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リアル惑星ダンジョン、原始惑星「地球」編、開始しました  作者: EDーADAM・e(エダマメ)
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その9 疾走!ビッグファイア・フジヤマ・マウンテン! 後編

その9 疾走!ビッグファイア・フジヤマ・マウンテン! 後編


 ビッグファイア・フジヤマ・マウンテンのコースターはリニアモーター技術やら星間連合の重力制御技術やらが利用された、安全性の高い乗り物であった。

 「あった」。過去形である。

 計画を推進した星間企業ワルネイルが建設を傘下のワルダックに下請けに出した時点で計画は大きく変更された。そもそもワルダックは星間軍事企業である。連合においても真っ黒なグレーといえる存在だ。

 そのせいかどうか。最終的にアトラクションとしての安全性は、いつの間にやら軍事教練の水準にまで引き上げられた(引き下げられたとも言う)……。

 ・

 ・

 ・

 宙に浮くように設置されたレールの下には、赤黒い粘液じみたマグマがあった。急降下した先はマグマだまり。それは某名作アニメの「マグマダイバー」を彷彿させなくもない景色なのだが、あいにく異星人のアルにはわからない。

「もうイヤだよ~おウチ帰る~」

「暑いわね……」

「うむ。汗腺が少ないこの体ではこの酷暑には耐えがたいな」

 アトラクション嫌いをこじらせたゲンジロウとコアラとパンダではそれどころではないらしい。

 そのうえ、コースターはさっきまでの異常な速度をすっかり失い、マグマの上をわざとらしくノロノロ動くだけで、乗客の危機感だか恐怖感だかを高めている。演出であろう。

 グツグツグツ……煮えたぎったマグマの泡が時に弾け、車体に届く前に飛散する。

「きゃあああ!暑い!ううん、熱いよー」

 届かないというのに悲鳴を上げるゲンジロウだが、今さら誰も気にしない。さすがのコアラ(へんたい)すら暑さにかまけてそれどころでではないらしい。マグマの発する赤外線が地下空洞を照らし、赤々しくも暑苦しいのだ。

「こんなとこ、なにが楽しいのよ?……あ、前言撤回!」

 不平を言いかけたアルは、レールの先にいる大きな影に気づき、ニンマリする。

「お客様に、本日のフォースステージ、ビッグファイア・フジヤマ・マウンテン、カグヤボックスガンマの開放条件をお知らせいたします」

 相変わらずの唐突なアナウンスにアルは一瞬眉をひそめる。なお、額の目は遠赤外線が鬱陶しいのか閉じている。

「レールを塞ぐマグマラットを退治してください」

「マグマラット?火鼠なのね!?」

 食いついたのはコアラの中の人だった。

「つまり、これは右大臣阿倍御主人が達成できなかった『火鼠の裘』をゲットするイベントなのね!」

 一応は物語・伝承に詳しいオタクではある。自分の専門領域に入ると解説したくて仕方ないのは正しいオタクの習性であろうが。

「なんだ、それ?」

「帰る~」

「あの生き物はどういう生態なのか?おそらくは強化外来獣の一種であろうが……火を放つ生き物?どういう原理だ?ぜひ捕まえて研究するべきだ」

 誰も聞いていないまま、コースターはノロノロと進みマグマラットとの距離を詰めていく。次第に大きく見えるマグマラット。全身から火を放ち目は金色、長い尻尾も炎をかたどっている。千葉在住の外来マウスとはまったく違い、愛らしさのカケラもない。

 そんなものがゆっくり近づいてくる。しかも

「こっちは動けないんだけど?」

 乗客の安全を守る固定具だが、この場合は拘束具である。前ステージのようにレイガンが装備される気配もない。

「ねーこれ、どうやって倒せって言うのよ?」

 さすがのアルも手の打ちようがないようなのだが。

「もういや~」

「それはあたし、管轄外だから」

「だから生態を調査しなくては弱点も見つからないのだ」

 他人を頼るのは諦めるが、最前列のせいか、押し寄せる熱波で焼けそうだ。

「うん?」

 近い?当たり前だが最前列は一番近い?アルはしばし直立したマグマラットを見つめ、続いて今度はうろんな目で幼児化したゲンジロウを見る。

「ねえ、ゲンジロウ……」

「帰る~こんなとこイヤだ~」

「帰るためには、アレ、なんとかしないとイケナイよ?」

 にっこり微笑むアルだったが、後ろで見ていたコアラとパンダはなぜか一瞬暑さを忘れたという……。

「あれをやっつければ帰れる?」

「そう!だからそのカタナを前にかざして!」

 目を閉じたまま、しかも座った姿勢で長太刀を抜いたのは本能のなせる業か修練の成果か。肩を固定されながら、その腕を前に突き出せば、長太刀は車体を超える。一方マグマラットは直立しているせいか、体格のわりに攻撃範囲は狭い。熱波こそ厳しいが。

