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番外編 とある黄金色の髪の冒険者のお話②

「第33話 夜の出来事」のディック視点のお話です。


 夜。なんとなく寝付けなくて、目が覚めた。そのままベッドに横になっていても眠気が来そうになかったから、ちょっと外を散歩でもするかと部屋を出る。

 すると、一階から何やら物音が聞こえてきた。

 グレイグさんが明日の仕込みでもしているのかと思い、音の発生源である食堂に入ってみれば、そこにいたのは思い描いていた人物とは違っていた。


「……フィリア?」


 声をかけてみれば、フィリアが振り返る。

 どうしてこいつが厨房にいるんだ?


「何してんだ? こんな時間に……」

「ポーションを作ってたの」

「ポーション?」


 なんでも手持ちのポーションの在庫が減ってきたから、グレイグさんの許可を得て厨房を借りてポーションを作っているという。俺はフィリアの手元を覗き込んだ。


「お前、ポーションなんて作れたのか?」

「うん。……あれ? 言ってなかったっけ?」


 聞いてねえよ。


 ……あ。グレイグさんに厨房の使用許可をもらったって事は、グレイグさんはこいつがポーションを作れることを知ってたってことだよな……。いつから知ってたんだ?


 …………。


「ポーションって、こんな風に作るんだな。初めて見た」


 気を紛らわせるために、フィリアに話しかける。

 実際、俺はポーションの精製風景を見たのは初めてだ。


「そうなの?」

「薬師じゃねーからな。ポーションとかは店で買うわ」


 普通そうだろう。

 ポーションなどの薬を作る為には、魔力をものすごく細かく操作する必要があるって話だ。って事は、こいつ“魔力操作”を覚えてんのか……。


 俺は思わずため息を吐く。


「全属性の魔法を覚えてて、さらにはポーションを自力で作れるって……。お前、実はとんでもねぇヤツだな」

「そ、そんなことな……」

「ある」

「……ウッス」


 冒険者なんて危険な仕事をしなくても、薬師として安全に金を稼げんのに、なんでこいつは冒険者になったんだ?

 理由を考えてみて、ムカツク顔が浮かんだので手を振って消す。

 やめだやめだ。そんな事考えても、イラつくだけだ。

 俺は、フィリアがポーションを作っている様子をしばらく見学する事にした。薬草を千切って鍋の中に入れて、魔力を注ぎながら煮込んでいる。傍から見てると料理を作っているみたいだ。


 ……あ。


 先ほどから何か違和感を感じると思っていたが、その理由がわかった。

 フィリアの髪型だ。

 普段は下ろされているそれが、後ろで高い位置でひとつに結ばれている。フィリアが動くたびに後ろで結ばれている髪がまるで尻尾の様に揺れていた。


 ……うなじ……。


 いつもは髪で隠れている部分が露わになっている。

 白くて、細い――。


「……あの、ディックさん」

「あ?」

「そんなに見られたら、集中できないんですが……」


 フィリアにそう言われて、俺はさっきまで自分が何を考えていたのかを思い出し、一瞬にして顔に熱が集まった。


「はっ、はあっ!? べつっ、別に見てねえよ!?」

「いや、見てたよね?」

「み・て・ね・え・よ!!」

「いひゃい、いひゃい!!」


 ふざけた事を言うフィリアの頬を思い切り引っ張る。

 ……柔らけぇな、こいつ……じゃねえって!!


「バカな事言ってねえで、さっさとポーション作っちまえよ!」

「あい……」


 フィリアの頬から手を離し、真っ赤になっているであろう顔を見られたくなくて、顔を背ける。後ろからはフィリアが作業している音が聞こえる。気持ちを落ち着かせて振り返ってみれば、ちょうどフィリアがポーションを一本作り終えたところだった。


「はい! 出来ました!」


 どこか自慢げに出来上がったポーションの入った薬瓶を見せつけてきたフィリアに、小さくだが拍手を送る。


「傍から見てると、結構簡単に作れそうだな」

「せっかくだし作ってみる?」

「いや、無理だろ?」


 俺は魔力操作のスキルを覚えていないから、ポーションを作るなんて出来やしない。作り方を教えると言ってくるフィリアに、もう一度断りの言葉を返す。


「ちょっとだけ! ね? ちょっとだけやってみない?」

「嫌だっての」


 なんか、フィリアの言い方、若い女に縋るおっさんみたいな感じだな……。


「そんじゃ、俺寝るわ。邪魔して悪かったな」

「あっ! ちょっと待って! ディック!」


 作業の邪魔をしたくなくて厨房から出て行こうとすれば、呼び止められてしまった。またポーション作りをしてこないかと誘ってくるつもりかと思っていれば、フィリアはジャイアントラビットから助けてもらったお礼だとか言って、俺に何本ものポーションを手渡してきた。


「いや貰えねえよ!?」

「え? なんで?」

「なんでって、これはお前が自分の為に作ったもんだろうが!」

「そうだけど……。でも、言ったじゃん。“お礼”だって。私、ディックたちにたくさんお世話になってるのに何のお返しもしてないな、って思ってさ。こんな物じゃ足りないだろうけど、貰ってくれると嬉しいな」


 いや! 十分すぎるほどのお返しだし、そもそも見返りを求めてやってはいない。ジャイアントラビットの件は、目の前で殺されそうになってるヤツがいたら誰だって助けるだろ? 普通。それに双剣の特訓に付き合ったのだって、俺がしたくてやった事だ。


 ……けど、ここで貰えないと拒み続けたらフィリアを困らせるだけだしな……。


「……わかった。ありがとな、フィリア」

「こちらこそ! いつもありがとう」


 有難く回復薬やら解毒薬などのポーションを貰って部屋に帰ろうとしたら、フィリアから声をかけられた。


「おやすみ、ディック!」

「おう。おやすみ」


 フィリアと別れて食堂から出た俺は、すぐ横の壁に背を預けて座り込んだ。


「はぁ〰〰〰〰……」


 なんであいつ髪の毛結んでんだよ!

 なんであいつの頬あんなに柔らかかったんだよ!

 ああああもう! マジやばかった……!!


 カチャン、と腕の中にあった薬瓶がぶつかって音が鳴る。それを手に取って頬に当てて見れば、ひんやりとして気持ちが良かった。


 ……うん、よし。落ち着いた。


 俺は立ち上がり、部屋に戻る為に階段を上った。




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