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リアル惑星ダンジョン、原始惑星「地球」編、開始しました  作者: EDーADAM・e(エダマメ)
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その8 初めての共同作業

その8 初めての共同作業


 富士樹海パークへようこそ。

 当施設は、密林探索型ダンジョンです。ナゾの原住民、危険な原生動物、更には食人植物

が訪れる者を拒んでいたのです。そう、もともと当社が建設する以前より、この地は原住民すら恐れる地帯だったのです。

しかも、樹海では近代的な装備は一切使えず、原生動物の方向感覚すら狂わされる異常な磁場が発生いたします。ここには未知の危険があふれているのです。

 しかし、原住民の伝承によればこの奥には秘宝が隠されているそうです。近代装備全てを封じられたこの樹海を、お客様プレイヤーは攻略することができるでしょうか?

なお、当社ワルダックでは、来訪者の安全を心がけておりますが、万が一の際の責任は負いかねますので、ご入場は自己判断でお願いいたします。




 がたこん、がたこん……ゆっくりと動き出した巨大なストロベリーケーキ、みたいな外装の蒸気機関車だ。そういう目で見れば、煙突から伸びる煙もドライアイスに……はさすがに見えない。乗り込んだ客車は中央の通り道を挟んで左右二列に座席がある。

「誰もいないんだ?」

 駅員はおろか乗員、乗客一人もいない。

「怪しくないか?」

「あたし、座席は一番前の窓側」

「少しは警戒しろよ」

「さすがは未開惑星。原始的な乗り物ね~」

「いちいち噛み合わない……」

 ゲンジロウは思わず天を仰ぎ遠くを見つめる。まして侵略前の夢の国に訪れたことすらない身では、この手の娯楽も風情も理解不能ではある。加えて隣にいるのは異星人インベーダー。居心地の悪さに外に目を向けるしかない。不本意ながら強化されてしまったゲンジロウの感覚器官には、石炭の煙は厄介だ。目にしみるうえに煙にむせる。しかもその手の対策はケチられてる我が身だ。この客車以下。

「壁もないなんて、貨車以下だな」

 こんなものをアトラクションという本社インベーダーの奴らの気が知れない。

「看板に樹海パークって書いてたね。どんなダンジョンなんだろ?」

「知らない。俺はガイドじゃない」

「わあ~使えない同行者だ~」

「調査員だって」

「なにを調べてるのよ」

「……それ、本気で聞いてる?」

 普通にうなずくアルを見て、ゲンジロウは怒るべきか呆れるべきか悩んだ。で、怒ることにした。

「お前のせいで俺、いろんな目にあったんだけど」

 信頼していた年長者に裏切られ仲間ともども改造されて、その仲間ともひき離されて、この1年間、ゲンジロウにはなかなかにストレスがたまっていた。そして今、目の前に理解不能な異星人インベーダー。怒っていいだろう。

「なんで?あたし、遊びに来ただけだよ?」

 宇宙人は自分たちが遊ぶ場所をつくるために、地球を侵略し改造したらしい。この辺り、ゲンジロウはわかってない。異星人であっても企業と顧客は論理が異なる。大人の常識だ。

「さっさと帰れよ」

「イヤよ。この惑星ダンジョンを攻略しなきゃ帰らない」

 そう言われ、数年前までゲーマーだった自分をふと思い出す。セーブ前に中断なんて、たとえ母親が「夕食」「お風呂」「宿題」とまくしたててもあり得なかった、そういう昔を。

「やっとテストが終わったんだから、終わるまでは絶対にね!」

「…………家族は心配しないのか?」

 とはいえ、家の中でゲームに夢中なのと、余所の惑星で遊び倒すのとは随分違うんじゃないかとはゲンジロウでもさすがに思う。

「大丈夫よ、明日には帰るから」

「……はあ?」

「だから、今日中に攻略して大急ぎで帰れば、母親(第一遺伝提供者権親権者)にはわかんないって」

 それは惑星規模のアトラクションを日帰り攻略する宣言であろう。ゲンジロウがそう理解するまで、かなりの時間を要することになった。その間、車内のガイドが始まっていたが全く気づかなかった。

「当列車は現在、安全地域を進行中ですが、あと1分ほどで」

「……ええっと、アルだっけ?お前、なにを……」

「し~黙ってて」

 そもそも地球ダンジョンはまだ解放されていないんだけど?

