第7話 熱烈告白冒険者
冒険者ギルドでカムラグ草の採取依頼を受けた私は、カムラグ草が生息しているヤツデの森にやって来ていた。
森に入った私は、手近な木の幹に身体を預け、ズルズルとその場に座り込んで膝に顔を埋めた。
――大好きです!!
自分の発言を思い出し、火でも出るんじゃないかというほどに顔が熱くなる。
恥ずか死ぬかと思った。
10分程前、私は冒険者ギルドで念願叶って推しキャラであるジーク・スティードに出会う事が出来た。
扉に顔をぶつけて蹲っていた私を心配してくれている彼を安心させる為、「大丈夫です」と返事をしようとしたはずなのに、私の口から出たのは好意を告げる言葉だった。
私の発言にきょとんとしたジークの顔。
シーンと静まり返った周囲。
自分が何を発したのか、それを自覚した私は今と同じくらい……いやそれ以上に顔が熱くなった。
もう恥ずかしくて居たたまれなくなった私は、冒険者ギルドを飛び出して全速力でサルビアを出て、ヤツデの森に辿り着いたのだ。
頭の中では「大丈夫です」と答えようと思っていたはずなのに、どうして「大好きです!!」なんて言ってしまったのだろうか……。
いや、ジークの事は大好きなんだけどね。
お近づきになりたいとは思っていたけど告白する気なんて欠片もなかったし、ジークと恋人同士になりたいだなんて思ってもいない。
だって、モブキャラである私が攻略対象キャラと恋人同士になれるわけがないのだ。
彼の隣に立つのは、ヒロインが相応しい。
私はただ、推しキャラであるジークに会えたらそれで満足なのだ。
それがどうして「大好き!!」なんて……。
ああ、時間を巻き戻せるなら巻き戻したい……。
時間停止が存在しているなら、時間を巻き戻す魔法もあるんじゃなかろうか?
……でも、いつまでもこんなところで座り込んでいちゃダメだ。
今日はグレイグさんがご馳走を用意してくれているんだから、さっさとカムラグ草を採取して、さっさと冒険者ギルドに戻って、ちゃちゃっと完了手続きをしてもらって報酬を受け取って帰ろう。それでグレイグさんのご馳走をたらふく食べよう。うん。そうしよう!
私は立ち上がり、カムラグ草を採取するために森の中を進んでいった。
◇ ◆ ◇
カムラグ草の採取を終えた私は、重い足取りでサルビアに戻った。
さっさと帰ろうと思っていたのに、いざ冒険者ギルドに行かなければと思うとものすごく足が重くなった。
目の前にある冒険者ギルドの建物を見上げて、私は一度深呼吸する。
大丈夫。大丈夫。
サッと入って、依頼の受付カウンターまでダッシュで行って、手早く完了手続きをしてもらって、誰とも目を合わせることなく帰る!
よし、いくぞ!!
私はギルドの扉を開けて、一目散に依頼の受付カウンターに向かった。
「これお願いします!」
依頼の受付カウンターに辿り着いた私は、受付にいる職員のお姉さんと目を合わせることなく、マジックバックから取り出した冒険者カードとカムラグ草を入れた瓶をカウンターの上に置いた。
「はい。確認いたしますので少々お待ちください」
冒険者カードとカムラグ草が入った袋を受け取った職員のお姉さんは、「あら」と呟いた。
何か問題があっただろうかと思わず顔を上げてしまった私は、ばっちりと職員のお姉さんと目が合ってしまった。
「お疲れ様です、フィリアさん」
カウンターにいたのは、午前中に私の依頼を受付してくれたお姉さんだった。
「お、お疲れ様です……」
「あ! 朝の熱烈告白冒険者!!」
突然、ゆるふわな髪のさほど年齢が離れていなさそうな職員のお姉さんが私を指さした。
……っていうか、何だその呼び名!?
「コラ! 何てこと言うのよ、ラナ!」
ラナ、と呼ばれた私を指さして「熱烈告白冒険者」と言った職員は、「えー、でも本当の事じゃないですか!」と悪びれた様子もなく言った。
私の依頼受付をしてくれた職員のお姉さんは溜め息をつく。
「溜め息をつくと幸せが逃げちゃいますよ? ヴィーラさん!」
「誰のせいだと……」
私の依頼受付を担当してくれた職員のお姉さんは“ヴィーラ”さんというのか。美人なお姉さんにお似合いの名前だ。
ラナさんに言い返そうとしたヴィーラさんは、私の存在に気づきハッとする。
それからヴィーラさんはコホンと咳ばらいを一つした。
「職員が大変失礼を致しました」
「いえ……」
呼び名はアレだが、事実なのでなんだか怒るに怒れない。
「もうほんとに凄かったですね~。あんな大声で愛の告白!」
面白そうにラナさんは話すが、私は内心で「やめて。本当にやめて。掘り返さないで!」と叫んでいた。
「いえ……あの、あれは……愛の告白というわけではなくて、ですね……。何と言いますか……前から会いたいと思ってたジークさんに会えた喜び? というか、嬉しさ? というか……えーっと、つまり……そう! 私、ジークさんのファンなんです! あれは憧れのジークさんに会えた喜びが溢れ出ちゃっただけなんです!」
うん。そう! それ! だからあれは決して愛の告白なのではないのだ! 間違いというわけではないし、これで乗り切ろう!
私が力強くそう言えば、ヴィーラさんは「そうでしたか」とにっこり微笑んでくれたのに対し、ラナさんはいたずらっ子のような笑みを浮かべて言った。
「そうですかぁ……。憧れですかぁ……」
そうです。あれは恋愛的な意味ではなく、憧れから来るものです。
だからもうこれ以上その件については触れないで!!
「ラナ。あなた報告書の作成は済んでるの?」
「……あ! そうでした!」
「提出期限は今日までのはずよ。早く作成して提出しなさい」
「はーい!」
元気に返事をしたラナさんは、カウンターの奥にある扉の中へ消えていった。
ありがとう、ヴィーラさん。
「本当に申し訳ありません、フィリアさん。彼女にはあとできつく注意しますので」
「……はい。お願いします」
「それでは採取いただいたカムラグ草の品質の確認をさせていただきます」
「お願いします」
ヴィーラさんは鑑定メガネを取り出して、私が納品したカムラグ草の品質を確認し始めた。
採取をし終わった後に特殊スキル“解析鑑定”で確認した時はどれも“高品質”と表示されていたから大丈夫だと思うが、なんとも緊張する時間だ。
「――どれも高品質。正しい方法で採取されていますね。カムラグ草の採取依頼も達成となります」
よかった。
ほっと胸を撫で下ろしている間にも、ヴィーラさんはテキパキと手続きをしてくれていた。
「こちらが今回の依頼の報酬になります」
「ありがとうございます!」
トレイの上に置かれたお金を財布に仕舞う。
「今日はお疲れ様でした。その、いろいろと……」
「あ……はい。お気遣いありがとうございます」
私は気遣ってくれたヴィーラさんにお礼を言って、ギルドをあとにした。
は――、終わった。
ラナさんの声は良く通ったのか、彼女が「熱烈告白冒険者!!」と言ったあたりから何だか周りの視線が痛かった。
……もう早く帰ろう。
そして、グレイグさんが用意してくれているご馳走をたらふく食べるのだ!
私はジョルナルドの安らぎ亭に向けて歩き出した。
ちなみに、フィリアの冒険者登録の手続きをしてくれた受付嬢の名前は「ライラ」と言います。
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