クチナシの花が咲く日まで
クチナシの花言葉は「とても幸せです」だそう。
『自信が無い、俺なんかじゃなくて、もっといい人がいるんじゃないか』って、彼は子どもみたいに泣いたのは、籍を来月入れると決め、親への挨拶も済ませ、新居に家電を先に運ぶ日だった。元々引越しや運送の仕事も手伝ったことがある彼とその友人がすることに。私は一人暮らし、彼は実家暮らしという事で、新居には私の家電をそのまま持っていく事になっていた。今日この瞬間を迎えるまで、正確には1週間と3日前から、怒っていたり、落ち込んでいるようだったり、不安定な状態が多かった彼。普段落ち着いていて、2つ歳下とは思えないほどしっかりしてて、私には勿体ないぐらいの彼。鬱病と睡眠障害とPTSDにHSPというベタすぎるメンタルとそれに相当するが今更売れもしないであろうバックボーンを持ちつつ、なんやかんや後付けの性格とスキルを利用して、現代社会を何とか生きてる。そんな情緒の変化は、自分で見慣れているのもあり、さして驚かなかった。私は私で籍を入れるにあたって、引越しもあるため、店舗責任者として次の人材に引き継ぎを行うはずが、オーナーと現場の板挟み、今までのストレスと体調不良とが見事にマッチングした結果、仕事で完全に鬱発動かつ不眠という至極当たり前な状況。そして目の前には泣き出し、自分の気持ちを告白する彼。これから一緒に住む男女の空気ではない。
私が不安定な状態だし、今のお互いのスペックや完成度は違えど、似た家庭環境、似た感性や好み、考え方をしてる彼なので、正直私に釣られてしまっているのだと思っていたが、これは違うみたい。自分自身の脳内でオリジナルのGoogle機能を使ってみる。「メンヘラ彼女 彼氏への影響」は違うみたいなので、「情緒不安定 結婚前」とそれっぽい検索。
割と定番だし、まさかなとは思った。それでも、私の中の少ない知識の中では、その診断項目が過半数を超えていた。
これが巷で流行りのマリッジブルーかと。
女性側がなりやすいと聞いていたけれど、なんと言っても、身体は限界でも、自律神経が狂って30時間以上起きていても眠気がこないし、少しでも気を抜けば涙が出る私ですら、すんと心が何故か落ち着いた。自分より不安定な人に気づいた時、案外こちらの方が落ち着くものだ。
最近、不安定だったのはこういうことか。
『真の恋の兆候は、男においては臆病さに、女は大胆さにある』と「レ・ミゼラブル」の作者として有名なヴィクトル・ユーゴーが残した言葉をふと思い出した。
来月に控えている入籍というイベントに彼は臆病になっている。
ここ最近の彼は『俺についてくるのは大変だよ』『それは俺の好きな君じゃない、仕事モード出さないで』『俺は俺でなくなるのが嫌だ』『そんな覚悟なら逆に大丈夫?ってなるよ』といつもより怒るペースも短く、沸点も低いと感じていたが、正直気にしていなかった。
もちろん、私は籍を入れてしまおうと思ってから1度も取り消すと言う選択肢はなく、どうしたらお互いに幸せになれるか、出会ってこの日まで彼がくれた幸せをどう返そうか、そんな前向きな気持ちから、あなたが居ないなら死んでしまいたいと考えてしまうところまで来ていました。
私は年単位のお付き合いも同棲も、プロポーズもされたことはあれど1回も結婚したいと思うことはありませんでした。
彼にとっては葛藤の、私にとっては涙の1週間の前の彼は、むしろ早く籍をいれたい、いつでもいいなんて言ってましたからね。
一緒にいる時間が経てば、いい所ばっかりじゃないって気付くんです。
たとえ付き合った後に、ソウルナンバーがお互いマスターナンバーだと発覚しても、告白もプロポーズもなく、初めてしっかり会話をしてから2ヶ月以内でここまで来た相手だとしても、そんなドラマみたいな展開があったとしても、絶対に合わない部分てあると思うんです。
考え方や今までの生き方、人としての元々のコアの部分がいくら似てても、人間はそこから成長して、本音と建前、何枚ものレッテルを貼られ、アイデンティティなんてものは、どうあるかより、どう見られるかで決まることの方が多い。ましてや、経験と共に本人の性格もアップグレードされて変化する。
いくら似ていても、ぶつかり合うことはあるし、赤の他人だもの、全てを察するのは無理な話。
