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リアル惑星ダンジョン、原始惑星「地球」編、開始しました  作者: EDーADAM・e(エダマメ)
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その4 地上に基地がやってきた

その4 地上に基地がやってきた

 

 中型外来獣を倒したことで、ハンターズの生存圏は大きく広がった。まず、その死体を置くことで小型外来獣が近寄らなくなった。一種の害獣除けであろう。さらに聞きつけた周辺の生存者が合流し人口と呼ぶにはおこがましいが、人数が増えた。食料の問題は、中型外来獣を狩れば解決する。ムカマキのような昆虫系は不評だが、カブトカゲなどのは虫類系は意外にうまい。

「まあ、そうだね。原始時代にマンモスを狩るのに比べれば、獲物の危険度こそ大きいが、わたしたちの武器や戦術はマシと言っていい。相対的に北京原人よりは相当にね」

 外の景色を眺めながら、ハカセは自虐的につぶやいた。彼からすれば所詮は原始人レベルから抜け出せないからであろう。中型外来獣ならともかく、大型以上になると逃げることすら困難だ。極端な話、巨大外来獣(俗に宇宙怪獣)が数キロ圏内に近づいた時点で生態系は激変。下手すれば人間など糞害一つで全滅するくらい、口には出さないが誰もが知ってる。

 なんとなく押し黙って外の景色を眺める、そんな重い雰囲気を変えたかったカー子がぽつり。アホの子とか考えなしとか言われているが、ムードメイカーでもある所以だ。

「……マンモスって言えばさあ、最近寒くない?」

 これはカー子に限らず生存者ほぼ全員の疑問だ。言われてゲンジロウも首をかしげる。

「地球温暖化はどこいったんだ?」

 廃墟の街に何度目かの冬が来ていた。除雪も排雪も行われないまま、ガレキも廃ビルも等しく雪に覆われ、道すらない。北国のA市は、もはや街ごと雪に埋もれてると言っていい。

「近年は太陽黒点の観測が困難になっていたからね」

 ハカセの説明には「何言ってんの?」側と「あ~それそれ」と反応が二派に分れる。ゲーマーやらオタクやらが多いハンターズだが、おおむね年少組は前者で年長組は後者だ。もちろんゲンジロウも前者だ。ハカセは多少わかりやすく言い直した。

「……近年の観測データは、21世紀は小氷河期に入る兆候を示していた。人間の活動がなくなれば温暖化どころか寒冷化になるのが当たり前だよ」

僅差の多少だが、それでもわかる者にはわかる。年長組はむしろ活気づいた。

「さすがハカセ」

「16世紀頃のアレか。地球規模の異常気象」

「戦国時代のきっかけにもなったってヤツね」

「ひょっとしてインベーダーが生物侵略やってるのも、そのせいかもね」

「そういや、ヤタガラスって太陽黒点がモデルらしいぜ」

 年長のオタクはハカセには及ばないものの、聞きかじった知識はかなりある。体系的なものではないうえに戦争や神話、趣味に偏ってる者も多く、実用性に欠けるうえ脱線気味だが。

「……そうだね。多種にわたる異星系外来生物を移住させたのは、科学兵器では電磁波の影響や維持管理コスト、地球環境への影響で問題が多いと判断したのかもしれないね」

「環境に配慮ぉ?」

「地球に優しい侵略者なのね。Gミラスとは大違い」

「或いは観光地として再開発するんじゃない?」

「金持ち異星人相手のリゾート惑星とかな」

 既に外来獣と在来獣との間で新たな生態系が築かれつつある。野山に残る在来生物、その上に小型外来獣、更に中型外来獣、大型外来獣、巨大外来獣と続く。生き残った人間はその中でどこにいるのか?せいぜい在来生物の上位、というところか。

異星よそから見れば、統一されてないばかりか内乱状態だったしな」

「戊辰戦争は早期に収拾され、利害が対立していた列強各国につけいるスキを与えなかった。それに比べれば今世紀は国際社会が分断され世界大戦勃発の兆候が散見され、加えて向こうは一枚岩だった。今回の侵略は幕末よりも状況不利だったと言える」

 年長組は時にこうしてムダに蓄えた知識を放出するように議論をかわし、それを総括するようにハカセがまとめる。どちらも意外に楽しそうで、年少組は少しだけ疎外感を感じる。

