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間章  『戴冠式』

「お似合いだな」

「何の皮肉です・・・私はこんなの欲しいなんて一度も思ったことなんてないですよ」

 かつてのヘンリー王子の頭には立派な王冠が輝いている。

 先王が崩御して、その地位を世襲したわけだが、ヘンリー自身自分の父親の死に目にはあってはいない。

 保身に走る貴族の一団によって、その首はもうゴーワール教国に運ばれただとか、実は生きていて王自身が命の危険を感じて隠遁しているとか、様々なうわさが飛び交う中での王位継承だった。

 もちろんヘンリー自身にも妙なうわさはあり、戴冠式の間に今まで仲の良かった間柄の者にさえも白い目で見られた。

「それでも王は王。王でなければできないこと。王であるならばしなくてはいけないこと。やることは山積みだろ?」

「うっ・・・それは、そうだが・・・」

「当面の問題としてゴーワール教国の侵攻をどうするかってことだな。とりあえず近隣諸国と手を組んで四正面作戦といったところだろうか?」

「それについてはもう動いてある」

「ほう」

 意外と手を打つのが早いと感心するルウに、ヘンリーは書状の束を自慢そうに見せた。

「これは何だ・・・ゴーワール教国との停戦の密状?」

「そう。これが一番の平和への近道だと思ってね」

 ルウは怪訝そうな視線をヘンリーに浴びせ、ハーネットを見た。

「どう思う?」

「陛下の策です。臣下がどうこう言うことではないでしょう」

「諫言するのも、臣下の務めというべきであろう」

 ルウの言葉に不安そうなヘンリー。

「何か問題でもあるのか?」

「ハーネット。答えてやれ」

 ハーネットは眉を少し上げ、私がとルウに聞き返した。

「他に誰がいる。このままでは後に引けなくなるぞ。機を読み、判断するのは王たるものの判断だが、それを補佐するは臣下の務めだろう。そんな職務怠慢は平時にしてもらおう」

 ため息一つ。

 ハーネットはヘンリーに意見する。

「一つはこの密約が守られる保証がないこと。もう一つはもしこの密約が実現したとき。相手の真意は何かということ」

「密状を持ってきたのは、それなりに親交のある信用できる人物だし、この戦争を一刻も終わらせたいと思う人物がゴーワール教国にもいるということだと、私は思っているけれど」

 ハーネットは表情一つ変えず、ルウは呆れ気味である。

「相手の作戦は時間稼ぎ。今なら周辺諸国と組めばそこそこの戦力にはなるだろう。しかし、各個撃破されてしまえば、そこでおしまいだ。相手にはフェリテリテがいるといえども体を引き裂いて同時に戦争することなどできないからな」

「ならばまだ戦争をしなくてはならないと」

「決めるのはお前だ。お前は王なのだ。屍の上の一時の平和か?それとも先の見えぬ血の道を行くか?」

 苦悶の表情を浮かべるヘンリーを見つめる二人。

 二人にとってヘンリーの決断はどちらでもよかった。

 ただそこにヘンリーの覚悟さえあれば、二人はつき従うつもりでいた。

「今はこの停戦をのもう」

 王の決断は下された。

「ゴーワール教国の増長は免れないぞ」

「わかっている。それでも私は一時でもいい。平和が欲しい。この国は疲弊している。私は生れてから平和だった時などこの国にはない。いつ戦争になるんだろうと怯えながら暮らすことが本当に幸せといえるだろうか?そんな心配は上の者だけがしていればいい。我々は皆が平和を享受している間に、いつ戦争になってもいいように策を走らせる。それでいいではないか。それにこちらには三賢者が一人ルウ・エリアルがいるから、心配は半減するだろうがな」

「王になって、性格悪くなったんじゃないか?悪そうな顔をする。・・・望みとあらば、ご期待に沿えるよう努力しよう」

 苦笑するルウ・エリアル。

「では早速小細工の用意でもしてこようか」

 踵を返して去るルウに頼もしさを感じるヘンリーであった。

「しかし・・・しかし、本当にこの決断でよかったのだろうか?」

 王たるものこうであらねばと思うようにふるまうのだが、ヘンリーには思うようにいかない歯がゆさを感じていた。

 自由奔放なルウであれば、もっと常識の囚われずに良くふるまえるんじゃないか?

 才気あふれるハーネットであれば、もっと良い采配ができるのではないか?

 そんな風に思えるのだ。

「これは王の決断です。正しくとも、正しくなくとも、我らは従います。それが王たる力。王の特権なのです」

「ハーネット・・・」

 勇気付けるハーネットの心使いに感謝した。

 ああ、これが王たるものの覚悟か、自分についてきてくれる者の心を私が背負っているのだ。

「そうだな。ありがとう」

 ヘンリー王が即位し、しばらく後三賢者ルウ・エリアルはその姿を消す。

 再度現れるのは、ゴーワール教国がクレミア国に再侵攻したバルトゥーリアの森でのことだった。


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