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間章  『三賢者』

「気に入らない」

「何がだ?」

「あの女です。なぜこの討伐にあんな女が必要なのです。あんな女いなくても師匠と僕だけで・・・」

「私はお前を弟子にした覚えなど一切ないぞ。トービス・アローグ」

「そんなぁ」

 情けない声を出すトービスに対して、容赦なくルウ・エリアルは蹴りをくれてやる。

「仲の良いことだ」

 鼻で笑いながら、フェリテリテは見下す。

 ルウ・エリアル。

 銀髪の髪に、人形のような整った顔。

 真っ白な手袋からは潔癖なその性質の一端が垣間見える。

 トービス・アローグ。

 銀縁の単眼鏡。

 ルウ・エリアルの服装をそのまま真似ているようだが、二人が並ぶと少しの傷、少しの汚れが目立ち、そのずぼらな性質の一端が垣間見える。

 フェリテリテ。

 金髪の髪は長く美しい。

 その眼光は鋭く、非常に威圧的である。

「もうじきあれが見えるはずだ。おふざけもいいが、足を引っ張るのだけは勘弁してくれよ」

 フェリテリテのあからさまな皮肉に、顔をしかめるトービス。

 一方のルウはというと、涼しい顔で眼前のものを見つめていた。

「思ったよりも大きいな」

「怖気づいたか?」

「まさか、師匠があんなのに怖気づくわけないだろ」

「そうだろうな。お前と違ってあれを目の前にしても冷静だ」

 フェリテリテは暗に震えるトービスを揶揄する。

 三人の目の前には闇夜でもわかるほどの黒い大きな物体がある。

 よく見るとそれが人の形をしていることがわかる。

 それは一定のスピードを持って進んでいる。

 町を木々をなぎ倒し、そしてそのあとには草木一本も生えない不毛の土地が広がっているのである。

「必ずあいつを仕留めなきゃいけない。失敗はできないんだ。あいつのせいで死んでいった者たちのためにも」

 フェリテリテは拳を握り、その黒い物体、伝説の魔女『ディアヌス・ブレーン』を睨みつける。

「感情的になるな。判断を誤るぞ」

「そうだ。そうやって犬死していくんだよ。バカな奴はな」

「フン。震えて怯えてるやつはわめくのがお好きのようだ。その口二度開けないようにしてやろうか?」

「これは武者震いっていうんだよ。そんなことも知らないのか?バカはこれだから」

  一触即発の二人を放って、ルウは地面に地図を広げる。

「これはこのあたりの地図だ」

 地図には大きく赤い墨でバツ印が描かれている。

「ここで奴を叩く。正面に私。左翼、右翼にフェリテリテのドラゴン部隊。後方にトービス」

「待て。正面からあれとやりあうつもりなのか?」

「そのつもりだが、何か問題でもあるのか?」

「大ありだ」

「いくら師匠でも無謀ってものですよ」

 ルウはゆっくりとディアヌス・ブレーンを指差す。

「二人に問う。あれは生き物か?」

「違う。あれは生き物なんて生易しいもんじゃない。刃は通らず、炎は焼いたところからまた生えてくる。あれはまさに・・・」

「不死者!」

「その通りだ」

 フェリテリテはルウのもったいぶった話しぶりに多少苛立ちを覚えながらも、腰を据えて話すことにした。

「それで、ルウはあれだけの不浄を清める術を持っているのだな?」

 頭を振るルウ。

「それではどうするつもりだ」

「ちゃんと話は最後まで聞け。短気は損気。戦場で早死にするぞ」

 フェリテリテはたしなめるトービスを軽く無視して、ルウに話を催促する。

「私ができるのは動きを止めることだけだ」

「それじゃ何にもならないじゃないか!」

 ついに、フェリテリテの切れやすい堪忍袋の緒が切れた。

 そんなことはお構いなしにルウは話を続ける。

「私が動きを止めている間に、ディアヌス・ブレーンを焼き尽くす。一片の肉も残らぬほどに徹底的に。そして、朽ち果てたその体の時を止め、封印する。作戦は以上だ」

「待て、あの山のような巨体を一片の肉も残さず焼き尽くすだって。いったい何日かかると思っているんだ?」

「三日あれば充分だろ」

 事もなげに言うルウに対してフェリテリテは呆れていた。

 一方トービスはさらに畏敬の念を増していたようだった。

「私がディアヌス・ブレーンを止め切れなければ失敗。止めている間にフェリテリテが焼き切れなければ失敗。トービスが最後の封印の呪術を間違えれば失敗。三者がかみ合って初めてこの作戦は成功する。これはこういう作戦だ。決行は明日の日の出でいいな」

「最後の最後で失敗しそうだね」

「何!?」

 軽口をたたくフェリテリテにトービスは簡単に乗せられ、激昂していた。

 ルウはそんな二人を無視して寝袋の用意をしていた。

 伝説に語り継がれるその日は、ゆっくりとこようとしていた。


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