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リアル惑星ダンジョン、原始惑星「地球」編、開始しました  作者: EDーADAM・e(エダマメ)
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その7 疾走!ビッグファイア・フジヤマ・マウンテン! 前編

 その7 疾走!ビッグファイア・フジヤマ・マウンテン! 前編


 ビッグファイア・フジヤマ・マウンテンとは、富士山に設置された地球最大のアトラクションである。その建設は星間複合企業ワルネイルとその麾下の各種企業により行われた。

 意外なことにその着想は、原住民の提案に基づいており、彼女が模範としたのは、T県にあった有名アトラクション施設であったとも言われているが、異星人が着工したことによりその規模は大きく上回ることとなった。

 更に、かつて存在していた富士山登山鉄道計画をも参考にしたという説もあるが、同計画が30kmにわたり五合目までを終点とする路面電車だったことに対し、頂上まで達する、しかもその路線の多くは地下を走らせるという点で大きく異なり、計画を遙かに上回る規模となっている。現実的に言えば、世界文化遺産として登録された富士山においてここまで大規模な工事が行われたことは……特にアトラクション施設として……当時の政治情勢ではありえず、地球改造後の星間企業の着工という異常事態でなければありえなかったと断言できよう。

 つけ加えれば、本家が本国の伝説を背景にしていたのに対し、こちらは日本最古の小説「竹取物語」をモチーフに取り入れているという……。

 がこん。「ただいまよりビッグファイア・フジヤマ・マウンテン、発車いたします」。某有名男性声優の声が静かに流れるや、大きな機械音とともに、急加速が乗客らを襲う。

「ぐえ!?」

「ぶへ?」

「あ~れ~」

「がほっ!」

 四者四様のくもごった声が地味に聞こえるが、貨車を模した車体はその加速を早めるばかりだ。数秒にして高速に達し、さらには車体が大きくかたむく。

「原始的~慣性制御もないわけ?」

 アルはその髪をおさえたわけだが、実際には重力制御の方は随所で流用されている。車体が90度以上傾いていても車体が安定しているのがその証拠なのだが。

「わ~落ちる~上上上~飛びでた岩にぶつかる~!?きゃあ~?」

 がこん!トンネルの壁面に余裕はまったくなく、こすれんばかりの中で猛スピードで、右に左に上に下に。レールに従い走る車体は思う存分ゆさぶれ、ゲンジロウは悲鳴をあげた。

「大丈夫よ~ゲンジっち。速度だってそんなでてないし」

 後ろのコアラは黒い目をまたたかせてはグフフと笑う。

「それにしてもゲンジっちが悲鳴なんて、新鮮ね~かーいいわ~」

「まったくだ。大型外来獣にすら刀一本で立ち向かうゲンジロウが……女子とは実に不可思議な生き物だ」

 その隣のパンダは悠然とその大きな頭をかしげ、かたむく車体に気づいて戻す。

「お。俺、こういうの始めてだから……。ひ?ひっくり返る~!きゃあああ~!?」

 生まれ育ったA県にアトラクション施設は皆無。小学校の修学旅行で始めて県外の動物園にいったきりのゲンジロウだった。

「こんな原始的な乗り物で楽しめるなんて、ゲンジロウがうらやましい……いきゃ?」

 トンネル正面に壁が迫り衝突寸前、と思わせ急降下。さすがにアルも舌をかむ。慣性制御下の宇宙空間であれば小惑星を亜光速でぶっ飛ぶことすらあったのに、地底トンネルで重力やら加速やらにふりまわされえるのは苦手らしい。

「うべ、がき、うきゃ?」

 しかも自分で操作できない乗り物のせいか、アルはまったく揺れに対応できていない。

「もうムリムリムリ~おかあさ~ん!」

 こちらはすっかり乙女なゲンジロウ、泣き顔だ。

「ホント、新鮮だわ~二人ともかわいい~」

「相変わらず悪趣味だな」

 前の二人と対照的な、笑うコアラと不動のパンダ。

「狭いのはイヤ~暗いのもイヤ~揺れるのはもっとイヤ~」

 完全に暗いわけではなく、ところどころ明かりが照らすのが一層閉塞感を強くする。

「ダメダメダメ~もう降ろして~!」

「あ、そろそろよ」

「うん?」

 下り坂のレールのせいでスピードが乗った車体だったが、いつしかレールは上を向き。

「アルちゃん、よかったわね。トンネルを抜けるわよ」

「ほんと?」

 すがる思いで上を見上げるアルだった。確かに次第に明るくなって……数秒後。

 車体は登坂を飛び越して、レールのない空中を飛んでいた。

「うそおおおお!?」

「落ちる~~~~助けて~~」

「美少女の悲鳴ってほんと、かわいいわ~」

「おや、外に見えるのは火口かね?」

 そのまま、向こう側のレールに着地したのは、絶妙の精度であろう。ちなみに富士山には頂上以外にも宝永火口をはじめ10以上の火口があるそうだ。パンダが見たものもその一つに過ぎない。

「ご乗車の皆様。本車両は、もうすぐ最初のステーションに到着いたします」

 そこに渋みのあるいい声のナレーションが入るが、乗客の半分は聞いていない。

「ではここで問題です!♪チャチャ!」

 かぶせるように切り替わった声は、「日本縦断スーパークイズ」再開の知らせらしい。

「正解すれば、セカンドステージ突破です!無事、ステーションで優雅にご休憩でございます……しかし!」

 一瞬気を緩めた一同を再び揺らす逆接の接続詞だった!

