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リアル惑星ダンジョン、原始惑星「地球」編、開始しました  作者: EDーADAM・e(エダマメ)
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その4 アルの冒険 前編

その4 アルの冒険 前編


「まったく、歴史豚レキシントン鷲豚ワシントンも御託が多くて面倒くさ」

 オタクの御託ほど興味のない人の関心を引かないものはないと辟易するゲンジロウだ。

「あんた、同じ原住民なんでしょ?随分違うじゃん」

「……中の人が問題だらけのコアラやパンダと一緒にしないでくれ」

 竹の祠……富士山をピラミッドとして祀る神殿らしい……から足早に離れたアルとゲンジロウだったのだが。

「まあ、いいんだけどね。変態でも偏屈でもあたしの役に立ってくれれば」

 実用主義プラグマティズムの権化みたいな異星人アルなのだ。

「なあ、おまえ、なんで、おまえの言うところの原始惑星なんかに来たんだ?」

 三つ目の、額の目が瞬きしている。意外な質問だったらしい。

「あたしは普通に惑星ダンジョンに来ただけよ。ただ、こんなのだとは思わなかったけど」

「こんなの?」

「そう、原始的なだけで設備もシナリオも全然整ってない、三流アトラクションね」

 侵略されたうえに勝手に改造され、さらには不満まで言われてしまった。短い付き合いながらアル自身が侵略したわけではないと理解はしたが。

「なに?怒ってるの?」

「普通は怒るだろ」

 自分は相手の立場を理解できるが、相手は自分の感情を理解する気がないらしい。

 ゲンジロウは思う。この娘との距離は、精神的には星よりも遠そうだ。つい竹林に遮られた富士山を見上げる。失われたアレの代わりに、霊峰を見てやさぐれた心を癒やす。それがいつの間にか身についたルーティンだった。

「あれ?」

 祠からは角度的に見えなかっただろう。見覚えのある物体が降下してくる。あの日、一度だけ見た景色だ。

「あら?母船じゃない?なにしに来たんだろ?」

 宙に宇浮かぶ球体を見てアルはそう言った。

「母船?」

 世に言う大型エイリアンクラフトなのだが、ゲンジロウではわからない。

「恒星間から大気圏まで幅広く活動できる、ワルダック製の宇宙船よ?」

 侵略前の現代で某国Cが世界中にばらまいた挙げ句、某国Aに撃墜されて話題になった偵察気球に似ていなくもないが大きさは桁違いだ。

「月が降りてくるみたいだな……」

 まあ、まだ明るいのだが、そんな大きさではある。もちろん現実にそんなことがあればロシュの限界とやらで大変ではすまない。天体同士が異常接近すれば互いの質量で崩壊する。

が、そういう知識のない二人だ。気になるとすればこんなもの。

「月ってなに?」

「ええっと、昔、この星にあった衛星だよ」

 ゲンジロウの返事に苦いものが交じる。昔は月を見ていた。月を見て、イヤなことを忘れようとしていた。そんな過去が遠い。

「昔?衛星って勝手になくなるもんじゃないでしょ」

 さすがにそれくらいの常識はある。こう見えても表向きは優等生なのだ。

「理屈は知らないけど、侵略されてから、見なくなったんだ」

「へー非科学的~さすが原始惑星ね」

 何度も言われたそのセリフが、しかし今は無性に気に触った。大事にしてたものを奪われた、その思いを直撃したのだ。

「今ソレ言う?絶対おまえら異星人インベーダーのせいだろ!?」

 アルとの間に、出会って以来何度めかの険悪な雰囲気が流れる。

「そんなにあたしがキライなら、ついてこなきゃいいでしょ」

「……まったくだ。なんで俺、おまえなんかと一緒なんだろ」

 改造後の強制である。現地徴用人にとって任務を断ることは死を意味する。その任務が富士山一帯の監視任務だったのだが。アトラクションとやらに入った今じゃ、監視の意味もない気がする。知人が愛玩動物の中の人になっていて、流されたというのはあったが。

「もう異星人インベーダーと一緒なんてまっぴらだ」

「こっちだっていちいち言いがかりつけられるのは迷惑よ」

「言いがかりだと!」

「自分のしたことじゃないことを、ねちねち言われるのは言いがかりよ!」

「おまえだって異星人だろうに!」

 異星人と書いてインベーダーと読むゲンジロウである。一方、多様な異星人を知るアルとは価値観が、というか互いの立場が違いすぎた。

「もういいわ!あんたなんか知らないから!」

「それはこっちのセリフだ!」

 とはいえ、つきるところ、感情論。子どものケンカである。それでゲンジロウは別れた。歴史豚レキシントン鷲豚ワシントンのことなど最初から眼中にない。祠とも富士山とも違う方に足を向けた。


 そしてアルは一人富士山に向かうことにした。星間連合の母船が降りる。しかも自分が攻略中のダンジョンに。何かが起きている。ようやくワクワクが再開した。させたとも言う。

「プレイヤーなら何が起きてるか確かめなきゃね」

 もともと一人で降りた惑星ダンジョンだ。今さら気にすることはない。だけどアルは振り向いた。もちろん、誰もいなかった。

「……ふん」

 

