第5話 いざ、冒険者ギルドへ!!
冒険者ランクの昇格条件等一部内容を変更し、修正しました。
「ここが冒険者ギルド……!!」
私は目の前に建つ二階建ての建物を見上げた。
ゲームで何度も見た事のある建物――冒険者ギルドが目の前にある。
本物だ! 実物だ!
昨日の紫雲亭といい、興奮から心臓がうるさいくらいに脈打っている。
ゲームではジークがヒロインをここに案内してたっけ……と、その時のシナリオを思い返す。
それから私は冒険者ギルドの扉を開いた。
冒険者ギルドに足を踏み入れて見れば、そこには鎧を身に纏った屈強な男性や格闘家のような男性、腰に剣を差している剣士と思われる女性などいかにも冒険者という人たちがたくさんいた。
建物の内部は吹き抜けの2階フロアもあって、とても広かった。奥にあるカウンターの内、真ん中の少し出っ張ったカウンターに私は向かった。
「こんにちは。冒険者ギルドへようこそ」
「こ、こんにちは! あの、冒険者登録をしたいんですが……」
緊張で言葉がどもってしまった。
恥ずかしいと思ったが、受付をしてくれているギルド職員のお姉さんはそれを気にした様子もなく「冒険者ギルドや冒険者に関する説明は必要でしょうか?」と聞いてきた。昨日グレイグさんに説明をしてもらったが、彼が冒険者として活動していたのは10年程前までの事で、規定など変わっている可能性があるから念の為受付で説明を受けるようグレイグさんから言われたので、私は説明をお願いした。
受付のお姉さんは慣れた様子で冒険者ギルドや冒険者に関する説明を始めた。
「ここ、冒険者ギルドでは、冒険者の登録、魔物の討伐や素材の採取、護衛等の依頼を冒険者の皆様へ仕事として斡旋しています」
冒険者にはランクが存在し、下からF、E、D、C、B、A、Sとなっている。各ランク依頼をこなして一定数のポイントを集める事で昇格するが、Bランク以上に昇格する場合はポイント数に加えて昇格試験があるそうだ。昇格試験というのはゲームになかった設定だが、Bランク以上になると強力な魔物の討伐依頼など依頼の危険度が格段に上がる為に、本当に冒険者がそのランクに見合う実力かどうかを確認する必要がある為だそうだ。
依頼は自身のランク以上のものについては原則受ける事は出来ないが、例外的に副ギルド長……サブギルドマスター以上の推薦があれば受ける事が出来るそうだ。
依頼者から支払われる報酬の内二割はギルド側が仲介手数料として徴収していて、掲示板に貼られている依頼書にはそれが差し引かれた金額が報酬額として記載されているそうだ。
また、冒険者ギルドは商業ギルドと提携しており、素材などの買取もしているらしい。その辺の雑貨屋などのお店では買いたたかれてしまう事があるそうだが、ギルドではしっかり適正価格で買い取りを行ってくれるそうだ。この受付カウンターから見て右側にあるカウンターが買取所だそうだ。
あとは他の冒険者との喧嘩や揉め事は禁止されている事や、依頼を失敗した場合は罰金がある事、問題行動を起こした冒険者はギルドから除名される事など細かな規則もあるそうだが、「それらについてはこちらでご確認ください」と受付のお姉さんからルールブックを手渡された。
「これまでの説明でご不明点などはございますか?」
「いいえ、大丈夫です」
受付のお姉さんからの説明は、昨日グレイグさんから聞いたものとほとんど同じだった。
「では、こちらの用紙に必要事項の記入をお願い致します」
渡された用紙に目を通し、私は氏名、年齢、性別、出身地を書いて受付のお姉さんに提出した。
受付のお姉さんは用紙を受け取ってそれに目を通すと、カウンターの下から水晶玉と一枚の金属製のカードを取り出した。
まず、カウンターに設置されていた長さ15センチ程の台の上に手の平サイズのカードを置くと、今度はそのカードの上に水晶玉を置いた。よく見れば水晶玉の中央には窪みがあった。
「こちらの窪みに指を入れてください。針がついていますので、そこに押し付ける形でお願いします」
これが昨日グレイグさんが言っていた水晶玉か。ゲームでは聞いたことのない物だったので、どんなものか気になっていたのだ。
この水晶玉の下にあるカードは今のままでは何の効力もないただのカードだが、このカードとその上に置いてある水晶玉には特殊な魔法が施されており、この水晶玉に血を一滴入れる事で魔法が発動し、冒険者の名前などの情報が登録されるだけでなく、冒険者が達成した依頼の数や討伐した魔物の数などの情報もカードに自動的に記録されるようになるらしい。冒険者の個人情報が記録されているカードの為、身分証明としての機能を持ち、これを持っている事でほかの町や他国でも冒険者活動を行う事が出来るのだ。
また、冒険者カードは登録時は無料で発行してもらえるが、紛失して再発行が必要となった場合は100,000ペルもの費用が発生するそうだ。……絶対に失くさない!