「帰る~帰る~」

 いつもの剣速も剣技もないが、振り回した特殊鋼の剣先は、炎に包まれたマグマラットを切り刻んだ。動かなくなったラットを押しのけ、コースターは何事もなかったかのようにレールを進んでゆく。

「楽勝じゃん」

 汗まみれのアルがゲンジロウの肩を叩く。

「これで帰れる?」

 炎でも焦げ一つない刀身を納めたゲンジロウだが、大敵を倒したとは思えない。

「mmmmm……」

「nnnnn……」

 後ろではコアラとパンダのエクトプラズムが見える気がする。

「フォースステージクリア!おめでとうございます!『火鼠の裘』を手に入れました」

 アルの胸に、もう一つ光点が輝いた。頂点の位置だ。


 ステーションでは再び5分の猶予しかなく、やっと帰れると思ってたゲンジロウはアルに引っ張られてイヤイヤ乗り込んだ。

「ゲンジっちも、どこに帰るってのよ?」

「退行中なのだ。合理的な説明はできまい……げぼ?」

 その言葉も終わらないうちにコースターは急発進する。その加速性能は地球人の常識を越えていた。

「あら、意外に楽しい?」

「きゃあああ~」

「ぐぼ」

「げぼ」

 星間連合人には、常識の範囲かもしれないが、本人が他者から非常識と分類される存在なためアヤシイ。

 うす暗いトンネルの中、レールの先も見えない中、不規則に出現する岩の突起をさけるため、右に左に揺れるコースターだが。

「あれ?レールが消えた?」

 そこにあるのは縦穴だった。レールを失ったコースターは一気に落ちる。

「きゃあああああああ」

「……なに、このムチャゲー」

「オヌシがつくったんじゃろ……」

「つくってないから!あたしは原案の一部だけだから!」

 とはいえ、重力制御のせいか、コースターは正しく水平を保って落ちていく。


……数十秒後。

ぽちゃん。途中からは自由落下ですらなく、最後はゆったりと着水した。ふう……さすがに息をもらした一同だったが、そこに狙ったようなタイミングでアナウンスが流れた。

「お客様に、本日のフィフスステージ、ビッグファイア・フジヤマ・マウンテン、カグヤボックスデルタの開放条件をお知らせいたします」

 今度はうってかわって地底湖の上を進むコースターだ。さきほどまでの非常識な加速はなく、湖面に波紋を広げながらゆったりを前にゆく。

 しかし、辺りにはひんやりとした冷気が漂う。

「でも、大して寒くないね」

「おそらく、『火鼠の裘』のおかげじゃない?」

 燃えないだけでなく温度そのものを保っているということだろうか。

「自分たちで選んだ攻略順でもないのに、得した感じね」

 まあ、コースに選択の余地がないのが、この手のアトラクションではある。

「では、開放条件です。『龍の首の珠』を獲得しください!なお、失敗した場合、コースターは湖に沈んでしまいます!」

 ゴトリ。アナウンスの最後に聞こえた異音は、肩の固定具から発していた。

「竜珠って、普通、龍が手に持ってるヤツでは?」

「仏教だと如意宝珠ね。地蔵や虚空蔵なんかも持ってるわね」

「え?龍の玉ってドラ○ンボール?」

「近頃の若いモンはなげかわしいの……」

「だから、まあ、龍の首に玉って珍しいのよ」

「まあ、もともとは存在しないものを見つけてこいというムリ難題であろう……ん?」

 前方の湖面に不自然な波紋が見える。コースターの移動に伴うものとは明らかに形も大きさも位置も違う。それが次第に大きく激しくなっていく。

「これは……アレね。水上アトラクション定番の」

 詳しいコアラだが、他の全員は等しく初搭乗であったから反応はない。それを悟ったコアラがつまらなそうに続ける。

「もうすぐ湖面に龍が首を出すわよ」

 ぞわぞわ。冷気が強まり、波紋が泡立ち、その言葉通り青い龍が姿を現した。首から下は地底湖の中なのだろうが、見える部分だけで自分たちの3倍はありそうだ。その黄金の眼が一同をにらむ。

