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リアル惑星ダンジョン、原始惑星「地球」編、開始しました  作者: EDーADAM・e(エダマメ)
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第4章 その5 遺跡

その5 遺跡


「はしゅせんってなんだよ?」

 ゲンジロウは既に何度質問したかわからないが、必ずしも直接答えられなかった。しかし、ここでも曲がった答えが来た。

「キミもノアの箱舟は知っているだろう?」

 変化球ではあるが、例えを入れた方が彼女にはわかりやすいということだろう。

「それくらい知ってるよ」

 バカにするなと言いたげだが、知ってるのはオタク仲間に鍛えられたおかげである。

「洪水から逃げるためにノアさんがつくったんだろ?たしか、いろんな動物も一緒に乗せたって」

「概ねそれでいい。ただ、宇宙規模の大災害から故郷の星の生命を保存し、広めるために避難させる船、それが月だった。が、まあ、聖書やシュメールの船そのものか、同種の船なのかはこれから研究したいのだがね」

 

 月が宇宙船という説は昔からなくはなかったが、あまりに突飛なので否定されることが多かったうえ、NASAの研究データが公開されるに従い、完全に否定されていた。

「しかし、そもそもNASAの公開したデータが全て真実と盲信するのは素直過ぎると思わないかね?」

「え?だってNASAだぞ?」

 そんなゲンジロウにMAUの中でアルが頭を抱えた。銀河に冠たる星間連合も、いや、だからこそ市民は情報リテラシーが高すぎるようだ。

「あんたねえ、どんな田舎だって政府の話は眉にツバつけとくものよ。まして余所の国の研究機関なんでしょ。国益優先で都合の悪い部分は偽装・隠蔽が基本に決まってるわ」

「お、おおう?アル、人を疑い過ぎじゃね?」

「ゲンジロウくん……いちいち話すのも野暮なので言わないが」

 その間、ハカセは心中で過去の疑惑を反芻しているのだが、以下省略する。

「少なくとも、自分で体験しないことを盲信するのは危険なのだよ」

「あんたも人間不信かよ。あんたらしいけど」

「何を信じるとか話してもキリがないな。では、10メートルほど前に出ればわかるだろう」

「え、それでいいの?」

 なにがわかるかも聞かず、なにも疑わずにゲンジロウは歩き出した。

「あんた、あたしたちの話聞いてないでしょ?」

 アルは幼稚園児を見る目で、ゲンジロウを追いかける。

「あれではどちらが年上かわかりませんね」

 互いの星の公転・自転の周期を考慮してもゲンジロウの方がやや年長のはずなのだが。

「仲が良くてよいではないか。もともと異なる星の年齢差など誤差の範囲だ」

 アバターの大人たちを置いて、若い二人はハカセの示す位置にまで出てしまった。すると、クレーターの影の位置で、ナゾの光が点滅し始める。

「……なんだ?」

「だから、危ないってば」

 ゲンジロウの腕をつかみながら、アルは既に光を分析し始めていた。

「一定の間隔、周波数は……あれ?」

「なんかした?って!?」

 二人は思わずバイザー越しに顔を見合わせ、うなずき合った。今度はゲンジロウがアルを抱きかかえ一気に飛び下がった。一瞬遅れて、二人がいた場所にまで光が伸びる。

 低重力だけあって、高く飛びすぎてあせったのだが、その後は問題なく着地する。

「危ねー、飛んでる最中狙われたら死んでた」

「まったく、月の重力くらい考えて行動してよ。MAUの補正も意味ないじゃない」

 光は先ほどの場所でしばし留まり、そこで消えた。

「ふう」

「今のなんだったんだ?」

 二人の側にアバターが並ぶ。

「聞こえたのだろう?月の番人の警告だ」

「古代の遺跡だよ。無視したら、ああなるわけだ」

 ハカセの声をマイファ女史が追認、捕捉する。その視線は、さっき見た残骸を向いていた。

「番人?」

「遺跡、そういうことか」