「ねえ、母船に信号送れる?……やっぱりダメか~最新型のくせに……」

 スキンが動作しなくなったことを確認しただけだった。アルは岩に隠れて母船から発進した小型艇の動きを注視する。

「なにしに来たんだか?シナリオ進行中に運営側がプレイヤーに姿を見せるなんて興ざめにも程があるわ」

 アルは、夢の国でその裏側の世知辛い現実を見せられた常連客みたいな感想を言う。

 どうやら開放前のアトラクションらしいのだが、それにしてもこの原始惑星には不明な点が多すぎる。

「中途半端なシナリオ展開に、スキンの動作不良、キャストの質も低いし、現地徴用にしても何も知らなすぎ……どうなってんのよ?」

 使う機会が少ないだけで、地頭は決して悪くない。そうでなければ表向きは優等生、その実体は隠れプレイヤー「惑星荒し」などと呼ばれはしない。

「絶対、なにかある。あたしが暴いてやるから」

 まあ、素直にシナリオを攻略してるプレイヤーが「惑星荒し」と呼ばれるはずもない。


 母船から発進した小型艇は五機に分かれ、富士山の各地に散った。その一つがこっちに向かうのに気づき、アルは岩の奥に体を潜ませた。

「降下する?……あ?」

 小型艇の降りる地点に向かって、アルは走り出した。幸い少し走れば竹林が身を隠してくれるだろう。

 そして……アルの向かう先に爆発が見えた。


「仕掛けるの、早いよ!」

「仕方ないでしょ、見つかっちゃったんだから」

「ドジ」

 二十歳前後の娘二人が言い争っている。片や金属製コンパウンドボウ、片や大型クロスボウだ。いや、よく見れば双方の矢の先には不似合いな弾頭がついている。

 ♪チャ~チャチャ~チャ~チャ~チャ~チャ~チャ~~、チャチャ~~チャ、チャチャチャチャ~チャ~♪

 どこからか、勇壮な音楽が流れてるのはご愛敬だ。

「ここで争うのはやめてくれ、お二人さん」

他にも同年代の男女がいる。こちらは普通に(?)携行式の無反動砲やら大型擲弾筒やら機関砲やらで武装している。その銃口は小型艇に向けられていた。そして、一人が唱えた。

「くらえ、ライデイン!」

 強烈な発光弾が、辺りを照らした。小型艇の降下も止まった。電子機器を狂わされたのだろう。

「見たか、異星人め!これが勇者の力だ!」

「いい歳して恥ずかしいヤツ」

「まったくだ。ライデイン?勇者?ハズか死ね」

「ハカセがつくった対異星人用ジャミングじゃない」

「う、うるさい!いいじゃないか!一度言ってみたかったんだよ!」

「気持ちはわかるけどね」

 揶揄していた者達も一瞬黙った。やっぱり同類だったらしく生暖かい空気が辺りを包む。

「……みんな、いい加減にして」

「手が止まってるよ」

 目つきの鋭い娘が滑車のついたコンパウンドボウを放つ。もともと強力な弓を現代の素材やら滑車やらで強化した物騒なものだが、娘の筋力が尋常ではないせいか、大きく曲がったフレームから、音速を超える勢いで矢が放たれた。鏃代わりの弾頭が着弾するや爆発し、その衝撃波が襲う。さしもの異星人兵器も大きく揺れた。

 一方、ゆんわりした娘が続いて大型クロスボウ……こちらも金属製でガス式の最新型……が矢を放つ。ほぼ同じ場所に着弾したせいか、特殊合金の装甲がめくれている。ただの炸薬ではなさそうだ。

「けっ!もとはと言えばおまえらが先走ったんじゃないか?だいたい火器が使えるのに、なんでまだそんな武器を使ってんだ?」

「男のくせに細かいわね」

「それはそれでジェンダーじゃない?」

 互いに言い返しながら、今度は銃撃を続ける一同だ。不統一な武器とその反対に訓練された動きがその正体を曖昧にしているが……。

「原住民ね……強化された武装型アーマードの集団……これもNPCかしら?」

 目視距離まで近づいたアルは、その三つ目で凝視する。

「実体剣よりはマシだけど、原始的な火器ね。なのに、星間連合の実用艇にダメージを与えてる……つまりは防御シールドが無効化されてる?」

 特殊合金もさることながら、電磁シールドがあるからこそ連合の乗り物は頑強だ。それは自分のスキンも同じ。

「まさか、この辺り一帯が?」

 不可能ではない。しかし、それは原住民には不可能なはず。

「でも……」

 アルの脳内では仮説が組み立てられていく。それなら降下して以来のスキンの不調も、目の前の戦闘も。

「だとすれば説明はつく。どっかのバカが原住民に技術を流した、または……盗まれた」

 困ったことになった。これがシナリオならともかく、どう考えても攻略とは無関係な流れだ。むしろ巻き込まれたくない。

 だが……事態は最悪だった。隠れた自分の方向に、原住民の流れロケット弾が飛んできたのだった。

「あ、これ、もう終わったかも」

 次の瞬間、その額の目がその光景を明瞭に捉えたことをアルは呪った。

小さな影が、信じられない動きで弾頭を切り落としたものの、その爆発に巻き込まれる光景を。


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