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終章  『終焉』

 どろどろとした感触に少しの嫌悪感を覚えながら、悠斗はディアヌス・ブレーンのなれの果てに手を突っ込んでいた。

 自然の流れとは逆行して、再生していくその体は、彼の力なくして朽ちることはない。

「ルウ・エリアル様。もうお体は大丈夫なのですか?」

「大丈夫なのー?」

 遠目に控えるメイドさんとエミュー。

「ああ、ルウ・エリアルの感覚がはっきりしている内にこいつを始末しておきたいんだ」

 青白い顔の悠斗は、感慨深げに上空のドラゴンに乗る夕実を見上げた。

 少し前の自分なら想像もできないような、その光景に懐かしさを感じていた。

(戦場で何度あの姿を見ただろうか。時に頼もしく、時に忌わしかった、あの姿。ディアヌス・ブレーンさえ始末すれば、その姿ももう見ることもないのだろう。きっと。この力も、この記憶も昨夜の夢のひと時の記憶。泡沫のように消えるのだろう)

 死肉の燃える臭いをかぎながら、自分の中にいる存在に少しさみしさを覚えた。

(せっかく出会えたもう一人の自分。その生き方に共感し、愛おしくさえ思える)

 それからしばらく、夕実に従うドラゴンたちはディアヌス・ブレーンの体をあらかた焼き尽くしたのち、悠斗たちはディアヌス・ブレーンの中心部に集まっていた。

「エミュー!少し来てもらえるか!」

「はいなのー」

「後はこの一帯で終わりだけど、お前たちはどうするんだ。ここ塞いじゃったら戻れなくとかならないのか?」

「ご心配ありがとうございます。ですが安心して下さい。私たちは無事に世界を渡れる方法があるので」

「安心するのー」

「そうか。じゃあ、向こうに落ちるディアヌス・ブレーンも任せて安心そうだな」

「!?」

 驚きに後ずさるメイドさん、そして両手で頬を押しつぶして面白い顔をするエミュー。

「い、今なんと!」

「いや、向こうに落ちるディアヌス・ブレーンを頼むと・・・もしかして、何も対策していないのか?」

「どうして?そんな?」

「ぽよーん」

「ディアヌス・ブレーンは両方の世界をつなぐ穴をつなぐための栓のようなものとして使われているのだから、こちらの体を朽ちさせてしまえば残りはそちらの世界に落ちるだろう。普通」

「そんな、何とかならないのですか?三賢者の力なら何とかなるのでは?」

 悠斗は、滑空していたドラゴンから降りてきた夕実と顔を見合せて首を振る。

「ここには二人しかいない。トービスがいればこちらで封印できようがな」

「ど、どうしましょう?エミュー様?」

「ふふん。こんなこともあろうかと、国中の魔法使いに声をかけていたのだー」

「おお」

「さすが、エミュー様!」

「だって、僕皇子だもん!一本の矢はたやすく折れようとも、三本の矢はなかなかに折れにくい。しかるに三賢者の替わりは国中の魔法使いで何とかするのー!」

「それは頼もしいな。では、ルウ・エリアルのバカ弟子にもよろしくな」

「そうか。そういえばこの一件あいつの仕業だったな」

 悠斗と夕実の水の差すような一言に、シュンとするエミュー。

「エミュー様!しっかり!!」

 悠斗と夕実は顔を見合せて、声をあげて笑った。


 ディアヌス・ブレーンの対策を練るために早々に去ったエミューを見送った後、二人は立ち尽くしていた。

 足元にはディアヌス・ブレーンの体でぬるぬるとした沼のようだった。

「正直、お前とこうやっていることを不思議に思う」

「私もだ」

「お互い敵同士で、殺しあっていたのに」

「お前にはさんざん苦汁をのまされた。今でもお前に殺された時のことは思い出す」

「・・・そうか」

「しかし、いまは私はフェリテリテであって、佐藤夕実でもある。お前も同じだろう」

「そうだな」

「私はフェリテリテの人格が覚醒したとき、お前を真っ先に殺そうとした。今朝のことだ」

 ああ、あれかと、電車の中で見たドラゴンを思い出した。

「けれど、自分の中のもう一人が言うんだ。お前を殺すなってな。自分の中にあった元々の気持ちなのに、どう扱っていいか正直迷ったよ」

「それはどういう・・・」

 夕実は少し悲しそうに笑う。

「お前はこちらでも人の心に関しては鈍感なのだな。そんなのだから私がお前と敵対していた理由が一生分からなかったのだ」

「そんなことはない。俺だって・・・」

 少しむきなる悠斗を夕実は組み伏せる。

「三賢者が一人。竜使いフェリテリテが佐藤夕実に人生の先輩として教授しよう。こういう鈍感なバカ者には体で分からせるのが一番だということを!」

 そう言って、夕実は悠斗の唇をふさいだ。


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