 首をかしげるゲンジロウとうなずくアルが、再び顔を見合わせる。

「どういうこと?」

「だから、この衛星が古代の播種船かどうかはともかく、遺跡があって、今も機能してる可能性はあるの。で、中枢に近づいたらさっきみたいに警告されるの」

 現に近づいた二人は、警告を聞いた。

「ここから立ち入るべからず。ただちに去れ……そんなこと言われた気がしたんだよな」

「……でもMAUのレコーダーにログが残ってないわ」

「ゲンジロウくんが素直でよかった。すぐに回避行動をとってなかったら、キミたちもああなっていたかもしれないからね」

「あんたなあ、疑えって言って送り出して、そりゃねえだろ」

「それもそうだ。すまなかったね」

「謝って済ませないで!……マジでこいつ悪い大人ね」

 アルは前半はハカセに怒鳴り、後半はゲンジロウに向かってささやく。

「まあ、悪い地球人ではあろう。ここの情報を得るには我らのスターウェブに侵入しなくてはならんのだから」

 アバターとはいえ、女史の視線の強さは尋常でなく、常人なら心当たりがなくとも懺悔しかねないレベルなのだが。

「仕方ないでしょう?なにしろわたしたちは銀河の後進惑星。あなた方の知識が必要なのですから」

 アルとマイファ女史親子の私信まで開封してるとは思えないくらいハカセは堂々と答える。その様子は再びこの場の女性たちから白い目を向けられるわけなのだが。

「……さて、アル嬢にはおわかりいただいたようだ。そう、あのクレーターの影にはこの月の、古代の播種船の中枢部、或いはそこに通じる施設があると考えられる」

 ハカセのアバターは、そこで中空に映像を表示する。それは月の衛星軌道から映したと思われるものだ。

 月面を走る地球製のバギーが、低空を飛ぶ飛翔体が、更にはそれを発進させた月基地が光によって切り裂かれていく映像だった。

「さっきの発光はレーザーじゃなかったけど、警告を無視して侵入したらこうなってたわけね」

「ああ。しかも警告無視を繰り返すと、ああなる」

 ハカセは月の裏側に建設された基地の、その跡にアバターの顔を向けた。

「警告されたんだろ?なのになんで無視するんだ?」

「みんながキミのように素直なわけではない。まして警告はどんな媒体でも記録されず、権力者には届かなかったのだから」

「それだって、一度攻撃されたら、止めるとか、もっと慎重に調べるとか」

「人道を、せめて人命を考えてくれる上司ならそうしてくれただろうが、あいにく末期の地球ではそういう権力者はごく少数だった。まして月面に到達できるような大国ほどそうだった」

 乾いた声が、むしろ当時の地球の混沌をゲンジロウに思い出させ、しばし沈黙が訪れた。


「話があちこちいってるけど、この衛星が古代の播種船だとして、だからなんだって言うのよ」

 地球人でないアルだから二人の間の複雑な空気を読まず結論を求めることができた。

「そうだね。ではわたしの仮説を話すとしよう」

 ハカセは肩をすくめる。

「異星人による地球侵略。そう呼ばれる事件はなかった、と言うことだ」

 本能的に拳を振りかざしたゲンジロウから敢えて目を背け、ポロシャツ姿の中年男は続けた。

「度重なる遺跡への侵入の試み。遺跡の防衛システムは前線基地であろう某国月面基地を破壊した。しかしそれでも侵入は止まなかった。警告を無視され、前線基地を破壊しても止まない警戒ラインへの侵入を止めるには?……策源地を黙らせるしかない」

「策源地?」

「まあ、指示を出す本拠地とでも思ってくれ」

「どこだよ?」

「……地球だよ」

 見えないはずの母星を思うかのように、ハカセは漆黒の空を見上げた。

「つまり地球に生体兵器を送り込んだのは、異星人ではなく、月の遺跡ではないか、ということだ。あの生体兵器群も、おそらくは地球圏に来るまでに収集した、様々な惑星の生命体が元になっていたんだろうね」

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