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リアル惑星ダンジョン、原始惑星「地球」編、開始しました  作者: EDーADAM・e(エダマメ)
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第3章 その19 捲土重来の少女たち

その19 捲土重来の少女たち


 アルの呼びかけに、それまでの無反応がウソのように運営側はあっさり反応した。

♪ぴんぽ~ん♪

「正解でございます。お客様のお知恵は実に素晴らしい!」

 場をわきまえない正解音に続いて感極まる様子の音声に、聞き手の反応は薄い。

「こんな非常識な展開で正答を賞賛されてもな」

「まったくだわ」

「地球人にはムリだって」

 子パンダもコアラもゲンジロウも冷淡と言っていい。

「そんな感想は後、後。じゃあモニターに重力センサーを連動して。あと、シートの仕組みを解説よろしく」

 一人異星人のアルだけが前向きに、次々と指示を下す。さすがは幾多の惑星ダンジョンを単独で攻略した手際ではあった。

「了解いたしました。モニターに重力センサーを連動いたします」

 数分前まではビッグファイア・フジヤマ・マウンテンと呼ばれていた有人砲弾は、隠された機能が増設されていたらしい。その面前でナゾの編隊飛行を繰り広げているUFO……流行の言葉ではUAPかもしれないが……が展開する輪の内部に赤いグラデーションを映し出した。

 外側は淡く、中央に向かって濃くなる。

「高度計どころか時計もないのに、重力センサーなんかはついてんだ?」

「指示すれば、どちらもモニターに出たのかもしれんな」

「今は後回しよ」

 始まったシートの機能解説に慌てて耳を傾ける。

「ご慧眼の通り、皆様の座席には、モーションキャプチャーによる操縦システムが連動しております」

「それって、人間にセンサーをとりつけてキャラクターに同じ動きをさせるヤツ?」

 バトル系ゲームオタクでも、知ってたらしい。

「つまり我々の動きをトレースして機体を動かせるというわけか」

「自分の体を傾けて左右に曲がるなんて、チャリンコかよ?」

「でもそれって……」

 コアラは自分たちの座席を見直す。コアラとパンダで並んで座ってる座席だ。前の席にはゲンジロウとアルがやはり並んで座っている。

「誰の、と言うよりどの座席に連動してるのよ?」

「鈍いわね。全員のに決まってるじゃない」

「え?」

「それってどういう……」

「みんなの勇気が試されるってそういうことなのね?」

 唯一理解できたのは、この手のイベントにも詳しいコアラであった。

「そうよ。いい、あの中央の真っ赤な部分をくぐり抜けないと、重力ブースターの加速は偏った方向にも向けられるわ。4つの輪の、その中央をきれいにくぐって最高の加速が出せる」

 既に覚悟を決めたのだろう。シートに体を預け、集中に入ったアルだ。

「逆に言えば、中央から外れれば、どんどん違う方向に加速するということか……」

「だからみんなの息を合わせて、同時に体重移動しなきゃいけないわ」

「失敗を怖がってびびったりしたら、ダメってか?」

「勇気を試されるって、そういう意味よ」

 そこでようやく理解できた地球人たちも座席に座り直す。

「いい?基本的にはみんなの動きをトレーズする。左右に体重を傾ける度合いでコースが変わる……同じタイミングで同じくらいの角度に傾けるの」

 重力センサーに、青い光点が表示された。一番手前のUFO群から大きく左に寄っている。

「あれがこの機体のコース。だからあたしたちは右に体重を動かしていく」

 アルの説明にゲンジロウはうなずいた。

「わかった。だけど舵取り役がいた方がやりやすそうだ。おまえに任せる」

 既にその動きに合わせ始めるゲンジロウだ。

「いいの?あたし、異星人なんだけど?」

「今さらだろ?それに、おまえが一番このイベントに真剣そうだ」

 たとえ動機がなんであろうと、それは間違いなさそうだ。

「ワシントンもレキシントンも、俺たちに合わせてくれ」

「当然じゃな」

「後ろのあたしたちじゃ、あなたたちに見えないしね」

 シートの背もたれからはみ出た二人の頭部に、子パンダもコアラも動きを合わせることにした。


 6機のUFOの編隊が作る赤い輪が、次第に近づいてくる。

「文字通りの第一関門だな」

 進路を示す青い光点は未だ左に寄っている。

「もう少し右に傾けるわよ」

 隣のゲンジロウにアルの肩が触れる。

「あ、いいな。あたしも前の座席がいいわ」

 コアラの中の人は、地球人の変態である。少年好きだが少女でもよく、スキあらばアルやゲンジロウにセクハラしようとしていたのだ。隣がパンダ、しかも中身は中年男性に密着するということに耐えられないらしい。座席から腰を浮かせる。

 それで機体が急速に傾いた。

「あ!?」

「この、バカコアラ!」

「……やらかすとは思ってたわい」

 いったん右から左に光点がふり戻り、正面にはUFOの機体が大写しになった。激突必至であろうか?