「達成した依頼数や魔物の討伐数などはギルドに設置されているあちらの魔道具で確認することが出来ます」
「わかりました。ありがとうございます」
私は受付のお姉さんに言われた通り、水晶玉の窪みの部分に指を入れた。窪みの先に短い針があったので、そこに指を押し付ける。チクリと小さな痛みが走った。
次いで、水晶玉の上に私の名前と年齢と性別とレベルと冒険者ランクが浮かび上がった。
「ありがとうございました。これで冒険者登録は完了になります」
これで晴れて私も冒険者の一員だ。
受付のお姉さんが水晶玉を片付け、その下にあったカードを差し出した。
カードを受け取った私は、それをじっと見つめる。
そこには名前と年齢、性別、レベル、現在の冒険者ランクに一番下にはランク別のこなした依頼の数が記載される枠があった。
ゲームで見慣れているはずのカードなのに、実際にこの手に取って見ると何とも高揚した気分になった。
……こんな質感をしていたんだな、冒険者カードって。
「早速何か依頼を受けられますか?」
「はい! ぜひ!!」
食い気味に返事をしてしまい、恥ずかしさから顔に熱が集まる。私の様子を見てフフッと笑った受付のお姉さんは、左側の壁を指し示した。そこには四つの大きな掲示板があり、掲示板にはたくさんの紙が貼りつけられていた。
「一階にある掲示板にはFランクからCランクまでの依頼が貼られています。フィリアさんの冒険者ランクは一番下のFなので、一番左の掲示板の依頼を受ける事が出来ます。掲示板から依頼書をお取りになったら、隣の受付カウンターに提出して依頼を受ける旨をお伝えください。報酬もそちらのカウンターで受け取ることが出来ます」
「ちなみに二階は……?」
「二階にはBランク以上の依頼の受付や、ギルドマスターやサブギルドマスターの執務室や会議室などがございます」
グレイグさんの言っていた通りだ。彼が冒険者として活動していたのは10年ほど前の事だそうだが、建物内の様式は変わっていないようだ。
二階には自由に上がることが出来るそうなので、あとで見学してみよう。
私は受付のお姉さんにお礼を言って、さっそく依頼を受ける為にFランクの依頼書が貼られている掲示板の方へ向かった。
Fランクの掲示板に貼られている依頼は、ほとんどが素材の採取依頼だった。あとは清掃依頼だったり、迷子のペット探しなんてものもある。魔物の討伐依頼はあまり見かけない。
どうしようかな……。
素材採取の依頼よりも討伐依頼の方が報酬が高いから、討伐依頼の方にしてみようかな……。
……いや、やめておこう。
冒険者は下手をすれば命を落とすような仕事だと、両親もグレイグさんも言っていた。
私もその事を実感している。
村から出るまでの私は、大好きなゲームの世界に転生できた事で頭の中がお花畑になっていた。ゲームを何度もプレイしていたから出てくる魔物は大体覚えていたし、弱点もわかっているから魔物を倒す事なんて楽勝だと思っていた。
でも、そんな事はなかった。
初めて戦ったのは村周辺に生息していたスモールラットというねずみに似た魔物。この魔物は序盤に登場する中でもスライムに次いで弱い魔物だ。その時の私のレベルは1で、スモールラットのレベルは2。たった1レベルしか差はなかったし、スモールラットは弱いから簡単に倒せると思っていた。
しかし、それはあくまでも“ゲーム”の中だけの話だと、私は思い知る事になる。
ゲームではバトルはコマンド制で、画面上に表示される選択肢からただ技を選んで繰り出すだけでこちらの攻撃は簡単に敵に当たった。
けれど、目の前のスモールラットはゲーム画面のようにじっとしているわけではなかった。こちらの攻撃を避ける為にスモールラットは動き回った。そのせいで攻撃を繰り出してもなかなか当たらないし、反撃を受けて腕を引っかかれた時はすごく痛かった。
私はその時、この世界は“現実”なのだとひどく痛感し、冒険者とはこういった危険と隣り合わせなのだと自覚した。
