが、次第にその力の可能性に気づき始めた。
佐藤は政治に興味を持ち、時を止める能力を駆使して情報を集め、策略を練るようになった。
彼はまず地方議会に立候補し、驚異的な知識と洞察力で注目を集めた。時を止めることで、他の候補者が準備している間に膨大な資料を読み込み、完璧な答弁を用意することができたのだ。
次第に彼の名声は広がり、国政選挙にも挑戦することになった。選挙戦では、対立候補のスキャンダルを暴露し、政策討論では誰もが驚くような鋭い指摘を連発した。
彼の支持率は急上昇し、ついに国会議員として当選を果たした。国会議員となった佐藤は、さらにその力を駆使して政治の頂点を目指した。重要な法案の採決前には時を止めて議員たちの意見を探り、最適な戦略を立てた。彼の政策は常に時代の一歩先を行き、国民からの支持も厚かった。
しかし、佐藤には一つだけ心配事があった。それは、時を止める能力がいつか尽きるのではないかという恐れだった。彼はその力を使いすぎないように注意しながらも、着実に政治の階段を上り続けた。
ついに、佐藤は日本の首相に就任することになった。彼のリーダーシップの下、日本は経済的にも政治的にも大きな発展を遂げた。佐藤はその力を使って国民のために尽力し、歴史に名を刻む偉大な政治家となった。
しかし、彼の心の中には常に一つの問いが残っていた。
「もし、この力がなかったら、私はここまで来れただろうか?」
それでも、佐藤はその問いに答えることなく、ただひたすらに国の未来を見据えて歩み続けたのだった。