「なかなかイイカンジね」

「このアトラクションって、乗客の安全をどう考えてるんだ?」

 さきほどの異音に気づいたゲンジロウは固定具を持ちあげ外しながら、首をかしげた。その目は龍の瞳をにらんだままだ。アルもコアラもパンダもそれにならって固定具を外す。

「ゲンジロウ、なんか元に戻った?」

「うん。平気だ」

 固定され不自由な身で加速にさらされるのが終われば、あっさり復帰したゲンジロウだったが、多少テレが残ってる。加えて、アルには固定具を外す動きがぎこちなく見える。

「ゲンジロウ、動きにくくない?」

「……少し。まだ緊張してるのかも」

 緊張、ならいいけど。しこりのように違和感が広がった。

「じゃ、あれ、どうすんの?」

アルが指さすのは、その前に浮かぶ龍の首だった。

「安全なアトラクションなら、首から下はないと思うけど……」

「バカを言うな。さっきの火鼠はどこぞの外来獣だったぞ」

 今度こそ新生物の生態を明らかにせんとするパンダだが、そもそも短い腕ではモゾモゾするだけで、動きづらそうだ。アルはそれを横目で見て、すぐに前方に目をこらす。

「……ううん。水中に隠れてるだけ。ちゃんと細長い胴体があるよ」

 明度も低い中、アルの額の目は水中も見えるらしい。

「……でも、要は首元の光ってる宝玉を奪えばいいのよね」

 そして、いつも通り、どんな時でも最短距離を迷わないアルであったが。

「あの金目がなんか気になるわね」

 自分の額の目がイヤ~な光を感じている。光はこちらをとらえ、コースターそのものを包んでいるのだ。それが自分たちの動きを抑えてるようだ。隣のゲンジロウがこわばってる。さっきまでとは違う意味でらしくないのは……。

「竜眼ってロンガン!食べたらおいしいけど、アレじゃないわよね」

 コアラの中の人はフルーツも好みだったが、コアラの顔で言われると「悪食」感が強い。

「コイツ、なんでもアリか?」

 中の人はショタ好きだがロリでもいけるという変態である。加えてガワはコアラでありながら竹の葉やらきびだんごやらを平気で食べていた。

「そんなことないわ~おいしいものしか食指動かないし」

 コアラはその手で前のアルの肩なで回す。前方の龍に集中していたアルは不意を撃たれて全身が悪寒に襲われた。

「この変態!」

 アルは後ろ手にコアラの頭をつかみ、そのまま前方に投げ捨てた。

「あ~れ~」

 コアラは悲鳴をあげて、宙を飛び、そのまましっかと龍の右顔にしがみついた。実は樹上生活をするコアラは握力が強い。ゴリラ級とも、一トンとも言われるほどだ。

「あれ、光圧が減った?」

コアラが龍の目を塞ぐ形になって、竜眼の圧力が半減したらしい。

「その手があったか!?……ゲンジロウ!パンダを投げて!」

「ひい?ワシ?」

「すまねえ、鷲豚ワシントン!」

「すまないと思うならやめてくれ~」

 パンダは正論を吐きながらも、ゲンジロウの右手につかまれ、オーバースローで投げられた。強化地球人の剛腕は狙い過たず、龍の左顔を直撃し、そのままパンダはしっかとしがみつく。ご存じの通りパンダは熊の仲間であり、その戦闘力もそれに匹敵するという。子パンダとはいえ、その力はいやがる龍が首をふりまわしてもまったく揺るがない。

「助けて~落ちたら溺れる~」

「いや、コアラもパンダも泳げるから問題はないぞ?」

 しがみつきながら泣きわめくコアラを冷静に諭すパンダだったが。

「コアラは泳げてもあたしは泳げないのよ!早くなんとかしなさいよ!」

 龍の視線が遮られたせいか、コースターは順調に龍の首元に到達していた。

「ゲンジロウ!」

「わかってる!」

 コースターの前面は不安定な斜面だが、ゲンジロウはすっくと立った。そして自慢の長太刀を鞘走らせるや。音も立てずに首元の宝玉が落ちてきた。そして龍は動きを止めた。

「きゃっちっと」

 もちろん抜かりなくつかむアルだった。宝玉には無数の回路が透けて見える。或いは龍を操る制御装置かもしれない。奪われた龍は暴れることもなく、静かに湖水に沈み始める。

「おめでとうございます!フィフスステージクリア!カグヤボックスガンマ、開放です!」

 もはや聞き慣れた声に反応もせず、ゲンジロウはコアラとパンダを降ろすのだった。


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