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リアル惑星ダンジョン、原始惑星「地球」編、開始しました  作者: EDーADAM・e(エダマメ)
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第3章 その15 赤いネタ

その15 赤いネタ


 話は少し戻る。

 アルとゲンジロウがバックパックを背負って電源ケーブルの接続に向かった後だ。

 船内(?)に、渋い男声ナレーションが語り出したのだった。

「ケーブルの修理に向かった勇敢なお客様……しかし、今、火山列島全体が謎の火山活動の中にあり、ここ富士山も地震に襲われたばかりなのです。勇敢なお客様は作業を終えて無事に戻られるでしょうか?」

「来たわ!お約束のイベント発生ね!」

「……なんじゃ、あれはヤラセじゃったのか」

 手足の短いコアラが狭い椅子の上で踊り出し、同じく子パンダが隈に隠れた悪い目つきをしばたかせる。

「この手のアトラクションじゃつきものよ?観客参加型イベント!」

「おぬし、知っておったのならどうして二人に話さなんだ?」

「あら?アルちゃんは気づいてたわよ?あの子もこの手のアトラクションに詳しそうだし」

「ゲンジロウは違うじゃろ」

「まあ、ゲンジロウはゲーマー時代からネタバレ禁止主義だし、未知の初体験の方が楽しめるでしょ。これもラブよ」

「おぬしの愛情表現は悪趣味じゃな」

 子パンダは自分の表情筋の少なさに根を上げ、異物を吐き出すような顔になった。


 しばらくすると見張りをするアルと作業するゲンジロウが正面の大型モニターに大写しになった。

「真面目ねえ」

「直さんと先に進めんのだ。普通そうするじゃろ」

「あ!?なんか見覚えがある子たち?」

「ふむ。記憶によれば、アチャ子にカー子じゃな」

「あらあら?二人とも、元気だったんだ~久しぶりね」

「この姿のワシらは初対面じゃろ。それよりこれもイベントか?」

「さすがにこれは違うわね~だけど、これだから面白いのよ!」

 再び椅子の上で怪しげに舞うコアラを、子パンダがうろんげに眺める。


 ♪でんでんでんでん、でんでんでんでん、でんでんでんでん、でんでんでんでん、ででで~ん、でででで~ん♪

 人食い鮫でも出てきそうな不気味な音楽とともに画面が変わる。

「お客様は懸命の作業中です。しかし、なんということでしょう!」

 大型モニターが富士山の全景を映し出した。

「これは、大地震の前兆か?はたまた、いよいよ大噴火か?ああ、お客様方に危険が迫っております!ビッグファイア・フジヤマ・マウンテンの運命は?」

 麓から次第に赤に染まりゆく富士の姿を。

「赤富士か……しかし?」

 精密なモニターは、赤の中にうごめく異物をも映していた。

「しかも!お客様に近づく謎の影!ああ、危険が迫っているのです」

 赤ゴブの群れが大写しになるが、薄暗い中、画像が揺れ、かすかに乱れた。

「あら、つくりが甘い。減点ね」

「……やはりオヌシの関与、或いは仕切りか?」

「関与は認めるけど、仕切りは言い過ぎよ。関わったのだって、あたしじゃなくて元の本人」

「レキシントン本人か。あの女も救われんな」

「あんたの元人格も大概だけどね」

 

 モニターは、いつしか4人が協力して赤ゴブと戦う様子を映し出していた。軽快なBGMが流れる中、コアラはどこからかユーカリの葉を取り出し食べ始める。観戦モードである。

 つられてか、子パンダも笹竹をかみ始める。

「摂取カロリーが低い草食動物は、一日の大半が食事時間に費やさねばならんからの」

 BGMに紛れ、二豚の咀嚼音が機内に響く。

「……あ、ほら。アルちゃんってば、ちゃんとアトラクション用のレーザー浸かってるでしょ」

「アトラクション用?つまり実害はないのか?」

「派手な青の可視光線と命中した時の映像効果でごまかしてるけどね」

「では、あの赤い怪物は全部立体映像なのか?なんとまあ、科学技術の壮大な無駄遣いじゃな」

「それを言ったらこの筐体だってそうでしょ」

「まさか、富士山全部が?」

「アトラクション設備よ」

「道理で、あの区画では地震を感じなかったわけだ」

「ああ、ハカセの独立区画。気づいてたの?」

「避難場所で見た大陸浮上の映像が、いかにもオホーツク近海の海中過ぎてな。ああいう典型的な映像が、一目でわかる場所で地殻変動が偶然起きるのは、できすぎじゃ。気になったので異星人娘に聞いたのじゃが、儂らが避難場所で地震にあっておった時間、あの娘はなにも感じなかったと」