だからこそ、私は覚悟を決めたなら、一緒にいるための努力をするんです。意地でもその筋は通すって決めてるんです。彼の伝え方がどんな形であれ、受け取る私がいくら鬱になれども、PTSDを発揮しようとも、HSPが発動しようとも、むしろ可愛く受け入れられる注意の内容でも、きちんと聞きます。極力聞きます。私にそんなつもりがなくとも、彼を傷つけたのなら私は謝ります。物事の善し悪しは関係ありません。彼が気持ちを害したから、謝るんです。
ここまでくると宗教の話のようですね。
結婚という私にとっては人生最大といっても過言ではない意思決定です。
確かに、時間は過ごしていない、けれど、あの時、私は愛してるから結婚したいのではなく、あぁ、この人なんだろうなって、これ以上のカードは引いても無駄という気持ちになりました。
1度関係を進めるのを止めようと提案した翌週には付き合っていて、そのさらに一週間後の出来事だ。
この1週間、彼はむしろ私を試しているのではないかと思っていた。完全に書類を提出するまであと1ヶ月ある同棲期間。これは私自身のクーリングオフ期間なんだぞと。私は少しマゾの気があるくせにわがままなので諦められたりするより、しっかりと怒られたいし、治せる範囲のことは治す努力をしたいタイプだ。
だから、その1週間は私にとって、彼への評価のマイナスには繋がらないし、さして気にしていなかったのはこれが原因だ。
彼は『自信が無い』と1番呟いていた。
お互いに荷物を私の1Kから、先に家具家電のみ彼の地元の新居の1LDKへ運ぶその日に。大型家電はもう完全に積みきって、テレビとマットレスは後日になっていた。
今日は彼の友達も来てくれているため、荷物を載せきれば、そのまま地元に戻る。
私はストレスで起きっぱなしで泣きっぱなしでそのまま仕事の準備をするところでした。その状況で彼は必死に私のスイッチを切ろうとしてくれていた。
頑張りますぎなんだよ、なんで自分を認めてあげないんだって。
自己肯定感が低すぎる私にたくさんな言葉をかけてくれて、彼と出会ってから初めて気づけることも多かった。
その日の荷物運びはイレギュラーな1回目の荷物の運び出しで、本来は私を心配している彼が私の家に泊まる予定でした。私は一緒にいて欲しい気持ちと相手の往復3時間の体力を心配する気持ちがイタチごっこ。最終決定はもちろん相手に下してもらうに限る。そうすると、彼に『我慢して欲しい。それに今メンタルがこうなのはわかるけれど、少しは片付けできなかった?助っ人も来てることだし』と言われ、私は悔しいのか寂しいのかよく分からない気持になりながら、私は彼を第一に思って地元に留まるよう伝えた。彼は地元かつ新居に、私は仕事に向かう。
こんな絵に書いたような分かりやすい鬱状態。私はあくまで、既に作り上げてしまった業界ではある程度名の通った仕事中のワタシを上手く作れるか心配だった。誰がそんなひ弱な私を受け入れてくれる人なんていない。ワタシは与えて、支えて、背中を押す側であって、背中をさすってもらう側ではない。いつ見ても、元気で笑顔なワタシ。
それすらも貫けなくなるのが怖かった。周りが期待している自分とは違ってたらどうしようって、やっぱり思うんだよね。いくらキャラが強気なお姉さんでハッキリしてるし、見た目は平均点だと思うし、男の人からのアプローチもあるし、同性の女の子にだって正直モテる。
しかし、実は男性相手に恥ずかしがるポイントがある女の子から女性になったはずの今でも変わらず、高校生みたいにピュアな気持ちがいまだにあるとか、もしかしたら重たすぎるのではと、端的に言えば、パッと見はみんなから頼れて、明るく、適度にすけべなお姉さんキャラ、でもその実態はメンタルは弱いし、男の人にはついていきたいし、ただの女の子でしたと。
漫画みたいな設定だけど、それを地でいってしまっているのだからもうどうしようも無いことは百も承知です。
だからこそ、こんな情けない自分を見せるのは死んでも嫌だし、会いに来てくれる人がいるなら、私はワタシでいなくてはならないって意思が固くなる。その演じていること自体、自分の中でキャパオーバーしていることに気付かせくれたのは彼だ。
でも、いまこの瞬間は顔を出してくれるみんなのために私はワタシになる努力を自分の店まで保った。そこからはあっという間。初めからわかっていた予約も多かったが、当日はオープンから満席、新規のお客様をお断りするほどの繁盛ぶり。
