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リアル惑星ダンジョン、原始惑星「地球」編、開始しました  作者: EDーADAM・e(エダマメ)
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第2章 伝承編  その1 火山列島の秘密

第2章 伝承編  その1 火山列島の秘密


「カニだ」

「カニね」

「蟹。十脚目短尾下目に属する甲殻類の総称だね」

 ゲンジロウが胸にコアラを、背中にパンダを背負ったまま器用に竹藪に姿を隠す。

「カニって?スキンが停止しちゃったからどんなモンスターかわかんないよ」

 さらにその背後にアルがいる。指さすのは、ワシャワシャと横歩きするカニの群れだ。

鷲豚ワシントン、カニって陸にいるんだっけ?」

 背負ったパンダの脳には、昔なじみの動物系知識オタクの意識だか記憶だかが転写されている。こういう時には頼りにならなくもない。まあ、中身は変人で偏屈な老人だが。

「サルカニ合戦にも出てるくらいだから、いるんじゃない?」

 こっちはコアラに転写された歴史・伝承系オタクだ。変態だが。

「あのモデルはアカデガニだね。うむ、見えなくもない」

「そのアカデガニってあれくらい大きいのか?」

「いいや。せいぜい5センチくらいだね」

 聞いてあらためて凝視する。2m近い。

「強化在来獣にしても強化が過ぎる……」

 ゲンジロウは、遺伝子改造された地球生物には、どうしても敵意をもちにくい。これが外来獣なら別なのだが。

「ジャマだからやっちゃおうよ」

 その辺り、未だアルとは共感できない。

「ジャマって言っても、別にアイツらを倒す理由はないし」

 降りかかる火の粉でもなければ、スルーしたい。

「なに言ってるのよ!ここを通んなきゃ、ブリリアントバンブープリンセスの祠に行けないんでしょ!」

 ・

 ・

 ・

 話は少し戻る。竹藪の間を縫うような狭い道を歩き続ける一行。

「なあ、鷲豚ワシントン、なんで俺たちを襲ったんだ?しかもなんでこんなナリになってるんだ?」

 古風な赤の鎧を着たゲンジロウは、背負ったパンダに話しかける。

「はて?そう言えば、なんでじゃろう?ああ、ちっとも思い出せない」

 棒読みのパンダ。どうやらコアラ同様、知性化したあげく原住民の人格や記憶を転写したらしいのだが。コアラを抱いたままのアルは期待しないで見ていた。

「肝心なトコは知らないって言い張るんだ。あんたと同じね」

「いやねえ、アルっち。お姉さんとあんな年寄りを一緒にしないで~」

 甘えるようにアルにスリスリするコアラだが、そろそろアルも気づき始めた。

「あ、そっか、中身は変態っていってたっけ?」

 異星人ながら一応は少女の身である。セクハラ行為と気づくや悲鳴を無視して無慈悲に放り出した。

「なんか、わかんなくていらつくなあ」

 変態の歴史豚レキシントンと老獪な鷲豚ワシントン相手に、ゲンジロウではいろいろかなわないのだ。といって、むやみに暴力をふるえる性分でもない。

「人がいい原始人ね。やっぱりNPCなのかな」

 アルはそうつぶやくや、自分にすり寄るコアラを押しつけることにした。


更に進むこと数分。

竹林の合間を縫うような狭い路地を抜けると、そこは「竹鋸の里」だった。

「……こんな所までノコノコやってくるとは、困ったお客さんたちだ」

 そんなセリフをかましてくれたのは、額に小ずるい老人のお面をつけた男だった。アルはネームプレートの星間共通語を読み、首をかしげた。

「欲張り爺さん?」

「そう書いてるのか?」

 ゲンジロウに背負われたパンダがつぶやく。

「そういう設定なのね?やっとアトラクションっぽくなってきたわぁ~」

 ゲンジロウにしがみついたコアラがうなづく。アルとしては、パンダは重いがコアラくらいなら自分が抱いたままでいたかった。しかし、コアラの中の女が徐々にセクハラめいて危険を感じ、結局ゲンジロウに押しつけたのだ。まあ、スキンが機能しない自分と比べ、ゲンジロウは鎧を来たままだから、悪さもろくにできないだろう。