「そういう訳で、生物兵器による侵略を選択された、というところかもしれない。だから、今、この目の前の景色も寒い冬も耐えるしかないということだ」

 それを聞いたゲンジロウは、つぶやく。

「耐えるって……いつまで?」

 と。それに答える声はない。その「春」が余りに遠いことは、誰もが感じていた。


 そして長い冬を終えて、ようやく雪が融け頃、事態は動いた。

「県内にインベーダーの基地がある」

かつては大手スーパーや100円ショップやらが立ち並んだショッピングタウンの跡地だ。そこがゲンジロウたちの隠れ家だった。中型外来獣を倒せる集団となり増えたとはいえ、集った人数は200人足らず。総勢でも300人に満たない。おそらくはこれがA県全域の生存者の、ほぼ全てだと推測されていたのだが。

「マジか?」

「基地なんかあったんだ?」

「N町だ。A市とH市の間」

 そんな時だった。仲間の一人「ゲニン」が貴重な情報をもたらしたのだ。

「なんの調査だ?」

「生き延びた人間を集めてるとか、外来獣の活動状態を見てるとか聞いた」

「聞いたってインベーダーにかよ?」

「インベーダーから逃げてきたヤツからだよ。直ぐに死んじまったけど」

「基地から逃げた地球人か……」

「へっ、やっぱりあいつら、怪獣任せでUFOもなけりゃ光線銃もない、遅れた宇宙人なんじゃねえか?」

 インベーダーの正体は謎のままだ。しかし、アニメや特撮の宇宙人のように、宇宙船が攻めてきたわけではない。だからこの見方は生存者の、特に新規参加組に根強い。

「いいや、生物兵器を使った異星侵略は効率的だと思うよ。宇宙船や光線銃で侵略するには、生産工場や整備場の建設が大変だし、輸送や維持のコストがバカにならない。その点、外来生物なら生存条件があえば、一度送りつけた後は勝手に増えてくれる。まあ、アメリカザリガニやブラックバスみたいなものだね」そう答えたのはハカセだ。

「ちっ。インベーダーもコスト削減か。宇宙の海も世知辛いねえ」

「低コスト侵略とは、地球人おれたちも文字通り安く見られたわ~」

「しかも外来獣って、ザリガニと同じククリかよ……」

「せめてアライグマの方がかわいいのに」

「あ、俺も聞いたことあるわ。タンポポとかモグラとかも外来生物の方が強いんだって」

「外から来たヤツの方がつえってか?」

 何人かの仲間が話しに入ってきた。知識系オタクはこういう話題が好きなのだ。

「概ねそんな感じだが、外来種が必ずしも在来種に勝るとも限らない。ただ、今回の外来獣は、散布した異星人によって選抜され更に遺伝子改造されている可能性もある。そうでなければ、あの適応性、あの巨大さは説明がつかない」

 そこにハカセが捕捉・修正を加えていくと、いつの間にか議論が進んでいく。

「遺伝子改造?あの、虫がつかないトマトとか、病気にならないトウモロコシとか?」

 実感が湧きにくいのか、昔聞いたことがある話を並べて、理解しようとする者がいれば、難解な話を無視する者もいる。性別・年齢・職種も雑多な生き残り。そんな集団が、A市おそらく最後の生き残りだ。

「怪獣はもういい。それよりゲニン、逃げてきた人ってどんな人だった?」

 そんな中、既にゲンジロウはリーダーだ。その発言で話が戻る。

「若い母親だな。死んだ赤ん坊を抱いていた」

 母親、と聞いてゲンジロウの顔がこわばった。慌てたカー子が肩を叩く。ゲンジロウに「母親」は禁句なのだ。一瞬体を震わせ、しかしすぐに己を取り戻したゲンジロウを見て、カー子は密かに胸をなで下ろした。