しかも、ワタシは私が思っている以上に周りに頑張っているって思って貰えていたみたい。
ワタシではもちろんいたつもりだったけれど、彼と出会ってから私でいる時間も長くなったし、色んなキャラにちゃんと素の私の要素がちゃんとあったし、それが認められてるってことは少しは自分を認めてあげてもいいんじゃないかって。
そう思えるのは彼のおかげ。
少し気持ちが軽くなったし、誰かに必要とされてるって瞬間にガッツリ仕事モードに切り替わって、満席を回し続けて、後半に引き継ぐ頃には、残業前提でお客様と話していたら、そのまま自分の新しい稼ぎ方も確立させれそうだったし、新しい仕事も振られた。帰ったら鬱とアドレナリンがバグって仕事して寝れないだろうけど、明日休みだし、午後から美容院に行って、その後熊谷に向かう予定だった。彼好みにして悦ばせたかったし、本人がすぐに直接見たがるのは前回ロングエクステを外して、ショートに戻した時のリアクションから完全に予測はできていた。
だからこそ、美容院は遅刻したくなかった。例えその日に過度のストレスでそのまま寝れなくても、そのまま美容院に行って、彼の地元まで行けば落ち着いて寝られるって頭で仕事していました。
マリッジブルーだとか、私の鬱だとか、はたから見たら物怖じしてしまいそうな状況でも、私は彼と離れる気はないし、むしろ一緒にいるためにできることはやりたいと思っていた。
私にとって彼はまるで、唯一かつ中毒性の高い精神安定剤みたいなものなんです。もう1種のドラッグみたいなものです。無いと生きてけないんです。新宿TOHO横で手首ちまちま切ってる雰囲気自撮り界隈と一緒にしないで欲しいし、別れたら死ぬって言いながら、男で空いた穴を、何他の男でその穴埋めてるの?って、ヴィヨンの妻しかり、どんなことがあってもついていくのが女としての芯の強さだと思ってしまう。ただ、相手が、自分の相手としてふさわしくないなら話は別である。何か違うと思った時は辞めた方がいい、自分の気持ちというか勘はたまには信じてもいい
自分は運がいいんだと信じても良いらしい。だからこそ思ったんだよね、これ以上のカードはないって。そこから、色んなところが見えてきて、共通点が溢れてきて、少しの接点が全て奇跡に見えるぐらい。スピリチュアル、診断系全てびっくりするぐらい当たるし、レアだし、考え方も考えることも、頭の回転もこんなに似てて、私の全部を見てくれて、私の嫌いだった素の私から「好き」を見出してくれる人。親にすら話してない話も、みんなにあえてしていない話もたくさんあるし、私自身色んなワタシを使い分けてるのに、その全部を見てもフラットに接してくれる人って人生でどれだけいるんだろうか。そんな人がいたとして、今世で出会える確率はどれほどなんだろう。
親でも子どもは殺せるのが現実だし、親が躾と思っても、子どもがトラウマになっていたらもうそれはPTSDの原因にもなる。
私は人生で初めて私の今までの人生の経験を全て共有して、実際の体の弱さ、精神疾患についてすべて知っているのは彼だけです。そんな彼がいなくなるぐらいなら、そりゃさっさと死にます。
手首切ってる時間が勿体ないので、迷惑はどうしてもかけてしまいますが、おむつをして家のドアノブで首でも吊ろうと思います。
美容院の後はきちんと化粧もして、ラフで動きやすき仕事向きの服ではなく、プライベートの女の子らしい服装にしようって考えながら、彼とのLINEを返す。そのまま店に残って別の仕事をしていると様子がおかしい。いつ帰るのかを心配している。
今日は地元に帰るから我慢して欲しいと行っていたので、私は開き直って、どうせ家で寝れないならと店で新しい仕事のために軽いPC作業と別の仕事としてコンサルの営業をもこなしていた。
精神疾患は持てども、付き合い方をこちらは理解しているつもりなので、そんな時間の活用をよくする。
新たに始められそうな仕事の内容やその日のお客様の様子と出勤してからこと等他愛のないやり取りが続くがやっぱりどこかおかしい気がする。
1時間はたったであろう頃にやっと、それは確信へと変わる。地元から都内に荷物を取りに来てくれて、その日は別々に寝ることになったいた彼が、往復3時間かけてまた都内に戻ってきたということが発覚した。