「ああ、サルの子、コアラの子、パンダの子を従えているね。あんたはピーチ姫ってわけか」

 器用に自分を指さすコアラとパンダだが、アルとゲンジロウはおそろいで首をかしげる。

「サルって……俺じゃないよな?」

「ピーチ姫ってなに?」

 コアラが器用に手を打った。

「これは、日本の伝承を基につくったアトラクションね」

「ピーチ姫がか?」

 バトル系専門ゲーマーだったゲンジロウでも、キノコ王国のお姫様くらいは知っている。「竹鋸の里」にいたら問題しかないだろう。ちなみにゲンジロウは竹のこ派だった。

「ジャイアントパンダの原産国は中国だというくらい、キミでも知ってるだろう?」

 加えてパンダがわかりきったことを確認する。中の人が動物系オタクなのだ。

「そういう細かい設定は外せないけど、今はいいことにする。伝承の根幹さえ残っていれば、それは機能として使えるわ」

「機能ってなんだ?」

「ネズミーランドのシンデレラ城みたいによ」

 誰もが知ってる、しかしわかりにくいたとえに、頭を使わないゲンジロウは理解に苦しむし、アルにはそもそもわからないたとえだ。理解したのはパンダの中の人だけだ。

「なるほど。つまり厳密に物語を再現するのではなく、そのキャラクター性を軸に据えた客寄せパンダにすることで。アトラクションに統一感をもたせ観客が感情移入しやすくする道具として活用する、と」

