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大正乙女ノスタルヂイ~嗚呼、お嬢様がたはかく語れり~  作者: 高井うしお
一章 琴子

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第13話

 翌日、登校した琴子は教室のドアを開けるなり、万喜に抱きしめられた。


「むぐっ……」


「良かった! 今日はお休みだとばかり……」


「ほら、万喜は心配のしすぎだよ」


「そうかしら……」


 万喜に抱き潰されそうな琴子が目を白黒させていると、美鶴はそう笑いながら万喜を琴子から引きはがす。そんな美鶴に万喜は不服げに口を尖らした。


「だって縁談が潰れたら誰だって……」


「まだ潰れたわけじゃないだろ」


「でも……」


「それなんですけど」


 ようやっと万喜の腕の中から解放された琴子は一つ咳払いをして二人を見た。


「私、放課後に彼に会ってこようかと思います」


「あら……」


「そうか」


「あの……昨日考えたの。私、随分と自分勝手だったなって。だってあちらも学生さんよ。いきなり縁談と言われたのはあっちだって一緒なのに、向こうが何を考えているのかひとつも知らないのに」


 それが昨日、琴子が出した結論だった。一度話してみて、銀座でのあの騒ぎで雄一が琴子に悪印象を持っていて縁談を無しにしたいと思うか直接聞いてみようと思ったのだ。


「それで、向こうの気持ちを聞いたら琴子さんはどうするつもり?」


「それなんですよね……私も、ちらっと会っただけだもの。でも……なにもかもお父上の言う通りにするのは癪だし」


「なるほど、琴子嬢は自由恋愛をお望みか」


「じ……自由恋愛……!?」


 美鶴の言葉に、琴子はのけ反った。その様子に万喜はくすりと笑った。


「あら、素敵」


「自由恋愛というのとは……ちょっと違うんじゃないかしら……」


「あらでも、その雄一さんとは家の都合でないお付き合いをお望みなのでしょう?」


「いや、でも……そのお相手を連れてくるのはお父上であって……それに、それに!」


「ん?」


 琴子は魚のように口をぱくぱくとさせながら、万喜の言葉を否定した。そして顔を真っ赤にさせながら声を絞り出し、言葉を続けた。


「恋愛……とか、そういうのはまだ……私にはわかりません……」


「あらあら……」


「そんなんで雄一氏と一対一でお話できるかね」


 万喜は呆れて開いた口元を抑え、美鶴はどこか心配そうに言った。


「な、なんとかなります。きっと」


 琴子がそう答えた時だった。万喜がすっくと立ち上がった。


「そうだわ! 練習すればいいのよ!」


「……練習?」


「ええ。そこにちょうどいいのがいるじゃない」


 ちょうどいいの、と指を指されたのは美鶴であった。


「……私かい?」


「そう。美鶴とデートして殿方とのおしゃべりの練習をしておいたら」


「ふうん。いいけど。じゃあ万喜はどうするつもりだい」


「……ちょっと離れて見てるわ」


「それで練習になるかねぇ」


 美鶴は万喜に呆れているが、琴子はそんな美鶴のブラウスの袖をちょいとひっぱった。


「……琴子?」


「あの、お願いします……やっぱりいきなりは怖くなってきたわ……」


 そんな訳で、放課後にいつもの「三つ葉」に琴子と美鶴は連れだって向かった。……遠くに万喜の気配を感じながら。


「琴子はなににするのかい?」


「アイスクーム……」


「はいよ」


 美鶴が注文してしばらくして美鶴にはあん餅、琴子にはアイスクームが運ばれて来た。


「なあに、どうしたの。二人ともしかめっ面で。マキちゃんは一人離れて座ってるし、喧嘩?」


 不審な動きの三人に、ハーさんは不思議そうな顔をしている。


「違うのよ、喧嘩じゃないの。これはデートなのです」


 なぜか自慢げに言う琴子に美鶴は苦笑した。そして本題の北原雄一との邂逅への練習に取りかかることにした。


「では、『僕は雄一。なんでも聞いてくれたまえ』」


「う……。えーとその、先日は申し訳ございませんでした」


「ああ」


「縁談の話があったかと思うのですが……ですが……ぷっ、駄目だわ。笑っちゃう」


「やっぱ駄目か」


 琴子が吹き出しそうになると美鶴は首をすくめた。


「ええ、美鶴さんは美鶴さんですもの。やっぱり私が頑張んなきゃ」


「そうか、応援してるよ」


 その時だった。隣の席とのついたてががたりと動いて万喜が顔を出した。


「ちょっと! 寂しいんですけど!?」


「ははは、万喜もこっちにおいで」


 そんな訳で結局、この日はいつものようにお茶をして帰ることになったのである。

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