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第8話 アルドの謝罪


「ただいま帰りましたー……」

「おかえりなさーい!!」


 ジョルナルドの安らぎ亭の扉を開ければ、パタパタと食堂からニコちゃんが走ってきて私に飛びついた。

「ただいま、ニコちゃん」と言って頭を撫でれば、嬉しそうに笑ってくれた。……とても癒される。


「あらあら。ニコったら……」


 ふいにそんな呟くような声が聞こえてそちらを見てみれば、食堂の入り口に見覚えのない女性が立っていた。

 アルドくんとニコちゃんと髪色が一緒のこの女性は、もしかして……。


「初めまして。グレイグの妻のセレナと申します」


 やっぱり!

 この人がグレイグさんの奥さんで、アルドくんとニコちゃんのお母さんか……。

 優しそうな雰囲気の女性だ。

 起き上がっているという事は、体調が回復したという事だろうか?


「フィリアです。体調の方は大丈夫ですか?」

「ええ。頂いた風邪薬のおかげで、だいぶ良くなりました」

「! それは良かったです!」

「おねえちゃんがくれたおくすり、ほんとうにすごいの! のんだらすぐにおかあさんげんきになったの!」


 そんな即効性はあの薬にはなかったはずだが……。

 とにかくセレナさんの体調が回復して良かった。

 私は「おねえちゃんありがとう!!」と満面の笑顔を見せてくれたニコちゃんの頭をまた撫でた。


「おー。帰ったか、おかえり」

「おかえりなさい」


 グレイグさんとアルドくんがやって来た。

 ジョルナルド家全員が揃った。


「どうだった? 初めての依頼は?」

「ばっちり達成してきました!」


 グッと親指を立てて見せれば、グレイグさんはニッと笑ってくれた。


「そんじゃあ、冒険者記念と依頼達成記念でド派手に祝うとするか!!」

「おーっ!!」

「えっ!?」


 グレイグさんは右の拳を上に突き上げながら食堂の方へと再び姿を消した。ニコちゃんが私から離れてグレイグさんのあとを追う。


 確かに冒険者記念のご馳走が食べたいですとは言ったけど、そんなド派手に祝わなくても……。

 自分で言い出した事とはいえ、なんだか恥ずかしくなってきた。


「ごめんなさいね、主人が……」

「いえ……。お祝いしてほしいと言ったのは私なので……」


 セレナさんが申し訳なさそうにしている事に申し訳なさを感じる。

 顔に集まっている熱を冷ますためにパタパタと手で仰ぎながらセレナさんに続いて食堂に入ろうとしたところ、アルドくんに呼び止められた。


「あの、フィリアさん……」

「ん? どうしたの?」


 呼び止められた私は、そういえば今朝も似たような事があったと思い出す。

 アルドくんは口を開いては閉じを繰り返す。

 どうしたのだろうかと待っていると、アルドくんは突然頭を下げた。


「昨日はすみませんでした!」

「えっ!?」


 昨日? え? アルドくんが私に謝らないといけないような事、何かあったっけ?


 思い当たる事が見つからず、頭の上に疑問符をいっぱい飛ばしていると、顔を上げたアルドくんが答えをくれた。


「昨日、お風呂ならガランの湯を利用しろって、態度が悪くって……」


 ……ああ! あれか!

 まあトゲのある言い方だなぁとは思ったけど、今朝グレイグさんとの話の中でその原因がわかったし、そもそも私は昨日その事で気分を害したりはしていない。

 アルドくんとあまり目が合わなかったり、避けられたりしたのはそういう事だったのかぁ。アルドくんに嫌われたわけではないとわかって一安心だ。


「気にしないで。私、昨日の事は全く怒ってないから」

「でも……」

「それより! アルドくんはちゃんと謝れて偉いね!」

「え?」

「世の中にはねぇ、悪い事をしても謝れない人がいるんだよ。それもアルドくんよりも年上で、れっきとした大の大人が!」


 前世では通っていた学校の先生にそういう人がいた。


 以前、テストの採点が間違っていた事があって、その事を言うために職員室に出向けば、先生は答案用紙を確認もせずに私の方が間違っていると怒りだした。私の言っている事が間違ってると思うならこの答案用紙を見てくれよと思ったけれど、先生は全く聞き耳を持ってくれなかった。

 困っていたところに様子を見ていたほかの先生が助けてくれて、ようやく答案用紙を見たその先生はしばらく用紙に目を落としたまま動かなかった。やがて動き出したかと思えば、机に向かってサラサラと赤ペンで間違っていた箇所を訂正し、私に正しい点数を書いた答案用紙を返した。


 ただ、それだけだった。


 自分が間違っていたとわかっただろうに、その先生は一言も謝らなかった。

 しまいには、「ほら、これで満足だろ?」とか言いやがった。

 元々プライドの高い先生だなーとは思っていたけど、ああいう人っていうのは自分の間違いを認めたり、人に謝ったりしたら死ぬ病にでもかかっているのだろうか?

 ……ダメだ。思い出しただけで腹が立ってきた。


「まあ、アルドくんの場合は悪い事をしたわけじゃないけど――」

「あれは大事なお客様に取ってはいけない態度でした!」


 アルドくんが声を上げた。

 彼のその言葉に私は目を丸くする。


 良い子! アルドくんも本当に良い子……!

 あの先生にアルドくんの爪の赤を煎じて飲ませたい! 全力で!!

 たった10歳かそこらの年齢だろうに、プロだよ。接客業のプロだよ、あんた……!!


「あ……あの、フィリアさん……?」


 戸惑ったようなアルドくんの声がしてハッと我に返る。私はいつの間にか彼の頭を撫でていた。

 私は慌てて手を引っ込める。


「ああっ! ごめんね、思わず……」

「いえ……」


 私が撫でてしまった事で少しばかり乱れた髪を整えるアルドくんの頬は、薄っすらと赤らんでいた。照れているようで、可愛い。


 しかし、困った。

 アルドくんはいくら私が「気にしてないよ」と言ったところで、納得しなさそうだ。

 それほど昨日の自分の態度に罪悪感を抱いているのだろう。

 本当にあの教師にはこのアルドくんの態度を見習ってほしいものだ。


 それにしても、どうしたものか……。

 こういう場合は、むしろアルドくんに償いをさせた方が本人はスッキリするだろうか?

 ちょっとやってみよう。


「じゃあ、アルドくん。ひとつ私のお願いを聞いてもらってもいいかな?」


 私がそう尋ねてみれば、アルドくんは「はい! 何でも言ってください!」とパッと顔を明るくさせた。


 ……アルドくんや、そう簡単にそんな言葉をいってはいけないよ。世の中には悪い大人がいっぱいいるからね。


「実は明日、この町を散策しようと思ってたんだけど、アルドくんにはその案内をしてもらいたいなって」


 私がお願いを言えば、両の拳を握りしめていたアルドくんは気の抜けた声を漏らした。


「そんな事でいいんですか?」

「うん。一人で町を巡るのはちょっと寂しいなって思ってたから」


 それにこの町に暮らしている人なら、この町の穴場スポットとか知っているかなぁ……なんて下心もあったり。

 何せ今ならゲーム上では見えない壁で阻まれていた場所にすら行けるからね!


「どうかな?」

「もちろん! やります!」


 フンとアルドくんは気合十分といった感じで鼻を鳴らした。

 そんなに気負わなくてもいいんだけど……まぁ、いっか。


「それじゃあ、荷物置いてくるね」

「はい!」




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