「そうそう。それで言えば、桃太郎は西遊記をモデルに書き換えられたみたいなものね」

「それはあくまでキミの個人的見解だね。共通するのは主に従う3人の従者。従者のひとりがサルくらいだが」

「石から生まれた猿が聖なる桃を食べつくして不死身になった。まあ、古代中国では桃は生命力、陽の気に満ちた果実だし、桃と言ったら桃尻よね~」

「息を吐くようにセクハラするな!」

 いつの間にか体勢を移し片手でゲンジロウのお尻に手をやるコアラに、アルは「鎧の上から触るなんて、地球人って筋金入りの変態ね」とつくづく思った。

「確かに異種から生まれた子どもが長じて英雄になるというのは、東西を問わず多いらしいね。もっともだいたい不幸な生まれだが」

「そうよ。安倍清明は狐だし、あと、西遊記の三蔵ちゃんは赤ん坊の頃川に流されて拾われてる。まあ、モーゼとは違う理由だけど」

「モーゼって?」

 この質問を発するのが異星人のアルなら当然なのだが。

「ゲンジっち……もう少し勉強しなよ」

「モーゼか。あの頃のチャールトン・ヘストンはよかったな」

 レキシントンには物知らずと言われワシントンにはよくわからない述懐をされる。もちろんアルにはまったくわからない。

「それよりねえ、つまり、ここってどういうアトラクションで、どうしたらクリアできるの?」

 興味もない。アルにとって大事なことはこの原始惑星アトラクションを一刻も早くクリアすることだけだ。そこにつきる。

「短気なお客さんじゃのう」

 欲張り爺さんはお面の白くなったあごひげあたりをかいている。困ってるらしいが、アルは気にせず続ける。

「さっさと次のステージに案内するなり、攻略条件を言うなりしないと暴れるわよ……ゲンジロウが」

「俺がか?」

「そうよ、よくわかんないけど、あんたたちがあたしの従属ユニットで、ゲンジロウが一番役に立ちそうだから仕方ないでしょ」

 ない胸をはる異星人少女を、残念そうに見つめるコアラとパンダ。

「この子も脳筋ゲーマーね……かわいい子って宇宙共通でみんなそうなのかしら?」

「とはいえ、直感で最短距離がわかるらしい。おそるべきゲーマー脳かもしれん」

「俺は違うけど」

ゲンジロウにまでなんとなく同類を見る目を向けられる。

「……みなさん、苦労しとるようじゃのう。どうじゃ、そこらで一休みしませんか?」

 そこに登場した「親切爺さん」。いや、ネームプレートとお面を変えただけのさっきの人だ。現地徴用のキャストは基本的に人手不足らしい。

「だけど隠れてやってほしいわね」

せめて目の前でつけかえるのはやめてほしかった、と思いながらも、素直にお茶屋に案内される。もちろん、竹を結わえて組み立てた、竹小屋だ。椅子も卓も全部竹。

「は~い、お客さん。お団子セット4つ、お待ち~」

空いた店内に入り、腰掛けると同時に茶屋娘がやってきた。さすがにさっきのキャストではなかった。

「さて……いい加減、じっくりと事情を話してもらおうか」

青竹を短く切った竹筒からお茶の湯気があがる。その向こうでゲンジロウはけっこうマジに怒ってた。今まで怒りをため込んでいたらしい。

「そんなことより、ここのクリア条件!イベントかなんかないの?」

 こっちは竹串にささったお団子をわざわざ外して手で食べてる。


 コアラとパンダはしばらくの間、互いに譲り合い、結局分担することにしたらしい。

「まずはねえ、あたしたちのことは追究してもムダよ。だけど、この施設のことは少しお話ししてあげる。それでいいかしら?」

 コアラのくせに器用に串団子を食べてみせる。中の人はショタでロリでもいけるという変態女だが。

「よくはないが、仕方ない。アルもそれでいいか?」

「あたしは先に進める話にしか興味ないけど?」

「アルってそういうヤツなんだよな」

 ため息をもらしそうなゲンジロウをアルは無視することにした。

「ねえねえ、早く教えてよ。この火山列島シナリオってどうなってんのよ」

 串から外した団子を両手で抱え、コアラに迫る異星人だ。三つ目が怖い。

「……そうね。まずはどこから話そうかな」

 コアラが短い手を組み大きな顔を乗せる。地球人ならシュール、と思うかもしれない。

「もったいぶらず、話すべきだ。異星のお嬢さん。あなたはなぜこの火山列島に降下したのだね?」

 この星最大の大陸を背負うように弧を描く火山列島は、そこまで目につくほどの大きさではない。

「え?別に?たまたま?」

 この星の衛星軌道上に私用船プライベートシップが入った時、目についただけだった。「ダイブするにはちょうどいい位置だったし、ウェブに情報あがってないアトラクション惑星だからどこから始めてもいいかなって」

 何も考えてないだけですと捉えられかねないことを平然と口にするアルである。

「……瞠目すべき本能だな」

 にも関わらず、パンダは驚愕しているらしい。もともとパンダという動物はくるぶちで目を覆っているが実は目つきは悪い。少々、剣呑である。

「どういうことだよ、鷲豚?」

「驚嘆すべき狩猟本能だよ。この子の種族に共通なのか、この子だけが特異なのかはわからないが、獲物とすべきターゲットを一瞬で見抜く力、それが抜きん出ている……ふふふふふ」