「畜生~!」

 期せずして動物の失態を罵る最適な罵声と共に、ゲンジロウはアルごと強引に体重を動かす。光点はさらに揺れ戻って、かろうじて赤い輪の端っこを通り抜ける。そこで一同の体はシートに押しつけられた。加速はしたらしいが……次の編隊が見えない。

「モニターに現在のコースを!」

 慌てて叫ぶアルの声に従い、モニターが切り替わる。

 中央に光る青い点は、現在位置であろう。矢印は予想進路だ。通り抜けたばかりの第一関門は赤い輪で、そこを起点に大きく進路は傾いている。

「うわあ……これ、第一関門で大失敗か?」

「ううん。後3回のブースターで軌道修正すればいい。加速は殺さず、コースだけ戻す」

「……レキシントン。次はないぞ」

「隣がアルちゃんかゲンジロちゃんなら、よかったのよ」

「「「おい!」」」

 殺気のこもった三重奏に、さすがの変態コアラも黙った。


 早々に軌道修正を試みたせいか、なんとか第二関門のUFO群がモニターに入った。しかし、右の隅っこだ。つまり青い光は大きく左に寄っている。

「……第一関門の途中まではよかったから、同じ感覚でいくわよ。ミスさえなきゃ大丈夫」

「レキシントン、いいか!」

「わかってるわよ……ゲンジロちゃんのイジワル」

「おぬし、次やったら、ワシに押しつぶされるぞ」

「イヤよ、オジンはキライ」

「奇遇じゃな。ワシもじゃ。しかし自然の摂理がオヌシを押しつぶすのじゃ」

「あ~性差別よ!異種族虐待よ!」

「「「黙れ!」」」

 再度の殺意に、コアラもおとなしくなり、4人(?)の動きは完全なシンクロをみせた。

「やった!……って?」

「あれ?」

 しかし、第二の加速後、映像に出た予想進路は、右に偏っていた。

「誰も失敗しなかったよな?これ、ホントに俺たちの動きに合ってる?」

 ゲンジロウの疑問に誰も答えるものはない。

 急ぎ軌道修正に入ったが、このままでは後二度の加速でどうなるかわからない。無言の機内にはそんな不安がよどみ始める。重い空気の中、第二関門が迫ってゆく。

「……そう言えば、あたしの予測より、舵の効きが良すぎるのよね」

 アルの感覚より、進路の傾きがやや大きいということだ。

「おまえの目がそう言うんだから、そうなんだろうけど」

 目は言わないが、まあ、そこは省く。

「あたしのせいじゃないわよ!」

 必死に訴えるコアラを無視して、パンダも沈思すること3秒。

「なるほど。これは抜かったかもしれぬ」

 仮説にたどりついたらしい。

鷲豚ワシントン?」

「つまりじゃな。モーションキャプチャーの設定は、基本人間種に設定されておるじゃろう」

「「あー!」」

「それってどういうこと?」

 肉体派ゲンジロウ以外はわかったらしい。

「つまりじゃな。ワシとこいつはパンダにコアラ。二頭身なのじゃ」

「ええっと?」

「察しが悪いわね、ゲンジロちゃん」

「オヌシらよりも、頭の比重が大きい分、ワシらの動きはオヌシら以上に偏重されてコースを動かす、ということじゃ」

「それじゃ、第一関門で歴史豚レキシントンが少し動いただけでコースが変わったのも」

「同じ理由じゃろ。思えば最初から気づくべきじゃった」

 中身は人間の自覚のせいか、自身の体のことに気づくのが遅れたらしい。

さっきより大きく傾いたコースを見て、ゲンジロウは天を仰いだ。軌道修正でなければ頭を抱えただろう。

「でもそういうことなら逆転は可能ね」

 しかし、ゲンジロウの隣からそんな声がする。

「ええ?」

 ゲンジロウは体重移動を台無しにしかねない速度でアルを見返す。その目が捉えたのは、不敵なアルの笑みだった。

「通常より舵の効きがいいってことは、今からでも軌道修正は余裕ってことじゃない」

「さすがはアルちゃん!」

「うむ、そう考えてもムリはないじゃろ」

 反応が遅れたゲンジロウだが、ひとたび理解するや覚悟は自然だった。

「ああ。おまえに任せて正解だった」

 ゲンジロウはアルに向かって軽く微笑んで隣に拳を突き出した。

「任された」

 そしてアルも応えたのだった。二人の拳は軽くぶつかった。


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