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リアル惑星ダンジョン、原始惑星「地球」編、開始しました  作者: EDーADAM・e(エダマメ)
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第3章 再起編  その3 前兆

第3章 再起編 

その3 前兆


「答えてもいいけれど、その前に質問を許して欲しい。いや、単に星間社会への好奇心なのだが」

 アルの目の前にいるのはハカセと呼ばれる男だ。歴史豚レキシントン鷲豚ワシントン、どうやらゲンジロウも本名ではないらしい。ハカセもおそらくはそうとアルは気づく。翻訳機のライブラリを検索すれば、教授という語彙にヒットした。およそ平凡な身なりにも関わらず納得だ。その間、1,2秒の沈黙を、ハカセは質問の許可と捉え、話を続けた。

「明らかに女性をパパと呼ぶのは、君の基本となる遺伝子がママという女性からの提供で、それに次ぐ遺伝子提供者をそう呼称しているからかな?」

 さらに数秒の沈黙はそれに答えることが、自分にとって不利益になるかどうかを考えた故だが、質問に他意はないと判断した。

「……そうよ」

「では3人目以降の遺伝子提供者は叔父、叔母と?」

「そのとおり」

「ありがとう。実に興味深い。或いは地球人類も数十年後にはそうなっていたかもしれないね」

 人のいい様で喜ぶハカセだが、アルの警戒心は強まるばかりだ。

「で、あんたの答えは?なんであたしがパパの娘ってわかったの?」


「君がパパと呼ぶ女性は私の上司でね。しかもなかなかに優秀で魅力的な女性だ。私としてはいろいろと気を遣って当たり前ではないかね?」

「そういう曖昧な言い方でごまかさないで」

「やれやれ。思春期の女性はどこの星でも気難しいね」

 困った様な顔をするハカセだが、それはフリ。アルは追究を緩める気はない。

「君のパパことユーセイア・マイファ女史は、スターウェブに秘匿回線を有していてね」

 そのせいでもないが、ハカセはあっさりと答え始めた。

「特定の相手にかなり機密度の高い通信を行っていた」

「……それがなによ?」

「まあ、その相手が実の娘であれば、通信そのものに疑念はないのだが、なぜこうも機密が高いのか、ということが気になる」

「あたしとパパの通信を盗み見たの!?」

 星間社会でも私信を見るのは犯罪だし、それ以前に気色悪い。しかし、この原始惑星の現地徴用員ごときが高度な星間社会に順応し、かつ機密に類する情報を扱っている?

「まさか」

「基本的なやりくちは、この星にもあったことだ。応用すれば不可能ではないよ。ハリウッドなんか地球製のパソコンで初見の宇宙船を乗っ取とるくらいだけど、あんな非常識なことはしてない」

 異星人相手に「独立記念日」のネタを振るとは、常識人のフリをしても、さすがはオタク集団ハンターズのリーダーである、とコアラは感心するが、もちろんアルにはわからない。

「ただ、まだ開放していないはずのこの惑星ダンジョンに、なぜ娘を招待したかが気になってね」

「……あたしが一番乗りにこだわってるプレイヤーだからじゃない?」

「さすがは惑星荒し、と言いたいところだが」

 自分の異名を知られてると気づき、アルも苦い顔をする。

「それだけにしては、この惑星に仕掛けられたシナリオは、少々腑に落ちなくてね」

 そこでハカセはコアラに目を向ける。

「レキシントン、君に謎解きを手伝ってもらいたい。私は少々専門外でね」

 専門という以前に、中の人は関係者である。明らかにそのことを察した口ぶりだった。

「もちろん、アル・マーニリャ165世。君のダンジョン攻略には協力させてもらう」

 結局、この男の手の内はほんの一部しか明かされない。しかしこっちはほとんど把握されているらしい。どうやらハカセは自分の勝ち札をそろえてから自分に接触してきたのだろう。こんな部下(?)を持たされたらパパも大変だ、と思う。

「あんた、フェイカーとか得意でしょ」

 フェイカーとは偽札を相手に押しつけ、自分は勝ち札をそろえるというゲームだが心理戦・情報戦の代表格である。地球で言えばババ抜きとポーカーに近い。ちなみにアルは大の苦手だ。

 