「あ。えと……そうそう。その人は、他になんて言ってたんだ?何人捕まってるとかなんのためにとか?」

「そこまでは聞けなかった。すぐに死んだんでな」

「そう……」

 年長組を中心にしてゲニンが得た情報をどうするかでいつもの議論が始まる気配だったが、ふと自分を見るイー子と目が合った。自分より年少の新参だ。外来獣に襲われ母親

を失ったばかりだった。

「捕まってる人たちを助けられないかな?」

 ゲンジロウがそう言うと、再びカー子が肩を叩く。明らかに警戒してる。

「ゲンジロ、なんか急いでない?」

「ゲンジっちは戦わないと前に進めないタイプだから戦いたいんじゃない?」

「そんなことはない!目の前の仲間を助けたいだけだ!……まあ、ヤツらの基地を襲えば、武器とか奪えないかなとは考えてるけど」

「やっぱりそうじゃん。でもマジでそんだけ?」

「見た目はかわいいけど、脳筋の武闘派だもんね」

 カー子とアチャ子がからむのは仲がいい証拠だ。特に今日のカー子は過保護気味だ。

それでも今日のゲンジロウはここで終わらなかった。

「そんなことはどうでもいいだろ」

二人から視線を外し、一同を見回し語りかける。

「ただ、このままじゃ何も変わらない!何かしなきゃ、ずっとこのまま、外来獣に怯え少ない食料を探して耐えるだけの生活じゃないか!いや、それだっていつまでもつか……だけど、基地を襲って仲間を助けて、そしてインベーダーの武器を奪ったり情報をとったりしていけば、いつかは変えられるかも知れない!違うか!」

 沈黙が漂った数秒後。

「ああ!戦闘しか興味なかったゲンジロがこんなこと言うなんて、お姉さん、うれしい!」

「いやがるゲンジっちをリーダーにした甲斐があったね」

 二人は安心させるように、イー子に向かってハイタッチしてみせた。

 リーダーの証につけられたのは赤いマフラーだった。なんでも由緒正しい正義の味方アイテムなのだそうだが、ゲンジロウにはさっぱりだ。

「その通りだね。責任が人を育てるとはよく言ったものだ」

 妙に盛り上がってるカー子とアチャ子に、白々しくハカセが付け足す。ただ年長組はもう少し素直じゃなかった。

「言ってることはわかるんだけど、賭けだよな」

「しかもかなり分の悪いやつ」

「UFOも光線銃も見てないけど、宇宙人は宇宙人だし、基地を襲うのは無謀じゃね?」

「人命救助はわかるんだけど、これ、ミイラ取りがミイラってヤツだし」

「でも武器やら情報を奪うチャンスはチャンスじゃん」

 その後も、リスク管理と今後の展望をはかりにかける議論は続く。いつもの脱線がキリのいいところでハカセは手を叩き、意見をまとめに入る。

「基地の襲撃は確かに危険だ。まずは偵察を充分に行ってから判断しようじゃないか」

 つまり結論は保留。まずは情報収集という無難な判断だったが。

「いいや、ハカセ。捕まってる人がいるんなら、早く助けなきゃ」

「ゲンジロウくん。気持ちはわかるが、捕獲された人がいるかどうかも未確認だ。いや、そもそも基地の所在すら。こんな状況で、行動することは賛成しかねる」

「だけど!ここでためらっていたら助けられる人も助けられない!」

「その、助けるべき相手がいるかもわからない、と言っているのだがね……その辺りも含めて偵察部隊を送るべきだとは思う」


 結局の所、基地の偵察は全員一致で賛同された。そして、ゲンジロウ自らが率いることになった。その出発の日。

「ゲンジロウ……」

 まだ小さなイー子が半ば泣きそうになっている。他にも、親を失った子たちが数人。みんな、つられたのか暗い。或いは、親を思い出したのか。家族全員生き延びた仲間は皆無だ。

「みんな、元気で待っててな」

 イー子の頭を撫でるゲンジロウも、年相応に見えてしまう。

「くれぐれも気をつけていきたまえ」

 振り向いたゲンジロウは、ハカセの笑顔にかすかな違和感を感じた。

「ハカセはなんで俺なんかをリーダーに選んだんです?」

 それがさせたのは、今さらの質問だった。

「俺は物知らずだし、戦闘はともかく、みんなをまとめるには、いろいろ足りない」

「キミは、わたしにないモノをたくさん持っている。勇敢で果断で、人望があって、なにより未来がある」

「未熟なだけですよ」

「キミに足りないのは一つだけだ」

「なんです?」

「ははは、今度の作戦でわかるさ」

 ハカセはなんだか楽しそうだ。意外にも基地の偵察を楽観してるのかもしれない。


 N町はA市西部に隣接している。幸いにして郊外にあるゲンジロウたちの隠れ家から近い。道路沿いなら進めば10kmもない。とはいえ、それはかつての話。

「乗り捨てた自動車ってホント、ジャマ~」

 車道は錆びた自動車で埋まり、狭い歩道も寸断されている。あの、侵略された日。大小の外来獣が一斉に暴れ出し、人々がそれから逃げようとした結果大渋滞を起こした。結果、動かなくなった自動車は大型、或いは巨大外来獣に踏み潰され、徒歩で逃げた人々は小型、中型外来獣に捕食された。幹線道路は血痕や人骨が散在するスプラッタロードと化している。

「カー子、そんなのわかってたろ」

 愛用の電動スケーターが使えないのに、ゲンジロウにくっついてきたカー子だった。ストレスがたまってる。一種の禁断症状だろうか?