仕事の話も区切りがよく私はすぐに帰宅した。1週間機嫌が不安定気味だったので、そろそろ病む方に来るんじゃないかってなんとなく、分かるようになってた。自然に相手のことを考えたり、ある程度の恋愛経験があれば意外と分かるようになるものだ。彼の方が頑固だし、プライドは高いと思う。誰かに何かを共有して、向き合ってっていうのが苦手なタイプ。それぐらい孤独に頑張って生きてきた証拠だと思ったし、私はそれを悪いことだとは思わない。それが許せないなんてことも無い。正直、気長に待てる。その行動と言動の矛盾さはある意味彼が変わる過渡期みたいなもので、人によってはターニングポイントでもある。その人と添い遂げると決めたら、その相手には孤独を貫かなくてもいいのではないでしょうか。
私が待てる理由は一貫して変わらない。
彼にとって私は、サンプル1なのです。俺が1番、女の前で意地を張るのは男として当たり前、同性に意地を張ってもしょうがないけれど、筋は通すのが当たり前、俺を頼りにしてる奴らもいるなんて彼は言って強く生きようとするんです。じゃあ一体彼は誰を頼ったらいいんでしょう。それこそ人一倍頑張り屋さんで、みんなの頼れる兄貴で、ギャングのボスみたいなそんな男の子は、誰にだったら弱音を吐いていいんでしょうか。気にかけてくれる人はいるかもしれません。でも、そこまでの意地を通してる男の子が誰に弱みを見せることができるでしょうか。実際は私よりも年下のまだ20半ばにも達していない男の子です。
これは、私の変わった性癖なんですけれど、全国の好きな男バブらせたい委員会の自称会長を務めておりまして、要はみんなの前では意地を張って、筋を通して、良い男でいてくれて、2人きりの時にめちゃくちゃ病んだり、幼児退行してくれたりと、本人が人に見せたくないところを見せてもらうぐらい、その人に心を許して貰えるよう努力しちゃうんです。その人の弱い部分を見るのが好きなんです。見せてもらえるってことはそれだけ信用された証と思いますし、そんなところ全てをひっくるめて愛しいんです。
こういう発想がある子は運が悪いと、恋愛共依存するタイプだから、DV男に惚れたらまあ最悪。来世に期待か、個人差がありますって感じだけど、次のターニングポイントに期待するかです。
私は相手に依存してしまう自覚ある分、彼にも私自身に依存して貰えるように仕向けるわけです。依存のされ方はいくらでも方法がありますからね。
これは最早、私が今まで生きてるうちに身につけた能力として、需要と供給を見極めることが必要不可欠だったため、自然と身についてしまったものです。心理学や交渉術を学んでいる人はもっと得意なんじゃないでしょうか。相手に必要とされるために、相手の欲しいワタシを見せて、いつもと違うカレをたくさん見せてもらうの。野生の猛獣を手懐けるみたいに、長い目で見るの。だって、本当に誰にも頼らずに頑張った人って、我が強いんじゃなくて、頼る人がいなかったり、頼り方を知らなかったのもあると思うから。私は、どんな性格の人に出会っても、そう生きないといけなかった理由がその人それぞれにあると思っている。その瞬間の性格や人相はその人がいままで生きてきた証でもあると思うし、今後その人がどんな最後を迎えるかは、今日何を考えて、どう生きるかにもよる。私は夜の仕事も齧っていたし、接客業をメインにしか働いてこなかったので、平均よりは色んな人を見てきたと思ってるけれど、今まで見た男の子の中で1番男の子だし、漢だなって感じた。その直感を私は信じているからこそ、そんな男が私に心を開いてくれたら、それがどんな泣きしゃがれた声でも、引くような汚い罵声でも、私に対しての不満でも、彼が結果に納得いかずに、彼自身にムカついてる時でも、私は受け入れる努力をします。そばにいて何があっても離れないと思わせるんです。彼自身に私は他の子と違う、受け止めてくれるって、全てを預けてくれてしまうよう仕向けているだけなんです。全世界の人間全員が敵になっても私だけは味方でいるよってスタンスでいるんです。そうやって、相手に依存してもらわないと安心できない子だったんです。でも、自分は依存した後のダメージを負いたくなくて、愛情を分散させて自分の重さを軽減させたり、相手の好みに合わせたキャラを演じて好かれるようにだけ生きてきた。その人の好きな物を対価として与えてるんだから、それが愛情として返ってくるのは安心するんです。
