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エピローグ  『剣の先』

 血塗られた切っ先を見て、斬られたものよりも斬りつけた本人の方が驚いていたのかもしれない。

 こんなにうまくいくとは思ってもいなかった。

 腕の一本や二本は覚悟していた。

 殺しても死なないような相手なのにと、殺しておいてそんなことを思っていた。

 それだけ自分のことに気を許していたということなのだろうか。

 ハーネットはルウ・エリアルの死体を見て思う。

(民の、兵の忠心はヘンリー王にあらず、ルウ・エリアルの名の下に集まっていた。それではいけないと思いことを起こした。この機しかない。間違ってなどいない。後はゴーワール教国を平らげるだけ、容易いことだ)

 ハーネットはかつての友人の遺体を一瞥し、そこから立ち去った。


 何かに酔ったようにふらふらとハーネットは陣へと戻っていた。

 そして出迎えたのは、焔の赤と喧噪だった。

 ハーネットは逃げ回る兵の一人を捕まえ、問いかける。

「何があった?」

「うるさい!離せ!お前も死にたいのか?」

「私はクレミア国宰相ハーネットだ。落ち着け。何があった」

「!?・・・し、失礼しました。きき、奇襲です。ゴーワール教国、王自ら夜陰にまぎれてこの本陣に奇襲です」

(よりにもよってこんな時に。くそ。しかし、こんなところでつまづくわけにはいかない。もう未来のための手は打ったのだから)

「そうか。では、軍を一時引く、貴公は皆を連れて山向こうまで逃げ、態勢を整えよ」

「はっ・・・失礼ですが、ルウ・エリアル様は?」

「すぐに来る。貴公は己の任を全うせよ」

「はっ」

 不安に満ちていた兵士の顔がルウ・エリアルの名で、凛々しくなるのを見、今更ながらに彼の名の大きさを改めて知る。

(早まった?・・・しかし、砂はもう戻りはしない。なんとかしてみせる)

 いななく馬と共に、若い男の声が響いた。

「我こそは、ゴーワール教国の王、カーラ・ナ・ボルト。出て来い!ルウ・エリアル!わが愛する妻フェリテリテの仇、この手で討ってくれよう」

(好機・・・でもないな。もう少し私に腕に自信があればな・・・しかし時間稼ぎぐらいにはなろう)

「臆したか?その傲慢な鼻面、我自らたた斬ってやろうというのだ!光栄に思うがよい!」

「そんなにルウ・エリアルに会いたいのか?」

「誰だ、貴様!」

「クレミア国宰相ハーネット、陛下に失礼ながら手合わせ願いたい」

「宰相がこんなところに何ようだ。いや、そのようなことはどうでもよいか。それより文官が出てくるとは我もなめられたものよ。早々に失せるがよい」

「残念ながらそうもいかないのでな。いざ、参る!」

 ハーネットは弾むように馬上のカーラ王に斬りかかる。

 渾身の一撃を軽く受け流すカーラ王。

 そして、歴戦の猛将の如き腕力で、ハーネットを弾き飛ばした。

「答えろ!ルウ・エリアルはどこだ!」

「くっ・・・ルウ・エリアル、ルウ・エリアルとうるさいことだ。女一人に熱を上げ、無様なことだ」

「貴様、我を愚弄するか?」

「ああ、愚弄するね。お前の思い通りには絶対にならない。絶対にな!」

「よかろう。そんなに死にたいなら、早々に始末してくれる」

 ハーネットは血を吐きながら、剣を構えた。

 歩み寄るカーラ王をぼんやりとした眼で見つめる。

 そして、激昂するカーラ王は、無造作にハーネットの体を斬り裂いた。

 斬り捨てたハーネットを一瞥し、再度ルウの姿を求め、辺りを見回すカーラ王。

 だが、勝負はまだ終わってはいない。

 焼けつく痛みに耐え、ハーネットは剣を構え立ち上がる。

「怒りに身を任せ、女におぼれた愚王。私と共に地獄へと来てもらおう」

 そして、ハーネットの最期の一撃は、背後からゆるゆると突き刺した剣先は、カーラ王の体をとらえていた。

 見開かれるカーラ王の瞳。

 崩れ落ちる両者。 

「・・・フェリ・・・テ・・・リテ・・・来世も・・・共に」


お疲れ様でした。

このお話はこれにてお終いです。

ここまで読んでくださった方に感謝と謝罪を。

ありがとうございます。

すみません。

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