 たとえゲームでも一日で攻略なんてムリなのに、お前なに言ってるんだ?

 俺たちの星を勝手に改造しやがったくせに!

 親を心配させるんじゃない!

……言いたいことが多すぎる!

ゲンジロウはまたもどう反応すべきか戸惑った。ハンター時代には果断だの即決だのと賞賛されたゲンジロウを、こうも混乱させるとはさすがは異星人インベーダー恐るべしである。

今はアルの片手で文字通り口をふさがれたゲンジロウは、「コイツ、さっき触られたときはピ~ピ~してたくせに」とモガモガしてるだけだったが。

「あ~肝心なとこ、聞き損ねたじゃない」

「モガモガ」

「でもまあ、いいや。そろそろ襲撃がありそうってわかったから」

 アルはいきなり座席から立ち上がり、クッションを外し始める。そこは簡便なトランクになっていた。中には大小様々な竹と細い糸。

「モガ?」

「ああ、ゴメン。これ、組み立てる間もしもモンスターが近づいてきたら倒しといて。まあ、来ないと思うけど」

「組み立てる?」

「この星の原始的武器、弓矢ね」

「この竹が?」

「あんた、原住民のくせに知らなすぎ。ここ光学兵器とか禁止されてる、原始惑星の原始的ダンジョンでしょ」

 禁止以前に個人用兵器としてのレーザーライフルは実用前だった。まあ、艦船に積載するとか、スポーツ用のレーザーライフルとかは別だが。

「だからこのシナリオじゃ、現地調達が基本なの」

 まあ、自分で探すのではなく、製作キットを用意してる分、ぬるい気はするが……。

「待て、俺、弓矢は使ったことない」

 ふとアチャ子を思い出す。一緒に捕まって以来、カー子やアチャ子、仲間たちの消息は今も不明だ。それにしても……竹の弓矢?ハンターズの支援組が使っていたコンパウンドボウやクロスボウと比べても数世紀は古い。それこそ原始的~と言いたくなって慌てて黙る。

「スキンのサポートでスキルが身につけば大丈夫よ」

 にしても、このインベーダー、結局はスキンとかいう外装ハイテク頼みか。

「浮かない顔ね。あんただってスーパーテランなんだからそれくらいできるでしょ?」

「俺は身体能力と感覚器官は強化されたけど、そういうスキル系なんかは全部自前だ」

「マジ?ホント、原始的ね~」

 言いながらもアルは嬉々として竹弓に弦をつけ、試射の姿勢に入っていた。

「こいつ、こういうとこは同類プレイヤーだな……」

 ゲームだかアトラクションだかは未だ実感がないゲンジロウだが、プレイに余念がないアルには共感すら覚えてしまう。

 

「ピンポンパンポン」

 1分だったらしい。しばらく沈黙していた放送が再開された。

「当列車は危険地域に入ると同時に、なぜか機関に異常が発生してしまいましたぁ。ただいまから修理に入ります。お客様には恐れ入りますが修理の間、しばらく自衛してください……」