「なあ、鷲豚ワシントン、どっかの火山が噴火って」

 大きなモニターを見上げるゲンジロウは、イヤな予感に襲われている。ハンターズ時代ならばイヤな予感しかしない、という感覚だ。強化されて以来久しく味わっていなかった。

「だから、この火山列島は複数のプレートの上にある、極めて不安定な造山帯だ。専門外のワシには、いや、専門家であっても予想はできまい」

 地震や噴火の予知は最盛期の地球でも最難関の課題だ。パンダの中の人は知識系のオタクで、或いは動物学者かもしれないが、付け焼き刃の知識でどうにかなるものではない。

「じゃあ、最悪に備えて、なにを準備すればいい?」

 だから最悪を想定する。それは若くして経験した幾多の不幸が教えてくれたことだ。おおよその困難は予想できれば最小限の被害で済む。

「最悪か。そうじゃな。それは火山列島のほぼ中心にある最大の火山から真っ先に逃げることじゃな」

 まずはここから避難すること。実に当然なのだが……。

「それじゃ、アイツとの……アルとの」

 そこでもともと少ない語彙が切れる。アルとの?具体的な約束をかわしたわけでもなく、なんとなくここまで来てしまった。腐れ縁、という言葉がようやく浮かぶ。

「腐れ縁が切れちまう」

「腐れ縁など切れるにこしたことがないと思うのじゃがな。まあ、おまえがそう言うなら腐ってないということじゃろう」

「腐るってなんだよ」

 生物的には紛れもなく女子のゲンジロウだが、ゲームオタクだったせいで中身はほぼほぼ男子、いや男児だ。腐女子的な関心など持ちようなどないらしい。

「いや、そこはどうでもよい。ようはおまえがあの異星人との縁を切りたくない。そう感じていることが大事なんじゃ」

「……らしくないな。おまえ、マジで鷲豚?」

 パンダの中の人は偏屈な動物オタクだ。今の、年長者らしい助言は似合わないが。

「全ての動物には、ある種の本能が存在する。それに抗うと長い目で見ればろくなことにならん。だから、おまえはおまえの本能に従えばよい」

 近年では「本能」という語彙はあまりに多岐にわたって使われすぎて、専門家はむしろ使わないらしい。そういう意味でも鷲豚の中の人は科学者ではなくオタクなのだろうが、知識の少ないゲンジロウにはむしろ伝わった。

「ああ。じゃ、逃げない」

「それでも避難経路の確認くらいはしておくぞ。あとは火事や煙対策くらいはしておくか」

 パンダは待機施設の中の点検を始めた。消火設備に給水器は、ほぼほぼ地球製の設備と変わらない。

「……いや、変わらなすぎる」

「なに?あ、これ給水器じゃん?」

 無塗装の壁際に無造作に置かれた給水器を見て、ゲンジロウは水を飲み始める。飲めるときに飲む。それも身につけた経験則だ。

「あ、これ、富士山の水じゃん」

 給水器に、昔どっかのコマーシャルで見た記憶が蘇る。

「……地球製ということか」

「だと思う。鷲豚ワシントンも飲む?うまいよ」

「うむ、いただこう」

 とはいえ、中身は偏屈老人でもガワは子パンダ。給水器に届かない子パンダをゲンジロウが抱き上げた。これがコアラの中の人なら、人がいいゲンジロウでもさすがにやらない。

「……あれ?」

「出ないぞ?」

 さっきまで勢いよく出ていた水が出てこない。と、次の瞬間、ぐらりと来た。

ゲンジロウは反射的にパンダを抱きかかえたまま、地に伏せる。そこに、まるで狙ったかのように倒れ込む給水器、それを流れるような動作で蹴り飛ばす。壁まで吹っ飛んで壊れる給水器を見て、パンダは半ば感心する。

「さすがじゃな」

「慣れてるから」

 地震に、ではなく荒事に、である。おまけに不本意ながら強化されてる。次第に強まる揺れに備えながらも、その目は油断なく周囲に走り、天井、壁、床の以上を探り始める。

「ふむ」

 その腕の中で護られながら、パンダは壁のモニターを視線操作する。多少の揺れは補正されるらしいと感心しながら。

 モニターはこの成層火山を、つまり富士山を映し出す。夕日に照らされる赤い富士山が鳴動していた。赤い空を飛ぶのはカラスにしては大きすぎる。

「おそらくは強化在来獣か、中型外来獣でじゃろうな」

 いあやな

 そう聞いてゲンジロウはイヤ~な顔をするが、そのまま天井をチェックした。

「施設内の照明は天井に埋め込まれてる。落下の可能性は少ないと思うし。壁も、まあ、分厚い。設備内にいる限り、噴火でも起きなきゃ大丈夫だろ……あ?これフラグ」

 自然に声に出してしまったが、オタクとしては失言だろう。

「ふむ……おまえは異星人娘を置いて避難したくない。あの異星人娘はここを攻略しなければ離れまい。だったら、一刻も早く合流して、ここを攻略させるのが最善じゃ」

 もっともな発言なのだが、なぜかゲンジロウには違和感が消えない。

「警告!警告!……地震です。地震です。お客様は避難お願いします。ただいま誘導アンドロイドを派遣いたしますので、その場で安全な姿勢で待機お願いいたします……」

 揺れが本格的に始まって、それなりの時間が経過した。

「遅い」

 おそらくは自分だけなら余裕で避難していただろう。

「火山列島の危険性も気づかない異星人のシステムか?どうもチグハグじゃな」

「あん?給水器とかは地球製なんだろ?だったらなんで防災対策は異星人任せなんだ?」

「……ふむ。ゲンジロウも、そういう勘は働くんじゃな」

「それ、バカにしてる?」

「いいや、誉めておる」

「ならいいけど……どうする?アンドロイド来るまで待つ気ないけど」

「もっともじゃな。あの娘と合流するなら、おそらくはあっちに行くべきじゃ」

 パンダはいつの間にかモニターに設備の全貌を映していた。その指す先には、独立した区画があった。

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