「おい、なんか解剖しそうな目つきになってるぞ?」

「パンダの皮をかぶった年寄りよ。所詮はオトコなのね」

「よくわかんないから、話、進めて」

 別な意味でのターゲットになりそうな本人だが、狩られる本能は鈍いらしい。

「……見たまえ、これがこの星の地図だ」

 パンダはどこに隠していたのか。古い巻物を広げだした。

「わ~古文書?平面をクルクルって巻いてる~原始的~」

 広げた巻物は、戦国後期の世界図屏風に似ている。つまり南蛮風である。ついでにメルカトル図法だった。

「ピリ・レイスの古地図っぽくもあるわね」

「南極大陸は描かれていないがね」

 ナゾのオーパーツ地図をぶっ込んできた伝承系オタクの声を一蹴する。

「むしろ火山列島の描き方に注目すべきだ」

 言われるがままに凝視するゲンジロウとアル。基本的に素直なのである。

「あ~……そっか。神州雛形説なんだ」

 しかし気づいたのはやはり伝承系オタクのコアラだった。一方わからない二人は「なにそれ」と声をそろえることになる。乙女要素がほぼほぼないゲンジロウだから「ハッピーアイスクリーム」とは言わない。無知な二人に、オタクの血が騒ぐコアラだった。解説衝動に耐性がない。

「火山列島の形と他の五大陸と見比べてみなさい。なにか気づかないかしら?」

 勘がいいはずのゲンジロウだが、先入観がジャマしてなにそれな指示だった。むしろ異星人のアルが先に気づいた。

「……似てるね。こことここ、こことここ……」

 アフリカ大陸と九州、オーストラリア大陸と四国。

「大きさは全然違うし、完全にそっくりとは言わないけど、でも大陸の形と」

ユーフラテス大陸と本州こそ多少の無理はあるが、まあまあ相似形と言えなくもない。

「つまり、この火山列島はこの惑星の縮図。ですから、この火山列島ダンジョンをクリアすれば、この惑星アトラクションを裏ルートで最短クリアできる、そういう設定になっているのだ」 

江戸時代末期から明治にかけて流行した思想だが、実は致命的な問題がある。

「でも、この大陸がないけど」

「あ、そっか。アメリカ……」

 南極大陸役がないのはまだしも、南北アメリカ大陸に相当する地がないのだ。北海道を見立てるものは多いが、それでも南北の一方が欠ける。本州から東北地方を切り離してそれに見立てるという声もないではないが。

「だから、この火山列島ダンジョンのクリアは、失われた大陸を蘇らせることなのだよ」

「あ~!?ミヨイね!東日流外三群史の!」

「……さっきから、少しは発言を遠慮したまえ。キミはこちら側だろう?」

「……だって解説しないといけないし」

 今では偽書とされているが、その怪文書には、数万年前に太平洋に沈んだ超古代文明があったとされている。火山列島はその名残という説もある。

「つまり、このシナリオを進めていけば、ナゾの大陸が戻ってきて、地球ダンジョンを全クリしたのと同じってわけか?」

 なにをどう突っ込めばいいのかわからないゲンジロウだったが。

「へ~惑星改造技術でそんなアトラクションまで応用しちゃうんだ」

 異星人の技術を持ってすれば、やらかしかねない不安がある。

異星人おまえらさあ、科学のムダ遣いが過ぎるんじゃないか?鷲豚も、それでいいのかよ?絶対、在来生物にってか、環境激変するぜ?」

 中身は動物系知識オタクのパンダは答えなかった。

「まあまあ、それでこの富士樹海パークなんだけどね」

 割って入るようにコアラが引き継ぐ。

「ここまでがパーティづくりで、ここからが本格的にシナリオが進行するの」

「え?おまえたち、まさかパーティメンバーだったの?」

 ゲンジロウのつっこみをスルーしてコアラが続ける。

「まずは、ピーチ姫ルートに乗ったから、そのまま進むのよ」

「それ、どういうルート選択……」

「どっちに進めばいいの?」

 食い気味のアルにゲンジロウの声はかき消される。

「まずは、この里の敵を退治すればいいの……たぶん」

「たぶん?」

「わかった。聞いてくる!」

 アルが茶屋と飛び出し、親切ばあさんAと欲張りばあさんBと意地悪な継母Cを兼ね役してる女性からいろいろ聞き出し、ゲンジロウを引っ張り出すまで数分だった。


 こうして、竹鋸の里で暴れるカニ退治が始まった。

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