今まで分散してたその分の愛が1人に向いているなら、その関係を維持するためにどんな手段でも使えちゃうでしょ。相手の欲しいものも分かるし、相手の触れて欲しくない、気づいて欲しくないところまで見えてくる。芯の通った女であれば、男のメンツやプライド絡みで出せない部分があるって理解してあげるべきでしょう。そういう女でありたいなと思うんです。女性の社会進出、フェミニストが声を上げてる令和の時代に時代錯誤と言われてもしょうがない。でも、私はそう生きたい。
テレビとマットレスを除いた、洗濯機や冷蔵庫、テレビ台などが運び出され、少しがらんとしてた部屋に戻った瞬間、扉を開けたら目の前に彼はいた。
すぐに私を抱きしめて、小さな声で謝ってきた。『ごめん。泣かせたいわけじゃないし、俺は我慢をして欲しいわけじゃないんだよ。ただ、体を心配してるっていうのはわかって欲しい』って背中に感じる彼の腕の力の強さにも気持ちが込められてきて、伝わっていた。何も言わずに、ずっと抱きしめてくるので、仕事終わりな上に、寝起きにそのまま職場に向かっていたので、正直まずはシャワーを浴びさせて欲しいと伝えると一緒にお風呂に入るとのこと。そこからは、出勤前に私に今日は我慢をと躾ていた彼はどこへやら、私の方からひたすら大丈夫?往復3時間、しかも荷物運んでたのに戻ってきて体調は悪くない?って一つ一つ確認して、それでもリアクションは薄いまま。
そのままお風呂から一緒に上がって、髪の毛を乾かしてから洗面所を出ると残しておいたベッドのマットレスに座っていればいいものを、部屋の端に小さくしゃがんで座っていた。子どもの面倒を見ている感じ。段々、落ち着いてきたのか、私の投げかけ意外にも彼自身から話しはじめた。
『こんなに頑張ってくれてるのに、それなのに泣かしてるの本当にごめん。本当に怒ってる訳じゃないんだよ。わかって。』
『大丈夫だよ。本当にして欲しいことは、ちゃんと少しずつこうしてって伝えてるし、それを私は貴方の為に1回注意されたら治せるけど、貴方はきっと無理。それに、口調で怒ってるように聞こえるけど、私に怒ってるんじゃなくて、自分の思う様に事が進められない自分にイラついてるだけなんだよね』
私の顔を覗いてポカンとししている彼。
その手には、私がクリスマスカードの下書きに使ったノートだった。やっぱり何となく気になって、片付けそこそこに都内まで帰ってきて、部屋を少し片付けをしていたところ、私の勉強用のノートにメッセージの下書きを見られたようだ。
その文章はもちろんクリスマスカードなので約1ヶ月近く前に書いた事だったけれど、それを見て改めて、なんで俺なんかをって少し思ってしまったみたい。
『私はちゃんとこうして欲しいって伝えてるし、治らなかったらそれはそれで諦めるよ』
「諦める」その単語に、そこから投げやりになってしまう彼
『確かに俺は自分が正しいと思ってるし、みんなが良くなればって行動して、面倒見て、その上君のことを心配しているのに、自分のビジョンを共有しなかった今までそれでやってきたのに、君にはそれだとダメで、諦めてるって。そんなの急に捨てるみたいじゃないか』
彼の実のお母様に似てると言われている大きなぱっちり二重の目からは、ぽたり、ぽたりとゆっくり、本人の気持ちが少しずつほぐれていくかのように、滴が落ちる。
『あのね、諦めてるって言っても、それは好きになるのを辞めるって意味とかじゃなくて、相手を潔く受け入れるって意味だよ。今更変えられない過去と戻りたい思い出が、今の貴方を作ってるんだよ。だったら、それがどんな内容であってもそれ込みでありのままで受け入れて、愛したいし、籍を入れるってそういうことだと思ってたるよ』
私の気持ちには彼が心配するようなマイナスな感情もなかった。
『もっといい人がいるかもしれないじゃん。俺は急に自信が無くなったよ!俺なんかといない方がいいんじゃないか』
ってそれでも続ける彼。
まだ初めて話して数日で、付き合って2ヶ月弱しか、一緒に過ごしていないし、知り合った日数は短いけれど、一匹狼で自分で全部決めて引っ張って来た人だって凄くわかるからこそ、自分がいままで人を入れたことが無い心の内にまで入れようとしてるから、難しいんだよね。その上今まで自分の決定に自信があったのに、不安になったり、揺るがされる要素が少し出来たんでしょ?