「この問題に正解しなくては、お客様の車両はステーションに入ることなく、破壊されてしまうのでご注意ください!」

 先ほどまでの声と異なる強引な展開にさすがに一同も危機感を覚える。

「ってか、不正解なら死ぬってこと?原始的~」

「やっと終わる?だったら頑張ろう!」

「こんな設定入れたかしら?」

「……せっかくの風情が興覚めだな」

 まあ、この程度の危機感ではあったが。

「次は〇×クイズです!この後の問題を聞き、正しいと思ったら〇の、間違えていると思ったら×のレールの方にお進みください!正解ならステーションが、不正解ならクイズの終わりが待ち構えています!」

 終わるのがクイズだけではない予感、120パーセントである。

「では問題をお聞きください!」

 そこで一転。アナウンスは某有名女性声優に切り替わる。優雅なBGMが隠し味だ。

「以下は竹取物語からの出題です……かぐや姫が、求婚した石作皇子に結婚の条件として持参するよう要求したのは……」

「仏の恩石の鉢!」

 一瞬の間に答えたのは物語・伝承研究オタク歴史豚が入ったコアラだったが。

「仏の恩石の鉢ですが」

「なによぉ~」

 あっさりかわされた。

「バカ?二択って言ってたじゃん」

「ちゃんと問題を聞くべきだな」

 アルにも鷲豚パンダにも言われて、すっかりやさグレだした歴史豚コアラ

「皇子が、その後、姫のもとに届けた『仏の恩石の鉢』は、なんと偽物でした」

 落ち着いた中にも華やぎを隠せない、そんな声に聞きほれる一同だ。しかもその間は、レールは直進し車体も傾かず危険そうな突起物もなく、安心できたのだが。

「ではお答えください!」

 再び暑苦しい声に切り替わるや。

 レールは反転し、当然車体も上下逆転する!

「ぶほ」

 さらに急カーブでみるみる壁が前に迫る!

「きゃああああああ」

 そんな悲鳴を聞きながら。

「ふん、なによこの問題、オタクをバカにしてるの?」

 コアラはやさぐれたままで。

「ふぁ~あ」

 長いトンネルでパンダは飽きていた。

 なにしろ本家は走行距離1km時間は4分程度である。それに対しこちらははるかに長い。

 そんな前席と後席で二分割された微妙な雰囲気の中。

「石作皇子が届けた『仏の御石の鉢』は偽物だった!〇か×か!」

 いつの間にか広い空間に出ていたが、前方のレールは左右に分岐し、そのまま壁に入っていく。そして右のレールの先には「〇」の、左の先には「×」のパネルがあり、パネルは石壁に固定され、つまりはその先は見えない。そこに高速のまま突入する車体。

「原始的な問題ね~。これだと話、わかんなくても答えわかるし」

「え?アル、お前、頭いいな」

「ゲンジっちが頭使わなすぎなのよ」

「他の問題ならまだしも、これで異星人に負けてはいかんだろうな」

 その間も、車体は加速を続ける。

「じゃあ、この問題、ゲンジロウに任せるから」

「え~!?かぐや姫なんて子ども園で読み聞かせてもらった絵本くらいだよ~」

「さっきから幼児化が進んでるからちょうどいいでしょ?」

「幼児化かな?まあ、言いたいことはわかるが」

 さらに速度を増した車体は分岐点に猛接近する。レールを飛び出してもおかしくない速度だが、そこは重力制御のおかげなのだろう。その分、危機感も大きいのだが。

「で、でも、俺が間違えたら……」

 ためらうゲンジロウの危機感をあおるように、♪ジャカジャカジャカ……謎のBGMがなり始める。

「別に間違えてもいいわよ」

「え?」

「あんただって、さっきあたしを助けてくれたでしょ?」

「で、でも」

「んじゃ、任せたわよ」

 アルは額の目どころか、すべての目を閉じて前を向いた。自分は答えがわかってるくせに、なんで自分にまかせるんだろう?

 後ろの二豚がなにか言ってるが、ゲンジロウには聞こえなかった。目を閉じ、考えに集中する。

「答えは、〇だ!」

 自分の声が洞窟内に響きわたる。そして車体は〇のパネルに向かっていった。そして……衝突した。激しい衝撃が一同を襲い!

♪チャチャッチャ~チャチャチャチャッチャチャ!チャチャッチャ~チャチャチャチャッチャチャ!♪

…………。

「セカンドステージ突破!おめでとうございます!」


 悲鳴をあげ疲れたゲンジロウの肩を、アルがポンと叩いて。

「もう帰る~あ~ん……」

 泣き出したゲンジロウの髪を、今度はクシャクシャにするのだった。

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