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間章  『砂上の塔』

 天地が逆転したような感覚に落ちてしまう。

 風に巻き上げられた砂は、空を覆い。

 地平線まで続く砂丘は、まるで雲海のように波打っている。

 塔の中心部から見る風景はそんな風で、現実離れしていた。

「三度目ですね」

「ああ、今度こそ会えるといいな」

 クレミア国王子ヘンリーは従者のハーネットに話しかけながら、その塔の階段を一歩ずつ進んだ。

 二人が永遠に続くような階段を登るのは三度目だった。

 そして、登った先には一つの扉がある。

 その扉をくぐるのも三度目だった。

「私はクレミア国王子、ヘンリー十三世。三賢者ルウ・エリアル殿にお目通り願いたい」

「少々お待ち下さい」

 深々と頭を下げたルウ・エリアルの従者の魔導人形のエルザ。

 ヘンリーは彼女を目で追いながら、今日こそは会っていただかなくては、そう思うのだった。

「現れるのでしょうか?」

「信じるしかあるまい」

「しかし、こう悠長にしていられるほど国には、余裕はありませんよ」

「分かっている。だからこそ、こうして助力を乞いにこのようなところまで来ているのだろ」

「そうではありますが・・・」

 エルザが消えたその奥から、人影が見え、二人は息をのんだ。

「一国の王子とは、よほど暇のようだな。このようなところまで、クックックックッ。酔狂なものだ」

 肩ほどまでの銀髪。

 その若々しすぎる容姿に、二人は目を疑った。

(これが伝説までに歌われた三賢者。ルウ・エリアル?)

 ルウは二人の目の前にどっかりと腰をすえ、二人を見上げた。

「では、用件を聞こう。貴公らの話、聞くだけ聞いてやろう」

 二人は顔を見合せ、おずおずとルウに習うようにその場に座り込んだ。

「私はクレミア国王子ヘンリー十三世。このたび貴殿をうかがったのは我が国に助力を乞うためです。ご存知かもしれませんが、最近新興国のゴーワール教国が台頭してきて、我が国もその脅威にさらされています。その脅威に立ち向かうべく貴殿の力をお借りしたいのです」

 ルウはエルザに注がせたお茶の香りを楽しみながら、目を細めてヘンリーの様子をうかがっていた。

「お願い致します。どうか我が国を貴殿のお力で救ってください」

 二人はともに深々と頭を下げた。

 ルウはその様子を見つめながら、ゆっくりとカップの中のお茶を飲み干す。

 ヘンリーは沈黙の中、祈った。

「・・・断る」

 やはりだめだったかと、ヘンリーは苦々しい思いでルウを見つめる。

「人の世には関わるつもりはない。ろくなことがないからな。三賢者のような力あるのもが軽々と世に干渉しては、世はさらに混乱を極め、取り返しがつかんだろう。貴公の国、運が悪かったと思うて滅んでもらうよりほかなかろう。ほとぼりが冷めるまでここいるもよし、誇りのために死するもよし。貴公の自由にするがよい」

「しかし・・・」

 ヘンリーの従者、ハーネットが口を開く。

「しかしですね。ゴーワール教国にはルウ・エリアル様と同じ三賢者のフェリテリテ様がいらっしゃいます」

「フェリテリテが?」

「はい。貴殿の危惧するように、三賢者のその力は強大で我々の及ぶところではありません」

「・・・フェリテリテがねぇ・・・」

 ルウはあごのラインを中指でなぞりながら、値踏みするようにヘンリーを眺める。

「世の行く末を慮る心優しき賢者様よ。どうか我々にお力をお貸しください」

「人外の力を使うものは畏怖と共に非難にさらされるだろう。この力を従えるほどの覚悟、その業を背負う覚悟。貴公にはあるのか?」

「覚悟はあります。この身がどのような辛苦に襲われようとも、民のためならば耐えれましょう」

(まっすぐな目をする。心根も同じように穢れない。しかし、まっすぐな木ほど折れやすい。どうしたものか?)

 ルウはもう少しヘンリーを試してみることにした。

「くだらないな。国のためにさらに血を流させるといううのか?お前のためだと言って、さらに民を苦しめようというのだな」

「いえ!!決してそのようなことは!」

 ヘンリーは明らかに動揺したように訴える。

 ルウはヘンリーの反応を見ながら、ハーネットの様子も覗き見ていた。

 従者としては主の願いをかなえるため奔走するようなものではあるが、ハーネットはフェリテリテの名を出してから口を開かずじっとしている。

 ハーネットもルウと同じようにヘンリーの王としての資質を見定めているかのように。

「貴公はどう思う?王子と同じように民のため私に血を流させろと言うのかな?」

「いえ!私は・・・」

「そうですね・・・」

 ルウは目を細め、ハーネットを見つめた。

「私は王子のためならば、どれだけ多くの血が流れようと知ったことではありません。このままでは王子の命は確実にないでしょう。降伏した国の王族がすべて死罪になっているように、同じ運命となる。しかし、そんなことは私がさせません。王子が流す血は私が流しましょう、王子が被る汚名は私がかぶりましょう。できる手はすべて尽くします。三賢者である貴殿も私には王子の運命を変えるための歯車にすぎません」

「ハーネット!!」

 それほど広くない部屋にヘンリーの絶叫が響く。

「申し訳ありません。ルウ・エリアル殿。家臣の失言、どうぞご容赦を。私は王としては向いてないのかもしれません。こんな私が厚かましく国の行く末を案ずるなど、過ぎたことだったのでしょう。申し訳ございません。これにて・・・失礼」

 今にも泣き出しそうなヘンリーを見つめながら、ハーネットとルウは視線を交わした。

 なぜこの王子に国の未来を賭けようとしているのか分かってくれただろうか、という風にハーネットはほくそ笑む。

 過剰な芝居だとたしなめるように、ルウは微笑み返す。

「では、行こうか。クレミアはここから遠いのか?」

「いえ、三日あれば十分でしょう」

 二人のやり取りにヘンリーは訳が分からず目を擦りながらおたおたしていた。


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