物思いに耽っていた私は、ハッと我に返る。
とりあえずこのカムラグ草の採取依頼を受けよう。ついでにこのヒルカリ草の採取依頼も。ヒルカリ草はサルビアに来る途中で結構大量に採ってあるのだ。
私は二枚の依頼書を掲示板から取って、受付してもらう為に受付カウンターに向かった。
「すみません、この依頼を受けたいのですが……」
「かしこまりました。依頼書と冒険者カードの提示をお願いします」
カウンターにいた職員のお姉さんに依頼書と冒険者カードを出せば、職員のお姉さんは少し驚いた表情を見せた。
「二つも同時に依頼を受けられるのですか?」
「え? ダ、ダメでしたか……?」
「いえ、禁止されているわけではありませんが……。新人の冒険者が複数の依頼を同時に受ける事を推奨してはいないんです」
なぜ私が新人だとわかった!? ……って、そっか。ここからさっきまでいた真ん中の受付は目と鼻の先で、様子は丸見えだ。先ほど私が冒険者登録をしているところを見ていたのだろう。
それにしても、どうして新人の冒険者は複数の依頼を同時に受けてはいけないのだろう?
……あー、なるほど。
依頼を達成できなければギルドの信用にかかわる。
冒険者の登録をしたばかりの新人の実力なんてまだわからないし、信用も何もない。そんな人物がいきなり複数の依頼を受けようとするのは、ギルドとしては容認できないという事か。
なるほど納得。
でも、今回私が受けたヒルカリ草の採取依頼は今すぐ達成できるものだから、ギルドの信用が落ちるような事はないだろう。
「あの、このヒルカリ草の採取依頼なんですが、実はこの町に来る途中で必要数を採取済みでして……」
私はマジックバックからヒルカリ草を取り出してカウンターの上に置いた。
職員のお姉さんはまた少し驚いた表情を見せると、それから虫眼鏡に似たアイテムを取り出した。
「では、素材の品質を確認させていただきます」
職員のお姉さんはそう言うと、私が出したヒルカリ草を一つ一つ手に取って虫眼鏡越しに見始めた。
彼女が使っているアイテムは初めて見るものだったので、私はこっそりと特殊スキル“解析鑑定”を発動した。
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【鑑定メガネ】
アイテムの品質を
調べる為の魔道具。
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ほほー。鑑定メガネか……。
魔道具だから使用するには魔力が必要になるのだろうが、これさえあれば鑑定スキルを持っていない人でもアイテムの品質を見る事ができるようだ。何とも便利なアイテムだ。
……ん? あれ? という事はもしかして……もしかしなくとも、ヒルカリ草の品質が悪ければ例え必要数を揃えていても依頼達成にはならないという事か!?
ゲームだと品質チェックなんてなかったから失念してた!
そりゃそうだよね! 納品したものがボロボロの草だったらダメに決まってるよね!
マジックバックの中に入れてたから劣化はしてないと思うけど、そもそも採取したヒルカリ草の品質なんて確認してなかった。依頼達成にはどのくらいの品質のものであればいいんだろう?
ドキドキしながら待っていれば、やがて職員のお姉さんが鑑定メガネを置いた。
「確認しました。どれも高品質のものになりますので、ヒルカリ草の採取依頼は達成となります」
職員のお姉さんの言葉にほっと胸を撫で下ろす。
聞いてみれば、素材採取の依頼を達成するには基本的には品質は“普通”のものでも問題ないのだが、物によっては高品質以上でないとダメだったり、依頼主側から品質を指定された場合は指定された品質の物を納品出来ないと依頼達成にはならないそうだ。
順番は逆になってしまったが、職員のお姉さんはヒルカリ草の採取依頼の受注手続きを行い、次いで依頼達成の手続きを行った。
「それでは報酬をお支払いいたしますね」




