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夢か現実か

作者: 宇多瀬与力




 それは、まるで白昼夢のようであった。




 その日、私は全く記憶にない間に人々が往来する街頭に立っていた。

 記憶をたどれど、ネットカフェをいつどのようにして出てきたかを思い出せず、行き交う人々の流れに一人取り残されていた。


「ふっ…。」


 思わず自身に失笑をしてしまう。私のような人間を世はネットカフェ難民と呼ぶ。身なりや仕事をしていても、結局乞食と同じだ。少なくとも俗世はそう考える。

 猛暑は陽炎として、私に見せつける。そして、この暑さは思考を鈍らせ、現実味を失わせる。

 思わず、私は路肩に座り込み、空を仰いだ。


「空が…狭い。」


 かつて日雇いの仕事で知り合った男が路地裏から空を見上げて言った言葉を私は言った。

 あの男も私と同じだった。自分以外に自分を証明する存在を持たぬ人間……。

 次は何やら高額の仕事をすると言っていたが、果たして今は何をしているのだろうか、その様な事を考えているうちに、私の意識は照りつける日差しと熱気によって遠くなっていった。





 意識が戻ったとき、私はネットカフェの個室の中にいた。

 薄暗く狭い敷居で分けられただけの室内、目の前にはパソコンのディスプレイが無機質に置かれている。

 これが私の世界のすべてなのかもしれない。


 昨日の重労働が祟ったのか、未だに意識が朦朧としている。果して、さっきのは夢なのか、現実だったのか、私には判断がつかなかった。

 朦朧とする頭を振い、パソコンのインターネットを立ち上げる。薄暗い個室が淡く照らされる。

 何か目的があるわけでもなく、当てもなくWEB上を徘徊する。次々に変化を続けて、私を一人とり残すのは浮世もここも変わらない。


「おや?」


 偶然、怪しげなサイトへ行き着いた。人体実験を受ける体を提供する仕事だという。

 私は思わず失笑した。まさか今時こんな都市伝説を真に受けたサイトが存在するとは、と。

 興味本位で私はサイトを見ていく。どれも都市伝説として語られる実しやかに書かれているが、結局は嘘以外の何物でもない。ただの見世物だ。





 だが、私はそのマネキンか蝋人形を使ったのであろう実験写真の中の一枚に目が釘付けになった。

 その写真は、空が狭いと言っていたあの男に瓜二つであったのだ。

 私の背筋に冷たい汗が一筋流れたのを感じた。

 写真の解像度が低いため、目を凝らしてもはっきりと断言はできない。

 だが、よくよく他の写真を見てみる内に、それらが偽物を用いたものとは考えられなくなってきた。あまりに、肌の質感、そして拡大写真に写る産毛は決して模倣のしようがない程の出来栄えなのである。

 空調が壊れたのだろうか、私は額に脂汗を滲ませながら、さらに先のページを見ようとする。

 だが、その次のページを開こうととするボタンを押せない。見ることへで後悔をするとわかっているのだろうか、私の朦朧とする意識の中で、それが警告を立てる。


「うわっ!」


 思わず私はパソコンの電源を強制的に切った。

 そして、錯乱する意識を必死に抑え込み、おぼつかない足取りでふらふらとネットカフェから外に出た。



 これは夢なのか、現実なのか。

 そう、これは白昼夢のようなものであった。



 そう考えて猛暑の街頭を彷徨う中、私の脳裏にその男の言葉が繰り返し、ささやいていた。


「どうだい? お前も一緒にやらないか?」



【終】

ネットカフェ難民、現代の社会問題の一つにもなってます。

でも、最近が個人の特定が住民票や社会保障の電子化などで、誰かが証明しなくてもできるようになった。つまり、簡単になっただけで、昔は近所付き合いとかで誰かが証明できていただけ、孤立していた人は今も昔も変わらないと思います。


場所や方法が違うだけ、今の時代にも白昼夢はあるはずなんです。


そして、今回この様な作品を書いたのは、昨晩から自分は何を描こうとしているのか、本質的なところを考えてまして、一つとして、非現実を現実的に描くというのが出ました。

それには、わずかな文章で必要な表現を伝える語彙力、文章力が必要だと考え、現実か夢かの区別のつかない世界を描こうと、白昼夢を元にしたこの話を書きました。


果して、ホラ~な作品に仕上がったかはわかりませんが、私宇多瀬の修行の為にも、ご感想を頂けましたら幸いです。


2008/8/14 宇多瀬

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