「あ~道なき道を藪こきして歩くなんて知ってたら来なかったよ~」

「いちいち言わないで。こっちだって疲れてるんだから」

 これまた偵察部隊に同行したアチャ子だ。こっちは遠距離班の腕利きを数名同行している。戦闘部隊の主要メンバーをそろえた偵察部隊に「威力偵察部隊?」「強行偵察だろ?」

といった声が上がっていた。A市とN町の境には山がある。道路を使わず山越えルート。わずか10kmとはいえ、なかなかの難路だ。そこで集められたのが、偵察に必要な判断力だけではなく体力・戦闘力にも富む人員だった。自然とこうなった……はずである。

「インベーダーに見つかる訳にいかない。できれば外来獣との遭遇も。山越えは当然だろ」

「わかってるよ、ゲンジロ」

「わかってるなら静かにしてくれ」

「だからわかってるって!」

「わかってないでしょ!」

「二人とも、静かに歩いてよ……」

 小柄なくせに体力に不足はないゲンジロウだったが、どっと疲れた顔をする。気の毒そうに眺める一行だが、誰も代わろうとはしない。そこにゲニンが声をかける。

「いいか、ゲンジロウ。そろそろ町が見える」

 ゲニンは新参メンバーの一人でハカセ直属の偵察員だ。本人はニンジャと名乗りたかったようだが、偉くないうえに得意なのは単独任務。せいぜい下働きということでゲニン。年格好は二十代半ばの中肉中背というところで、侵略前の日本であれば人混みに紛れて埋もれるタイプだ。

「……なあ、基地から逃げてきた人って」

「前に話した通りだ。死んだ赤ん坊を抱いた若い母親」

 ゲンジロウから表情が消える。慌ててカー子が肩を叩く。

「あ……そっか。それで、お墓は建てたの?」

 声が、話し方が素に戻ってる。カー子とアチャ子は息の合った動きで、左右からもう一度叩く。

「っと。ああ、うん、墓なんかいちいち作ってたら大変だからな」

 ゲニンはそんな三人に怪訝な顔も見せず「そうだな」とだけ答えた。


 人口1万人程度の小さな町だった。A市に併合される話は何度もあったのだが、幸か不幸か先送りになったままあの日を迎えた。A市に出現した巨大外来獣はそのままN町、そしてH市を壊滅させた。

「そんなN町になんでインベーダーが基地をつくるかね?」

 もっともな疑問を打ち消すように、峠から見下ろす一行は、廃墟の町を見た。

 辺りは、以前であれば田園だった。今は……

「見ろよ、赤山羊の群れだぜ」

「ち、ある意味、最悪の害獣だな」

 小型外来獣だ。見た目は地球の羊に似ていなくもないが、毒々しいばかりの体毛がそう呼ばせている。もっとも多い外来獣の一種で、見た目に似合わずというか、そのままというか、草食だ。ただし主食は稲。農家もいなくなって野生化した稲が、赤山羊の増殖する原因になっている。もともと稲作地帯が盛んなA県だが、野生化した稲すらうかつに収穫できないため、食糧難やら人口減やらに拍車をかけている。

「行きがけの駄賃に狩っていくか」

とりわけ米食派の年長組には憎々しい相手なのだが。

「ダメだ。俺たちの任務は偵察だ」

 さすがにゲンジロウは却下する。むしろ休息すら減らして先を急ぐ勢いだった。さすがにカー子とアチャ子が抑えていたが。

「急ぐぞ」

 目的地に近づいたことで歯止めも限界らしい。

「あそこが目的地だ」

 ゲンジロウの指す先には、建造物があったのだ。白い化粧石で覆われ、光り輝く巨大な正四角錐が。

「なんでピラミッド?」

「エジプトか!?」

 思わず荷物を投げ出して突っ込む一行だった。


 ゲンジロウは、このときのことを今も思い出す。自分たちが自分らしくいられた最後の時間を。

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