 ガタン、プシュウ~……異音と共に軽い衝撃。そして予告通り列車は停止した。

「ふざけんな!」

 思わず叫ぶゲンジロウの目の前に矢が刺さる。

「危ないわよ。そういうアトラクションなんでしょ」

 頭を下げて、軽く言う。意外に冷静なアルに倣ってゲンジロウも頭を下げる。

「これ、こっちの矢と同じヤツじゃないか?」

 竹製。鏃は金属、おそらく鉄。矢羽根は鳥、おそらくは鷹の羽根かととっさに見て取る。

「あ~これ、さっきあたしが落としたゴールデンイーグルの羽根と同じじゃない?」

「イーグルってホークじゃなくて鷲……イムワシか?それ、天然記念物だぞ」

「なにそれ?」

「……まあ、どうせ本社が強化したヤツだからいいか」

 そもそも保護指定したこの国の政府がもう存在してない。気にするだけムダである。その間にもつぐ次と矢が飛んでくる。困ったことに、線路の両脇は密林で、そこから放たれれば撃ち放題……と考えて首をかしげるゲンジロウ。かしげた逆に矢がかすめる。

「射手は線路脇の木に隠れてる。お前、なんかわかんないの?その、外装スキンとかで」

「ここ原始的過ぎてスキンも動作不良っぽい。あんたこそ強化人間でしょ、見えないの?」

 ゲンジロウは傷ついた顔でアルをにらむ。とはいえ、仕方ない。線路脇に集中し目をこらす。強化された視力が飛来する矢を、そして射手を捉える。日本の原生林とは思えないほど曲がりくねった木の上に。そしてゲンジロウは床にかがんで頭を抱えた。

「マジ?」

「なによ、見えたんでしょ。どんなヤツよ、ここいらの原住民って」

 それは全身灰色の毛で覆われ、顔とお尻が赤くて短い尻尾の体長1mほどの生き物だった。器用にも足で幹を抱いている。どこか既視感のある姿だ。両腕に弓さえ持ってなかったら。

「なんでこんなとこに……」

「なにそれ?ここいらの住人って特殊な固有種?」

「少なくても地球人じゃない……」

 以前ならば愛嬌がある姿にエサでもあげようとしただろうが、歯をむき出して吼え、次々矢を放つ姿を見ると、さすがに違和感というか、疲労感に襲われるゲンジロウだが、今度は目の前の床に矢が刺さる。

「なんで富士の樹海にニホンザルの群れがいるんだよ……」

「ニホンザル?それが原住民の種族ね」

 アルはトランクから出した弓矢を構え、反撃する気満々だ。まあ、今さら動物愛護とか言う気も失せる。

「ああ、もう、俺が飛び出して追い出すから、アルは援護して!」

「え!?」

 壁もない客車から飛び出したゲンジロウめがけ、早速数本の矢が飛んでくる。太刀を抜き放ち、それを一刀のもと、切り払う。そのまま自分が矢のような勢いで密林に突入した。その間、近くのトランクを全部開けていたアルは、中の竹矢をひたすら撃った。サルの撃ち方を真似ただけだが、前に飛んだだけでも警戒したサルが頭を引っ込めたので援護にはなっていた。

「サンキュ」

 射手のサルが潜む木の下で、ゲンジロウは木を幹ごと切断した。さすがは改造人間である。腕もいい。

 使う長太刀もまた特殊合金製。一刀ごとに切り倒されて、サルも慌てて逃げ出した。まずは撃退できたのだが。

「……はあ。アトラクションって、こんなのドコが楽しいんだ?」

 客車に飛び乗ったゲンジロウだったが、たいして戦った気はしないのに徒労感が半端ない。

「あんたねえ……だって、きっとこれ、この原始的な弓矢で戦うイベントよ」

「はあ?」

「だから、こういう乗り物系アトラクションで襲撃されたってことは、乗客みんなで協力して、あり合わせの武器で追い返すってシナリオなのよ。それをあんた、大人げなくも飛び出して、そんな武器で木を切り倒すだなんて、非常識もいいとこだわ。アラシてんの?」

 しかも、非常識な異星人インベーダーになぜか説教までされ、ゲンジロウは泣きたくなった。

「いい!次からはちゃんとあたしの指示を聞きなさい!」

 薄い胸を張る異星人アルに、なぜか反論できないゲンジロウだった。

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