「ち。やはり、あなた、油断できないわね。そうよ、地震が起きるのは、富士山内に設置された起震装置のある室内だけ」

「……まあ、ワシらそのものがアトラクションの参加者じゃったから、それくらいのことはあるのじゃろうが……環境への悪影響を考えると頭が痛いわい」

 事実、頭が痛むのか、子パンダは笹竹を食べるのもやめて、なにもない天井を見上げた。

「そんな心配ないんじゃない?異星人の科学力は宇宙一よ?」

「科学力と倫理が両立しておればいいんじゃが、外来獣や在来獣を見れば期待薄じゃな」

 そんな会話の合間にも、モニターの中の4人は悪戦苦闘を続けている。

「待て?ゲンジロウが斬っておる怪物も立体映像なのか?」

「ああ、もちろん違うわ。ちゃんと実体ホンモノも交じってる。かなり少ないけど」

「やはり外来獣か?人型とは悪趣味極まるの……む?死体はどうなるのじゃ?」

「特殊な処理をしてるから、死んだらすぐに分解しちゃうはずよ。環境に優しいでしょ?」

「そんな不自然な処理など、いいわけないわ!」

「見て見て!あの、立体映像!カー子なんか完全にホンモノだって信じてるわよ!」

「……本当に悪趣味じゃな」


 そして、ついに妖術赤ゴブリンをゲンジロウが倒すシーンが流れる。

「子ども見せて釣り出すなど、オヌシの演出じゃな?最悪じゃ」

「美しいでしょ~無垢な子どもを救わんと、決死の覚悟で大敵に挑む!あ~萌えるわ~」

 コアラの中の人が、ショタ好きの変態であることを再確認し、子パンダは「人間の敵は、最後は常に人間じゃな」とつぶやいた。もともと中の人が人間嫌いなのだ。

 

 モニターでは、いろいろ不審を感じたアチャ子たちに向かって、アルが解説をしていた。

「あそことあそこ、ほら、あそこにも」

 手に持つレーザーガンを撃つ度、青色光線の向こうで何かが光る。立体映像投影器らしい。

「こんなのがあったんだ?」

「でも、ゲンジッチが斬ったのは?」

「まだその辺に死体、あるんじゃない?」

「え~もう腐ってる!?」

「腐敗処理ね。死んだらすぐに自然に還るよう調整された」


「あらら、アルちゃんたら、親切ね。でもアトラクションのネタをばらすのは逆に不親切かしら?」

「ゲンジロウはまだしも、アチャ子とカー子は巻き込まれたんじゃろ?なら教えるべきことは教えてやるのが礼儀じゃと思うが」

「礼儀かあ……アルちゃんってば、異星人で人見知りって思ってたけど、意外にあの子達とも仲良くなったのかしら?」

「共にイベントとらを終えたのじゃ。軽い吊り橋効果ではないか?」

「ああ!?その手があったか!?あたしも参加してたら、アルちゃんやゲンジロちゃんと、あんなことやこんなことが!?……抜かったわ」

「オヌシもすくわれんの」

 人格転写されたとはいえ、人間とコアラや子パンダでは脳の容量が違いすぎる。相当の取捨選択して限られた記憶や知識を厳選し、メモリーを確保したとしても、元の人格が消えるのは、もうすぐだろう。「そうなった後の、あのコアラの性的嗜好がどう変化するか、興味深いの。恐ろしくもあるが」。子パンダは心中でつぶやいたが、口に出しては違うことを言った。

「それで、この筐体は本当に月に向かって発進するのか?」

「あ?飛ぶフリするだけって思ってる?さあ~どうかな~?それは内緒よ。知らない方が楽しいでしょう?」

 もしも自分の記憶が消えたら、このパンダはコアラをどうするのか?

「まさか食わんとは思うがの」

 実はパンダは雑食でもある。竹以外にも、果物、野菜、時には魚や小動物を食べることもないわけではない。

「まあ、竹があるうちは食べたりはしないだろうが……どうなるかこれも興味深いの」

 到底、仲良くできるとも思えないが。

 熊の仲間では唯一、ものをつかめるパンダは、竹を握ってかじりついた。

 正面モニターは、富士山を染めていた不気味な赤が消え、夕日に染まる本来の姿を映していた。


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