それはもう私に歩み寄ってくれてる証拠だって私も分かるよ。幸せにするっていう絶対的な自信がなくなっちゃったから病んでるのも分かるし、臆病になるんだよね。
特定の恋人は作らず、自分が良ければ。彼も私もそれこそFuck my lileって思って、なんでも好きにできたし、マイペースになるようになるって思ってた。お互いに人生という夏休みを自由に過ごしてたら、急に始業式の日程が決まってしまったみたいな。でも思いのほか、自然の流れでもあったかのように籍を入れる事に抵抗がなかったし、私は覚悟もその時から決めてる。
『真の恋の兆候は、男においては臆病さに、女は大胆さにある』とレ・ミゼラブルの作者であるヴィクトル・ユーゴーは言っているのはこういうことなのかなと、知識としてではなくそれを経験として体感することができた。
私は貴方に出会って、私は良くも悪くも人に対して素直で無邪気だってこと自覚した。周りがみんな良い人じゃないって思いつつも、それでも信じ直して、その人自身の善悪だってあるって思ってるの。誰かにとってのヒーローは私にとっての悪人かもしれないし、私にとって貴方は全世界にとって悪人かもしれない。
『心配しないで大丈夫だよ』
自信っていうものは、ある程度の歳月を重ねて、ふと。本当に何となく振り返った時に、これだけやったんだなって、自分意外とやってこれてるじゃんて思うもので、まだやってみないと分からないんだよ。
『私を幸せにする自信が無いって。自信はこれからつくものだし、幸せかどうかは未来の、それこそ死ぬ直前の私にしか分からないの。その瞬間までの日々の積み重ねなんだよ。最後どうなるかは分からないけれど、例えがそれが目指したゴールや満足しない結果でも、自分が決めたこと。筋を通してたらそれなりに頑張った結果。男としてダメなら、見る目がなかったんだと自分の責任ぐらい自分で気持ちを処理する程の覚悟は出来ているので安心して』
結果がどうなるかは、50年後ぐらいに聞いてみてね。
年下は初めて付き合うし、結婚願望だってなかったのに籍入れることになってるし、何も繕わずに、ありのままで接してる相手は初めてで、惚れた弱み、恋は盲目って、フィクションの中でだけだと思っていた。ちゃんと冷静な私もふといるけれど、本能で好きだなと思える人ってすごい確率だと思うよ。
今の私たちの心情がヴィクトル・ユーゴーによるところの真の恋の兆候だとしたら、私は20半ばを超えてやっと、人生で初めて恋に落ちてしまいました。
なんで恋に落ちるって言うんだろってずっと思ってたけど、どこからか落ちる瞬間て何もできないじゃないですか。きっとそれなんだろうなって。
恋に落ちそうだなと思ったら、あっという間に落ちてるなって思って、気付いたら貴方の愛に溺れて、息の仕方を忘れてしまいました。貴方がきちんと息継ぎの仕方を教えてあげてください。私のことが心配なら傍にいたらいいんです。
幸せかどうかは結果論。
もう少し気長に様子を見てみましょう。
駄目なら駄目で、もし仮に上手くいかなかったとしても、死ぬ間際にちょっと惜しかったとか来世でリベンジしよとか、そのぐらいの方がいいんじゃないかな。自分の人生、1度きりの人生の中でこの人って思ったのなら、この人といれて私は幸せでしたってそう思えるよう私は生きたい。なので、幸せかどうか上手くいってるかどうかは、もう少し先の私に採点してもらってください。
『とりあえず、一緒に寝よ』
彼の腕を引いて、ベッドに連れていく。
実体験を踏まえて書いてみました。
花言葉やって素敵ですよね。
格言は感銘を受けたり、体験したときって全身鳥肌が立ったり、なんとなく心がすんと感じるんですよね。